ジュラシック・テイル ～猫耳転生と恐竜少女～

第13話・痛いの痛いの……。

　これで四人。あと一人でカバンから色々な食材が取り出せるようになるんだ。大自然の弱肉強食の理（ことわり）に反してしまうけど、しっかりと食事を用意して、仲間同士で捕食し合うなんて事がなくなれば良いと思う。

　人類が誕生してからは、特別な事案を除いて人間同士で捕食するという事はない。つまり、ほんの一億五千万年程度人類の意識が早まっただけの話だ。

　それにしても、あまりにアッサリと受諾したから『何か裏があるんじゃないか？』って思ってしまったけど、ウチの“モチベーション維持の為”という理由は信用しても良さそうに思えた。

　そして、その時にもう一つ。ウチにとって思いっきり重要で思いっきりモチベーションが上がって思いっきりエクセレントな頼み事をしていた。

　――魔王軍から地球を守ったら異世界転生させてくれ！

　もちろん女神さんは渋ったけど、“最後までやり遂げる原動力になるのなら”という事で『一応考えておきます』と言われた。一応でもいい、考慮出来るという事は可能か不可能かで言ったら可能って事なんだから。

　とにかく今のウチは……

「やる気MAXやで！」

〔から回りしなければ良いのですが〕

「もう、女神さんいけず（（注））や……」

♢

「あ、ところでティラちゃん」

「ん？　なんだ？」

「……木から降ろして」

「ちっ、世話の焼ける奴だな」

　とかなんとか言いながら助けてくれるいい娘（こ）なんだよな。ウチが男なら絶対嫁にすると思う。言葉使いはヤンチャ系だけど、何気に世話好きなんだよね、この娘。

「気合、入れとけよ！！」

「……はい？」

　腰を落として低く構えて精神集中。オーラが見える……気がする。次の瞬間ティラノは力を込めたローキックを木の幹にブチかました！　

「うおおい……」

　マジか、大気が震えたぞ。物凄い振動が幹から枝に伝わり、木に掛けていた爪がアッサリ外れてしまった。

　――当然、落ちる。

「ウチはカナブンか……」

　危機一髪！　地面にあと三十センチと言った辺りでプチがウチの足を掴み、地面とのキスを回避してくれた。

　助かった……前言撤回、嫁にするならやはり優しい子がいい。

「む、無理ですぅ～重いですぅ～」

　うむ、体力ないのね、この娘は。

　……そして、地面にディープキスをしているウチがいた。

　まあ、ウチを持ち上げて飛べるのなら、川に流された時に直接拾い上げてくれただろうし。

　顔中砂まみれの擦り傷だらけ。傷を治そうとミルクチョコを取り出そうとした時だ。ウチの行動を見て女神さんがひと言……またもや最初に行っておいて欲しい情報が出て来た。

〔ミルクチョコで体力や怪我が回復するのは恐竜人のみです〕

「マジか。ウチは回復しないのか……」

　治らないとなると、やたらと気になる。気になると余計に痛みが増してくる気がする。紙で切った指先一センチの傷が、必要以上に痛く感じるあれだな。

「ネネ、大丈夫ニャ？　痛いとこ撫でるニャ！」

「ありがとな～ベルノ」

　マジで優しい娘だよ、ベルノは。もう、その気持ちだけで十分だぞ。

「痛いの痛いの……飛んでくニャ！」

　短い手を動かして一生懸命ウチの頬を撫で、そして投げ捨ててくれた。なんかもう、ほわわ～んとしてきたわ。痛いが飛んでる気がする“ほわわ～ん”と。

「よし、治った！！」

　――バシッ！！

「い、痛いですぅ～」

「プチちゃん？」

「な、何か急に”痛い”のが飛んできて……」

「ネネの”痛い”飛ばしたニャ！」

「え……マジ！？」

　ベルノってば、ウチの怪我をプチに移したのか。いや、移したというよりも、投げた”痛い”に当たったら移るって事か。自分の顔を触ってみると、直前まであった擦り傷が一つもない。治った気分になっていたけど、本当に治っていたとは……。

「すげー！　すげーし可愛い！　そして……めっちゃすげー！」

〔語彙力……〕

「うう……こっちに投げないでくださいぃ～」

　涙目で訴えるプチ。うん、なんかゴメン！

〔ところでキティさん、何かから逃げていた様ですが？〕

　何が起きているのか考えが及ばずに“キョトン”としているキティ。そりゃそうだよな。いきなり恐竜人（ライズ）になったと思ったら、ティラノの蹴りでウチが落ちてプチが助け損ねてベルノが痛いのを飛ばしたなんて状況を理解出来る訳がない。

　多分そんな彼女の状況を見かねた女神さんが、助け舟を出してくれたのだと思う。

「ああ、オラ、川で水を飲んでいたんすけど……（キリッ）」

「もしかしてワニみたいなのが襲ってきた？」

「んだ。突然だったから、もう驚いてしまって（キリッ）」

「ひぇ……あ、あのワニさん、仲間がいたのですね……」　

　仲間かどうかは置いといて、三メートル程もある恐竜を襲うって、そいつはかなりの大きさがあるって事だよね。これまた十分警戒せねば……。

「とりあえず水泳部の仲間も作っておきたいし、ちょっと行ってみるか～」

「行ってみるか～って、俺様達にも着いて来いってんだろ？」

「そうそう、流石ティラちゃん！」

「まったく、世話が焼けるぜ」

「焼けるニャ！」

　今チームを分ける意味も必要性もないし、結局は全員で移動するのがベストな選択だ。と、皆で上流に向かおうとしたところを止めるキティ。

「そっちじゃないだす（キリッ）」

「ん？　この川じゃない？」

　他にも川流れてたのか。まあ、そりゃそうだよな。この川の支流だってあるのが当たり前だし、来たばかりで地理がまったくわからないしで……あとで地図とか作らなきゃな。

「スマホの地図アプリとか欲しいわ～」

〔今スマホがあっても、使えるのは一億五千万年後くらいですね〕

「そのツッコミ、悲しくなるからやめてクレメンス！」

〔そのネタが通用するのも一億五千万年後くらいで……〕

　女神さんいけずや……。

「んで、結局どっちいきゃいいんだ？」

「こっちの岩山の……（キリッ）」

「ワニもどきめ、すでに陸地にあがってたのか」

　そして隠れて襲うとか小癪な奴だ。……うむ、そういうの好きだわ。仲間にしたるぞ！

「上から降ってきただす（キリッ）」

「……はい？　なんですと？」

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（注）いけず

関西地方の方言で意地が悪いこと。また、そういう人や、そのさま。会話相手との間柄や文脈の前後によって、悪意としての意味と軽口としての意味がある。八白亜紀の一言は後者。

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