敵国に送られた王女が母国より良い暮らしを送るようです
@3960
第1話
大国ハルバルドの王城地下。
一部の王族しかその存在を知らない通路を抜けた先……罪を犯した王族が閉じ込められる部屋、通称『監禁部屋』に帝国ローレヌの第三皇女アリシアは閉じ込められていた。
一ヶ月に渡る監禁生活によって、ガリガリに痩せ細っていた体はふっくらと健康的な体へと生まれ変わり、更に病人のように青白かった肌は一日三食キチンと出される食事のお陰で血色が良くなり、頬に薄紅が差すほど改善していた。
当初、人質として大国ハルバルドに差し出された頃は酷い扱いを受けるものだと思い部屋の隅で震えていたアリシアだが、今は食卓机に用意された朝食に目を輝かせており、帝国にいた頃の彼女を知っている者ならば「人質として敵国に送られた筈なのになんか帝国にいた頃より良い暮らししてませんか!?」と驚くに違いないだろう。
それ程までに大国ハルバルドのアリシアに対する待遇は破格の物で、それこそ一ヶ月という短い期間の間に母国ローレヌに帰りたくないという気持ちがアリシアの中に芽生えるほど、大国ハルバルドでの暮らしは帝国で虐げられていたアリシアにとって……最高の暮らしだった。
だが、監禁部屋に据え置かれた水晶を通してこんがりと小麦色に焼けたパンを頬張るアリシアを見つめている大国ハルバルドの王子ハーヴァはかつてないほど苛立っていた。
国王である父親から人質として帝国から送られてきた皇女アリシアに自分の立場を分からせてやれと言われ……それを実行するべく、娯楽を与えず、日の光が届かない部屋に閉じ込めて、食事だって一日三食質素な食事を出すだけで嗜好品の類など全く与えなかった。
普通なら屈辱に顔を歪める待遇の筈だ。それが王族なら尚更の事。なのにまるで気にしていない。むしろ高待遇を受けているかのように振る舞うアリシアにハーヴァは奥歯をギリッと噛み締める。
(全く、なんなんだこの皇女は……!! 普通、一日三食質素な食事しか出されず、さらに朝昼晩の茶の時間が設けられていなかったら怒りで気が狂う程の屈辱を感じる筈だろうが……!!!)
アリシアが帝国で受けていた仕打ちを知らないが故に、アリシアにとって最高の環境を提供していることに気が付いていないハーヴァは苛立ち紛れに水晶越しにアリシアを睨み付ける。が、ハーヴァの視線に気付いていないアリシアは尚もパンを頬張り続けてムフッ~と頬を緩ませる。その幸せそうなアリシアの態度にますます苛立ったハーヴァは水晶越しに皮肉の一つや二つ言ってやろうと口を開いた時。コンコンと控え目に執務室の扉がノックされた。
「……チッ、入れ」
苛立ち混じりにハーヴァが入室を許可すると、小さな箱を抱えた従者が恭しく一礼して部屋に入ってきた。
「……失礼します、ハーヴァ殿下。国王陛下からのお荷物をお持ち致しました。」
「父上から荷物?ああ……婚約者候補の姿絵か。」
大国ハルバルドの王子であるにも関わらずなかなか婚約者を作ろうとしないハーヴァを心配して、父親であるハルバルド王がハーヴァに国内・属国の貴族令嬢達の姿絵を送ってくる事はなんら珍しいことではない。だから、ハーヴァは姿絵が入っている箱にしては些か小さい箱に特に何の疑問も抱かず、従者に箱を開ける様に指示を送り、ハーヴァの指示を受けた従者は「かしこまりました」と恭しく頷くと、持っていた箱の蓋を開けて…………ピタリと手を止めた。
「ん?どうした?好みの女の姿絵でも入っていたか?」
従者の様子を不思議に思ったハーヴァがそう冗談混じりに問い掛けると従者は少し困った様な顔をしてハーヴァの言葉に首を横に振る。ハーヴァは従者の反応に怪訝そうな顔をして「…じゃあ一体どうしたんだ?」と再び問い掛けると従者は言いづらそうに口を開き、一言……
「……女性用の下着が入っていました」
……と、言った。
「は?女性用の……下着だと?」
予想外の従者の言葉に眉尻を上げたハーヴァが聞き返すと、従者はコクリと無言で頷き、持っていた小箱を執務机の上に置いた。すると、ハーヴァの視界にフリフリのレースがふんだんにあしらわれた可愛らしい……だけど扇情的な下着一式とそれに添えられる様に白い手紙が現れて、思わずハーヴァは「な、なんだこのめちゃくちゃえっちな下着は!?」と叫びそうになった。だが、流石は大国ハルバルドの王子と言うべきか。ハーヴァは喉の奥から出掛かった言葉を飲み込み、そして、震える手で白い封筒を手に取り……封を開けた。
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