夜月病

梨実さん

夜月病

「鴨なんてはじめてみた」

「京都はいろんな鳥がいるよね」

「鴨川って名前だし」

「お金のかからない遊びが好きだ、散歩なんかとくに」

「ギターやってるのもそういう?」

「そう。ギター持ってきて川のほとりで弾きたいなあ」

「肩こりそう」

「絶対こる」

私は昼下がりの川沿いをライトグリーンのママチャリを押しながら、入学後にできた友人と南に南に下っていた。

あたたかな陽気に包まれて、川の流れに光が反射してきらりきらりと輝いている。両岸は歩きやすいように舗装され、草木はほどよく低い。べらぼうに伸びて、むんむんとした湿気を放つ故郷の雑草とは大違いだ。

「GW終わるけど、どうだった?バンドの進捗は?」

「ドラマーが見つからない、まあ、おいおい考えるよ。それより、きつかったよGW」

「え~?ぼくはGW終わるの悲しすぎるんだが」

「人と会わないのがどうにも..ね。病み散らかして、体調もくずしてしまったし。友達が家に来てくれて片付けしてくれたのだけど、それが良かった」

「やっぱり外に出るのがいいよ、こうやって。本当に過ごしやすい街だ」

「それもそうだね、僕も自転車いいかげん買おうかな」


日が暮れる。分かれて、ペダルに足をかける。下宿のすぐ近くまで帰ってきていたので、すぐに自転車を停めて階段を上がる。

一歩。

一歩。

のぼるたびに疲労感が大きくなる。

暗い自室。入ったとたんに、水を浴びる気力すら失われて座り込む。

放置された段ボール。

SNSの光が瞳に映る。


左手で涙をぬぐう。


傷だらけの左手で。

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夜月病 梨実さん @ban_do_taro

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