真夜中の底
Mishima
真夜中の底
ずっと、私は真夜中の底にいる。
真夜中の底で膝を抱えて、重たい闇色の布団にくるまれたまま、果てしなく遠い星の空を見上げている。
夜はいつまでも明けない。
私の夜は明けることがない。
星が流れることもない。
私の夜は静けさだけが取り柄で、暗闇はねっとりと纏わりつくほど濃厚だ。
太陽を忘れた世界はどこかかび臭い。
ロマンティックな英雄譚とも、幻想的な情景とも無縁の、誰にも気付きもされない私の夜、私の世界。
私は、この世界に、星屑ほどの灯りを点す勇気すらなくて。
手が届くはずもない夜の空の、きらびやかな一等星にどれほど憧れようとも。
分厚く横たわる圧倒的な夜闇を彩るほどの力は私にはなく、私はただ、じっと、儚くまたたく夜の星々を見上げることを許されただけの名もなき者。
私がどれだけ愚鈍で無能であるかを、美しい真夜中は幼い私に知らしめた。
私はただ、月明かりを跳ね返すのが精一杯の石ころであるのだ、と。
星にもなれず、月にもなれず、蛍にさえなれない私には、朝焼けのむこうに広がる世界など果てしなく遠い。
私はただ今夜も見上げている。
かび臭い真夜中の底に揺蕩いながら、それでも、愚かな私は懲りずにまた、夢をみるのだ。
真夜中の底 Mishima @kuroikoinu
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