第九話 父親の思い(sideクレイ)

「旅だってしまったな、テディ」

「そうね、貴方」


 学園で強くなる為に、この皇国で背中を後押しし見送った訳なのだが。


 15年は本当にあっという間で私達から巣立つ姿を見るのは何とも感慨深く思えるな。


 しかし、強くなれ騎士になれと教えてきたが間違いだったのかもしれない、息子を騎士にするのは皇国の貴族としての義務なのだが、スロウスは騎士をやる様な柄ではないからな。


 何故ならすぐに寝たがるからだ。


 隙あらば寝ようとするその執念には父親である私も呆れてしまう程に圧巻している。


 びっくりしたと言えば邪妖精…いや、もう家族だな。


 スロウスがフォルンという妖精の女の子を連れてきた時だ、会った時から既にスロウスとはもう仲がと言うか、繋がっている・・・・・・気がしたんだ。


 それが何故かは分からない。


 だが、分かることなのだがラティスがフォルンに対して恋敵を見るような目で見ていた事だ。


 昔からラティスがスロウスを好いているのは知っていたが、嫉妬する程にとは思っていなかった。


 スロウスも妹のように思っていたみたいだし。


 だけど最近は何故かスロウスがラティスを避けているみたいでラティスが落ち込んでいたのは見て取れた。


 でもその内にフォルンとラティスが和解し仲が深まっていくのも影からそっと見ていたから知っている、テディも。


「元気にやってるかな、いや、もう寝ているか」


「えぇ、明日が入学式、いえ入学式前の試験ですもの。スロウスには敢えて知らせてはいませんがあの子なら乗り越えますよ」


 そう明日は入学式前の試験なのだ、本当にこの学校に入るべきなのか、厳重に厳密に生徒となる者たちを審査する場である。


 昔はそんなことは無かったのだが新しい学園長になってから入学式前の試験が作られた。


 合格する条件は、強さ。知識。この2つがあれば行けるらしい。これは、友人から聞いた話だ。


 それはそうとスロウスに友達が出来たら親としては嬉しいな、辺境伯の地位に生まれたあいつは、好き勝手に家から出れる訳もなくて、少しグレている所がある。


 まあ、そのグレはすぐにラティスによって鎮圧されたのだが、私としてはもっと強くなって慕われるようになりそこから、信じられる人間を選び抜いてスロウスが楽しく学園で生活をしてくれればいいと思っている。


「テディ、少し晩酌に付き合ってくれないか?あの子なら問題ないだろうがもしもの事を考えてしまうと、気が気でなくてな」


「あら、いいですよ?晩酌ならいつでも、ですが、明日の予定に支障の無い程度に、ですからね?スロウスの事もそうですけど、1番は健康ですから、」


「あぁ、構わないよ。ありがとう。テディ」


 立ち上がって、棚から瓶を取り出す。


 これは、いつか時間があればテディと飲もうと思っていた、東の国から取り寄せていた焼酎と呼ばれる希少な酒だ。


 予め、お湯に付けていた方が美味しいらしく45 °位の適温のお湯に付けていたのだ、こういうお酒の事を燗酒、その中でも上燗と呼ぶらしい


 コルクを外し、特殊な耐熱加工が施されたワイングラスに注ぐと透明な液体が湯気を立てながらトクトクと美しい音色を奏でる。


 そして、その燗酒から漂う仄かな香りは如何に美味であるかが容易に想像出来る、匂いだけでも旨みが伝わってくる、やはり東の国の技術は高いのだと改めて知った。


「テディ、飲もうか」

「えぇ、クレイ。もう楽しみでしょうがないじゃない、そんな香りが放たれてしまっては…」


 キンっと、小さくグラスを当ててゆっくりと燗酒の一口目を口に含む。


 口に広がる、少しキレのある味は飲みやすく、あっという間に口からその存在が消えていった。


 久々にテディと飲む酒はやはり美味しく感じられる、特別な人と飲む特別な酒。


 少し値は張るが、テディと飲めばそんな悩みも直ぐに吹っ飛ぶのだ。


「スロウス、お前なら出来る。父さんと母さんが応援してるからな」

「そうです、私たちは信じていますから。」


 今夜は満月、月光に当てられ煌めく星々は暗い大地を照らしていた。


 美しい景色を2人で眺めながら飲みながら、夜を明かしていたという。

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