廃墟街

小雨(こあめ、小飴)

霜の降りる朝

 家のドアをゆっくりと開ける。鍵はかかっておらず、きしみながらひらき、外の明かりが家の中を照らす。この街は数十年前に立ち退き勧告が出て、廃墟となった街だ。しかし実際に立ち退きの原因となった計画は保留となり、静まり返り誰もいない建物の密集地になっている。

 ここに来たのは今回が初めてではない。もう3回目になるだろうか、ある少女の失踪事件の捜索依頼が来てから目撃情報をたどり、この街についた。最初に来たときは薄気味悪いと思っていたが、今はさほど気にならない程度には慣れてしまった。懐中電灯のスイッチを入れ、家の中の捜索を始める。この街は自分の探偵事務所がある街よりも北にあり、日が出るのも遅いうえに寒くもある。廃墟のガラスには氷が張るほどには気温が低く、吐く息も白い。こんなところで生活をするにはしっかりとした寒さ対策をしなければと思うが、家は2重扉と断熱材で暖房もついていないのにそれなりの気温だった。埃の積もった机を光が照らす。そのまま階段を上がり2階を調べる。この区画を調べるまでにすでに5区画分の家を回っている。いい加減何か手掛かりを見つけたいところだが、

「うん?」

 ふと子供部屋であろう部屋の床に眼がとまる。一部分だけ埃の積りが少ないのだ。何か特別なものがあるわけではないが、入り口といいこの部屋といい何かがおかしい。ここまで調べてきた家はすべてカギがかかっており、鍵を破壊するしかなかった。しかしこの家は鍵がかかっておらず、なおかつ子供部屋の窓のカギもかかっていない。不気味ではあるが一応証拠になるかもしれないと思い写真を撮る。廃墟なので家のどこかが欠落していたり、蜘蛛の巣が張っていたりする。区画を調べ終わり待ちのはずれに止めてある自分の車に戻った。そこで証拠写真を一度整理する。その中で気が付くことがあった、なぜか番地の奇数番の家だけ鍵がかかっていないのだ。その中の半分以上は2階があり、一部だけ埃が積もってないという事実が何とは無い恐怖をつのらせる。怖くなって急いでエンジンをかけようとする、しかし、カシャシャとエンジンが空転する。探偵が慌てれば慌てるほどエンジンは対照的に静かに沈黙していった。


「この車が例の探偵の車ですか」

 若い警官が先輩に聞く。

「あぁ、我々の静止を振り切って廃墟街を調べに行ったやつの車だ」

 探偵が向かった街は立ち退き勧告が出た後立ち入り禁止区域になっていたのだ。噂では看守の銃を奪い逃げ出した死刑囚が、街の中に身を潜めているかもしれないということで警察すらもなかなか足を踏み入れていなかった。車の中には探偵のカメラだけが残され、それ以外はもぬけの殻だった。

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廃墟街 小雨(こあめ、小飴) @coame_syousetu

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