第81話・最強の弱点

 優先すべきは初代はつしろ新生ねおの救出。しかし彼女とティラノ達との間にはこれでもかと言う程の障害物があった。ゴツゴツとした大岩と3メートル級ゴーレムに道を塞がれ、更にはその先にグレムリンとバルログがいる。これではすばしっこいベルノでもすり抜けるのはかなり無謀だろう。ふざけた言動ではあるが、侮って良い相手ではないことを皆ひしひしと感じていた。

 

「ゴーレムども、こいつらを捕まえるっぺ」


 初代新生を取り囲んでいたクレイゴーレムの一団は、グレムリンの指示通りティラノ達を取り囲もうと動き出した。魔法で生み出した人形を戦わせることで、実力を計ろうとでも言うのだろうか。しかし、パワーはありそうだが動き自体はかなり鈍重。どう考えてもティラノ達の相手が出来るとは思えない。


「なぁなぁ、アレ殴っていいか?」

「イイと……思う。デス」

「ですわね。生物ではありませんし、破壊してしまいましょう」


 そうとなれば行動が早いバトルマニア。ティラノは抜刀の構えから、のっそりと歩いてくるクレイゴーレムの一団に向かって木刀を振り払った。


 ——軽い衝撃波がゴーレムの上半身を砕く。


 これは力をセーブしたレックス・ブラストの簡易版と言った感じだ。腰に溜めた闘気オーラを撃ち出すのではなく、手首の力だけで発生させる衝撃波。アンジーの言う『力のセーブ』と、そして攻撃方向にいる初代新生の安全を考えての選択だったと思う。

 ラミアは衝撃波の合間に魔法を放ち、ガイアは虹羽根アイリス・ウイングでグレムリン達への牽制をと、それぞれ受け持っていた。そして一体、そしてまた一体と、クレイゴーレムを次々に破壊していくティラノ。しかし……


「なんだ、こいつら」

「動き……おかしい。デス」


 皆がいぶかしがるのも無理はない。魔法で作られた無生命体は、上半身を破壊されても歩みを止めず、ジリジリと間を詰めてくる。クレイゴーレムは、いつの間にかティラノ達を囲うように動いていた。3メートルもの物体が横一列に並んでいたから、両端を視界のすみに捉えていても、その動きには対処のしようがない。壊されても少しずつ再生しながら囲んでくる巨大無機物。


「破壊しても動けるだなんて、こんな魔法聞いたことないよ」


 魔王軍、ひいては異世界のことを知るラミアですら知らない魔法とあっては、対処の仕様がない。そしてティラノ達はじわじわと間合いを詰められ、完全に囲まれてしまっていた。


「お前様方はそのまま大人しくしているっペよ」


 囲みの輪が段々と狭くなり、突然ぴたりと止まった。直後、クレイゴーレムの身体が崩れ始める。


「これは……マズい。デス」


 そして、崩れると同時に盛り上がり、円柱状の壁を構築していく。その壁はどんどんどんどんと競り上がり、四人は、巨大なコップの底に入れられたような状態になってしまった。


「やられました。密集していたのが仇になりましたわね」


 最初に事態を重く見たのはラミアだった。この状況がなにを意味するのか。それはグレムリンのやり口を知っているからこそ気が付いたのだろう。


「このくらい俺様のレックスブレードで……」


 目に見えるほどのオーラが足元から立ち上がり、ティラノサウルスの形になる。木刀を上段に振り上げ……


「すとっぷニャ! 駄目ニャ!」

「ティラノさん、ストップです」

「なんだよ、二人して止めるのかよ~」

「ティラノ……着いて周りを見る。デス」


 皆に止められ、肺に貯めていた息を吐き、周りを見回すティラノ。直径3メートルほどの円柱状の空間。空は見えるが壁は遥か上まで伸び、それは到底ジャンプして超えられる高さではなかった。壁にはサラサラと砂が流れていて掴める場所もない。これを登るのはまず不可能だろう。

 さらには普通に殴るだけでは破壊出来ない厚みのある壁。素材は足元にある無尽蔵の砂だ。軽く小突いてみたが、少しばかり壊してもすぐに修繕されてしまう。そうなると、やはりここは一撃で破壊するだけの威力のある技が必要ということになる。


「やっぱりレックス・ブレードしか……」

「——だめですって」


 ティラノ達の会話が聞こえていたのだろう、壁の向こうからグレムリンが話しかけて来た。


「ぺぺっ! お前様、ティラノサウルスじゃろ」

「だったらなんだよ」

「それがお前様の弱点だっぺな」

「はあ? 俺様が俺様の弱点とか何言ってんだ? わけわかんね」


 多分、ティラノの技はかなり細かく研究されていたのだと思う。超絶威力のレックス・ブレードを撃ち出した時、その周りには有り余ったエネルギーが放出される。もちろん、本人の身体にかかる負担はかなりのもので、それを可能にしているのが暴君・ティラノサウルスの強靭な肉体だ。

 しかし今、この中にいるのはそこまで耐久力のある身体を持っている者ばかりではない。ましてやベルノという猫幼女までいる。


「ヒョヒョ、味方を犠牲にシテでもレックス・ブレードとやらを撃テるのかや?」


 その一言で“弱点”の意味を理解したティラノ。数十秒前、考えなしに撃とうとした自分を思い出して、冷や汗が噴き出たことだろう。


「毛玉の言う通りニャ」

「こんな狭い空間であなたが全力を出したら……」

「みんな……巻き込まれる。デス」


 技を繰り出した時の衝撃は狭い空間の中に閉じ込められて逃げ場がない。その圧縮された反動ダメージを……四人が四人とも受けることになってしまう。ここから脱出できたとしても、ティラノ以外の三人が戦闘不能になってしまったら意味がない。……まさしく、最恐ゆえの弱点だった。



「さてと、とりあえずこっちの猫人を始末するっぺよ」






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