第13話・痛いの痛いの……。
これで四人。あと一人でカバンから色々な食材が取り出せるようになるんだ。大自然の弱肉強食の
有史以来、特別な事案を除いて人間同士で捕食するということはない。つまり、
それにしても、あまりにアッサリと受諾したから『何か裏があるんじゃないか？』って思ってしまったけど、ウチの“モチベーション維持の為”という理由は信用しても良さそうに思えた。
そして、そのときにもう一つ。ウチにとって思いっきり重要で思いっきりテンションが上がって思いっきりエクセレントな頼み事をしていた。
――魔王軍から地球を守ったら異世界転生させてくれ！
これこれ、これだよ！ もちろん女神さんは渋ったけど、『最後までやり遂げる原動力になるのなら』と前置きをした上で『一応考えておきます』と言われた。一応でもいい、考慮出来るということは
「とにかく今のウチはやる気MAXやで！」
〔から回りしなければ良いのですが〕
「もう、女神さん
♢
「あ、ところでティラちゃん」
「ん？ なんだ？」
「……木から降ろして」
「ちっ、世話の焼ける奴だな」
とかなんとか言いながら助けてくれるいい
「気合、入れとけよ！！」
「……はい？」
腰を落として低く構えて精神集中。
「うおおい……」
マジか、大気が震えたぞ。ズドンッと物凄い振動が幹から枝に伝わり、木に掛けていた爪がアッサリ外れてしまった。
……当然、落ちる。
「ウチはカナブンか」
危機一髪！ 地面にあと30センチと言った辺りでプチがウチの足を掴み、地面とのキスを回避してくれた。
助かった……前言撤回、嫁にするならやはり優しい子がいい。
「む、無理ですぅ～重いですぅ～」
うむ、体力ないのね、この娘は。……そして、地面にディープキスをしているウチがいた。
まあ、ウチを持ち上げて飛べるのなら、川に流されたときに直接拾い上げてくれただろうし。
顔中砂まみれの擦り傷だらけ。傷を治そうとミルクチョコを取り出そうとしていると、ウチの行動を見て女神さんがひと言。……またもや最初に言っておいて欲しい情報が出て来た。
〔ミルクチョコで体力や怪我が回復するのは
「マジか。ウチは回復しないのか……」
治らないとなると、やたらと気になる。気になると余計に痛みが増してくる気がする。紙で切った指先一センチの傷が、必要以上に痛く感じるあれだな。
「ネネ、大丈夫ニャ？ 痛いとこ撫でるニャ！」
「ありがとな～ベルノ」
マジで優しい娘だよ、ベルノは。もう、その気持ちだけで十分だぞ。
「痛いの痛いの……飛んでくニャ！」
短い手を動かして一生懸命ウチの頬を撫で、そして投げ捨ててくれた。なんかもう、ほわわ～んとしてきたわ。痛いが飛んでる気がする“ほわわ～ん”と。
「よし、治った！！」
――バシッ！！
「い、痛いですぅ～」
「プチちゃん？」
「な、何か急に”痛い”のが飛んできて……」
「ネネの”痛い”飛ばしたニャ！」
「え……マジ！？」
ベルノってば、ウチの怪我をプチに移したの？ いや、移したというよりも、投げた”痛い”に当たったら移るのか。自分の顔を触ってみると、直前まであった擦り傷が一つもない。治った気分になっていたけど、本当に治っていたとは。
「すげー！ すげーし可愛い！ そして……めっちゃすげー！」
〔語彙力……〕
「うう……こっちに投げないでくださいぃ～」
涙目で訴えるプチの横で、何が起きているのか考えが及ばずに“キョトン”としているキティ。そりゃそうだよな。
〔ところでキティさん、何かから逃げていた様ですが？〕
多分そんな彼女の状況を見かねた女神さんが、助け舟を出してくれたのだろう。
「ああ、オラ、川で水を飲んでいたんすけど……（キリッ）」
「もしかしてワニみたいなのが襲ってきた？」
「んだ。突然だったから、もう驚いてしまって（キリッ）」
「ひぇ……あ、あのワニさん、仲間がいたのですね……」
仲間かどうかは置いといて、3メートル程もある恐竜を襲うって、そいつはかなりの大きさがあるって事だよね。これまた十分警戒せねば。
「とりあえず水泳部の仲間も作っておきたいし、ちょっと行ってみるか～」
「行ってみるか～って、俺様達にもついて来いってんだろ？」
「そうそう、流石ティラちゃん！」
「まったく、世話が焼けるぜ」
「焼けるニャ！」
今チームを分ける意味も必要性もないし、結局は全員で移動するのがベストな選択だ。と、皆で上流に向かおうとしたところを止めるキティ。
「そっちじゃないだす（キリッ）」
「ん？ この川じゃない？」
他にも川流れてたのか。まあ、そりゃそうだよな。この川の支流だってあるのが当たり前だし、来たばかりで地理がまったくわからないしで……あとで地図とか作らなきゃ。
「スマホの地図アプリとか欲しいわ～」
〔今スマホがあっても、使えるのは一億五千万年後くらいですね〕
「そのツッコミ、悲しくなるからやめてクレメンス！」
〔そのネタが通用するのも一億五千万年後くらいで……〕
女神さんいけずや……。
「んで、結局どっちいきゃいいんだ？」
「こっちの岩山の……（キリッ）」
「ワニもどきめ、すでに陸地にあがってたのか」
そして隠れて襲うとか小癪な奴だ。……うむ、そういうの好きだわ。仲間にしたるぞ！
「
「……はい？ なんですと？」
――――――――――――――――――――――――――――
（注）いけず
関西地方の方言で意地が悪いこと。また、そういう人や、そのさま。会話相手との間柄や文脈の前後によって、悪意としての意味と軽口としての意味がある。八白亜紀の一言は後者。
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