第30話・起死回生

 太陽が差し込み、小川のせせらぎと咲き乱れる草花。キラキラとした最高の環境で、ドロドロとした最悪な現実。


 ――ティラノを初代はつしろ新生ねおに奪われた!?


 危惧していたことが実際に起きてしまった。もっともあってはならない事が。

「おい、女神。どういう事だよ」

〔約束珠……ジュラたまを奪って指にはめれば、その恐竜人ライズも奪えるという話はしたと思いますが?〕

「そうじゃなくて、初代新生の神さんは“それ”を入れ知恵したって事だろ? 神さん同士で対立でもしてんのか?」

〔と言われましても……私も、あなたに同じ情報を与えていますよ。その情報をどのように使うかはあなた方次第ですから〕

 ……なんでそんなに落ち着いた口調なんだよ。魔王軍追い返すには協力した方が断然有利なのに、わざわざ対立させる意味はないだろ。そもそもの話として、初代新生とやり合わなきゃならない理由すらないのに。


「おい、そのチビのジュラたまもよこせよ」

「ふざけるな、やる訳ないだろ。ティラちゃんを返せ!」

「負け犬の遠吠えってやつだな。取り返せるならやってみろよ……。やれ、ティラノ。こいつぶっ倒して持ってる指輪を全部奪うんだ!」


「うぅ……あ……亜、亜紀っち……ごめん……」 

 頭上に木刀を構えたまま、必死に抵抗しているティラノ。ジュラたまの持つ強制力が相当強力なものだって事がよくわかる。

「ふふ、さっさと負けを認めろ、クズ」

 クズクズクズクズって、確かに白亜紀ここに来る前はそうだったかもしれないけど。

「そんなウチでも信頼してくれている仲間が出来たんだ。裏切れないんだよ、そういうのは」

 とは言ったものの、結局は虚勢でしかないって事は良く解っている。だけど、ここで相手に屈するって事は、ウチの“異世界転生”という目標が実現できなくなるという事でもある。

 パワハラに負けて引き篭もった前世。そんなウチが白亜紀ここにきて、みんなのおかげでやっと前向きになれたんだ。

「彼女達を裏切る事だけは、絶対にしてはいけないんだ。例え、死ぬ事になっても」

〔しかし死んだらライズ達を守れませんよ? それは裏切った事になりませんか?〕


 ……なんでこんな時にド正論言うんだよ。


 確かにウチにはティラノの木刀を受けるだけの力はない。だけど、まだ手はあるんだ! それは、彼女の攻撃をかいくぐり、初代新生に直接攻撃を仕掛けて気絶させる。


 ――これが起死回生の一手!



「あ、そうそう、八白亜紀。うちの神さんって意外と優秀らしくてさ」

 ……何の話だ?

「お前がオレを直接狙ってくるんじゃないか? って予測してるんだけど」

「な……」

「お、当たり? うちの神さんマジ優秀じゃん」

 馬鹿にした笑いをウチに向ける初代新生。色々な感情が入り乱れていたけど、その表情をみた瞬間、怒りが込み上げてきた。

 笑えなくしてやる! そう思い踏み出そうとした時……。トリケラトプスの恐竜人ライズが初代新生の前に立ちはだかり、ウチに対しての絶対防御の姿勢をみせた。 

 初代新生までの間には、ティラノサウルスとトリケラトプスに加え、ウチに体当たりをしてきた娘もいる。


 だめだ、打つ手無しなのか? ベルノごめんな。みんな逃げてくれ。できるだけ遠くに、初代新生こいつにだけはライズされないで。女神さん、みんなを誘導して逃してほしい。

 ウチには、そんな事を願う事しか出来なかった。


「――亜紀っち避けてくれ。頼む!」 

 ティラノの意志に反して、容赦なく振り下ろされる木刀。空気を切り裂く爆音をまとった一撃が、何も出来ないウチに迫っていた。





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