第五話 道程

「坊っちゃま、坊っちゃま、起きてください」


「んん…あと5分…」


「そう言って起きないじゃないです…かッ!!」


 僕の布団を鷲掴みにし、思おっきり取り上げられる。


 僕のベッドを奪い取ったのは専属メイドのラティスだ。僕と同じ15歳のメイド。


 銀髪のロングヘアに桃色の瞳、白磁色の肌を持つ文字通り容姿端麗が似合う美少女で街に出れば何度も声をかけられるのが当たり前になってる感じ。


 この前一緒に買い物する時に声を掛けられても『私には、既に身も心も委ねるべき御相手が居りますので』とナンパ師を断っていた。


 好きな人が誰かも分からないけど。


 まあ、そんなラティスなのだが、この間の森探索もやばかった。


 ここに来るまでに何度、ラティスと追いかけっこしたことか…


 嗚呼、もう朝なのね…まだ寝ていたいのに…


 という顔をするが、思いっきし無視をされ、しょ―――がなく普段着に着替える。


 愛しい僕のパジャマよ、布団よベッドよ、また今夜会おう。


 なんてやってる暇はない!!やっちゃったけど!! 今日は、なんとですね学園入学なんです!!


「坊っちゃま、準備が整い次第、学園に向かいますよ。さあ、旦那様と奥様にご挨拶をしてください」


「あぁ、わかってるよ、」


 僕は、いや、俺は息を大きく吸い深呼吸をする。なんで一人称が変わったのかって?お父様にもう15になるのだから、一人称を「俺」に変えろと言われたからだ。


 大人になったら「私」にしなさいと言われているからな。


「お父様、お母様、今日まで15年間。ありがとうございました!!俺、お父様とお母様に認められる様な男に帰ってくるから!!待っててくれ!!」


「っ――…っクソ、泣かないって決めてたのに…っ、ふぅ…あぁ、大きくなって帰ってこい、スロウス!!」


「貴方ったら、、でもそうね、15年長いようで短かったわね、スロウス貴方の家はここにあります。ですから何時でも、帰ってきて下さいね」


 俺はお父様とお母様に頭を下げ、ラティスと共に学園へ向かう馬車へと足を運ぶ。


「はあ、学園かあ、、なんかやだな」


「お坊ちゃま、だめですよ、私も一緒に受けますので、心配はないでしょうがサボってはだめですよ、それにフォルン様もスロウスをサボらせたら許さないですからね?」


『私は私の為に動くだけよ?スロウスは面白いからついて行っただけなの』


「ラティスはお坊ちゃま呼びをいい加減やめろ、恥ずかしいから、あとフォルンは、たまに力貸すだけでいいや、」


 馬車へ乗り込み既にワイワイとしてすっかり和みきっていたが、そんな空気はあっという間に壊されてしまった。


「っ、山賊ですッ!!」


 そう、ここは日本じゃない。だから普通に山賊も海賊もいる。


 盗賊シーフもいるが、そいつらは普通にパーティで斥候という感じが多いらしいので問題は無い。


 そんな解説はさておき…と俺は扉を開けて剣を持ち外へと歩む。


「おいおい、お坊ちゃんが出てきたぞぉ??」


「金目の物を寄越しゃ命くれぇ助けてやるよォ??くっきゃきゃっ!」


「おいおぉい?剣を持ってるぜぇぇ?俺らと戦おうってのかぁ??」


 道を開けて貰わないと困るな、でも自分でやるのはめんどくさい、からよし!決めた!


「やっちまえ!“ドッペルゲンガー”!!」


 俺はそう宣言すると魔力を消費し俺を呼び出す。


「アイツらをやればいいんだな?俺」


「あぁ、思う存分やってくれ」


 そういうと、俺は俺に一瞥をしてきて音もせずに消える。


「っげ!?増えたと思ったら消えたぞ!?気をつけろ!!」


「どこだ!!あのガキ!!」


「いや、本体をやるぞ!!」


 盗賊の3人は一斉に本体である俺に飛びかかってきた。当たっていればとても殺傷能力が高いだろうが、当たらなければ問題は無いね


「フォルン!」


『はいはい、妖精の手品フェアリーマジック

      《睡魔を貪る虚空フォルン・ヴォイド》』


 山賊の剣はその場で静止する。いや、静止ではなく。ゆっくりと動いている。一定の空間に入ったところからゆっくりと。


 体は剣を離そうとするが決して離れない、何故なら空間が眠りかけているから。


 そんな隙丸出しな彼らを俺が後ろから柄で殴り気絶させる。


「はい、お疲れ様」


 俺は俺に声を掛けてスキルを解除する。


 そしてフォルンに向かい


「フォルンもお疲れ様」


『どうって事ないのよこれくらい』

ふふん、と満更でもなさそうな表情でドヤ顔をする。


「お坊ちゃ…スロウス様、終わったのでしたら行きましょう。」


「お前はすぐにでも戦えるだろうに…」


「私は馬車と馬車引きをお守りしていましたので、それにフォルン様とスロウス様なら余裕ですもの」


『ま、余裕だけどね!私戻るね』


 そう言ってフォルンは俺の中に入っていく。相変わらずの不快感、だが入っていくと安心に変わっていく不思議な感覚だ。


 俺は馬車に乗り込み、再び学園へと向かうのだった。

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