第30話 タコパ

「ははうえ~」


「あら、くーちゃんおかえりなさい」


 久しぶりにマイホームに帰宅した俺は、母上に駆け寄りハグしてもらう。

初めての長旅で、身も心もすかっり疲れ果ててしまったよ。けれども、そんな疲労も愛する母上に抱きしめてもらえれば、全て吹き飛んでしまうのさ。


母上の胸に顔を突っ込んでいると、ゴツゴツとした手で頭をなでなでされれる。顔をあげると父上が、いぶし銀な笑顔で俺を見つめていた。


「おお、ルークよ! たった数日会っていなかっただけだが、まるで見違えるようだぞ。やっぱり男の子は成長が早いな」


「あなた、大袈裟よ」


親馬鹿っぷりを発揮する父上に、母上が突っ込みをいれる。これだよ、これ。この平和な家庭が好きだから、俺はこの数日頑張ってこれたのだ。


「それにしても、随分と大勢だな」


父上がそうつぶやき、家の入口に目を向ければ、そこにはリリア、アイコ、イカロス爺さんがいる。あ、陽炎の二人はここにはいない。あいつらは、ベルモンド領に到着した時に、街で下ろした。今後は、この街を拠点に冒険者活動を続けていくらしい。で、時間がある時に俺に修業をつけてもらいたいそうだ。まあ、アイツらは将来有望な冒険者っぽいから、この街で存分に活躍して、ベルモンド領の発展に貢献してもらいたい。



「イカロスさん、お久しぶりです」


父上とイカロス爺さんが握手を交わす。

二人はどうやら顔見知りみたいだ。小さな街だし、こんな目立つ爺さんは嫌でも目立つから、当たり前といえ当たり前か。


「領主よ、元気そうでなによりじゃ。いつも、うちの孫が世話になっているらしいのう」


「こちらこそリリアちゃんには助けてもらっています。ところで、本日は一体どんな御用で?」


「なに、聞いておらんのか? ほれルークや、説明してやれ」



ふふふ、ついにこの時がきたか。

俺はイカロス爺さんにそう言われて、胸を張り堂々と説明する。


「じつは! ははうえとちちうえには内緒で、サプライズパーティーの準備をしていたのです! 食材はおれと、リリアで集めました!」


「まあ!」


「それは凄いじゃないか!」


父上と母上が驚き感嘆の声をあげる。


くう~、気持ちいぃ。

俺はこの瞬間のために頑張ってきたと言っても過言ではない。早く両親の喜ぶ顔がみたんじゃ! さあ、パーティーをはじめようじゃないか。


俺は名残惜しいが母上の抱っこからおりて、準備を始めようとする。すると、アイコが杖でツンツンと俺をつついてくる。はやく両親に私を紹介しろとでもいいたげだ。ちっ、あわよくばこのままスルーして、現地解散という名目で別れを告げようとおもっていたのに。


「あ、あの母上。ここにいる黒髪の少女なんだけど」


「言われえてみれば見ない顔ね? はじめましてかしら」


母上がそういうと


「いやー初めまして! あなた様がルーク君のお母さまでしょうか!? なんと若くてお美しい。とても一児の母とは思えない。あ、申し遅れました私、モンスターテイマーのアイコと言います! ルーク君とは最近出会って、とても仲良くさせて頂いております! ああ、それにしても噂では聞いておりましたが、本当に綺麗で可憐な方ですねぇ~」


アイコは自分の話題が上がるのを待っていましたとばかり、大声で名乗りをあげる。コイツ、調子に乗りやがって。いくら点数稼ぎとはいえ、母上にそんな見え透いたおべっかが通用すると思ってんのか! ねえ母上?


「あら~、とても良い子じゃない。うふふ、綺麗だなんて・・・・・・クーちゃんは良い友達が沢山いるのね」


いや母上!?

違う、騙されないで。ソイツは、ただ我が家に寄生したいだけの害虫ですぞ!


「アイコ君といったか、テイマーとのことだが、どんなモンスターを使役してるのかね?」


家族を褒められて父上も嬉しそうにアイコの戯言に反応してしまう。それで調子づいたのかアイコが無駄にカッコいいポーズを決めて「よくぞ聞いてくれました!」と大見得を切る。


「なにを隠そう、私は超優秀なモンスターテイマーなのです! その証明として、いまこの場に最強のモンスターを召喚してみせましょう」


「おお、それは楽しみね」


「どんなの凄いのがでるのか」


アイコの自信に、父上と母上が期待するような視線を向ける。

でも、ちょっと待て。お前クラーケン以外に使役してるモンスターなんていたか? いくら点数稼ぎでも嘘は良くないぞ。


すると、アイコは指を口で加えて「ぴゅる~」と情けない口笛を奏でる。


お前まさか・・・・・・嫌な予感がして外に目を向けると


(ガハハハ、我ついに参上!)


巨大なレッドドラゴンのピーちゃんがソラを飛んでいた。


「このレッドドラゴンのピーちゃんこそ、私がテイムしてる最強のモンスターなのです!」


「「おおー!」」


アイコが決まったとばかりに、ふっと笑う。父上と母上は勇ましいドラゴンの様子に感嘆の声をあげて「素晴らしい!」と拍手で称える。


ただ、ちょっと待てい!

これは一体どういうことだ!?


(おい、ピーちゃん! なんでお前がアイコにテイムされてることになってるんだよ!)


(ゆ、許せ主ぃ。だって、こうでもしないと、我だけいつも仲間外れでさびしいんだもん)


(ふ・ざ・け・る・なっ! 寂しいんだもんじゃありません! お前これじゃ、両親が本当にアイコを有能だと勘違いして、家に置いちまうだろ)


(ええ、だって居候にするって約束では?)


(んなもん方便にきまってんだろ! アイツの無能っぷりをさらして徐々に追い出す俺の計画がぁ~)


(そ、そんな作戦、我知らなかったぞ!?)


テレパシーでこっそりピーちゃんと会話をしていた俺は、まんまとアイコの作戦にハマったと悟り頭を抱える。その間にも、アイコは家の両親と交渉を進めていたらしく・・・・・・


「ということで、しばらく私をこの家に置いてはくれないだろうか?」


「もちろん大歓迎よ。こんなに凄い人がいれば、我が家は安全ね」


「うむ、幼い子供もいるし、護衛にちょうどいいなっ、わっはっは!」


こうして、アイコの居候が正式に決まったのだった。

はあ、家族水入らずの俺の幸せな時間が・・・・・・・けど、決定したものは仕方がない。せいぜいこき使ってやるか。


終わったことをくよくよ後悔しても始まらないので、気持ちを切り替えて俺はタコパの用意を始めるのだった。



「では、これよりタコパを始める!」


イカロス爺さんがそう宣言して、焚火の上に置いた鉄板に黄味がかった謎の液体を流し込んでいく。鉄板には等間隔で丸い凹が並んでいる。なんでも、たこ焼きをするのに必須のアイテムなんだとか。


「イカロスじいさん、よくすうじつでこれ用意できたね?」


素直に気になったので聞くと


「わっはっは、こんなの鉄板を親指で押し込めば楽勝でつくれるぞ」


イカロス爺さんは事も無げにそう言う。

いや、高位の冒険者でもそんな芸当できるとは思えないのだけど。このジジイ本当に人間かよ?


そうこうする内に、イカロス爺さんは次の食材を手に取る。


「そして、ここで我らが孫が仕入れてきた食材の出番じゃ! 一口大に切ったクラーケンの足を、鉄板の穴に一つずつ入れてじゃな」


ぽつ、ぽつ、とクラーケンの足を落としていく。さらに、事前に細かくカットしていた青ネギと、揚げ物のカスのようなものを全体に散らばせていく。


見たこともない料理に、全員が興味津々で鉄板を覗く。

すると、イカロス爺さんは長い櫛を取り出して、鉄板の穴へと差し込み、ごそごそと櫛を動かす。


「ゆくぞ!」


そう気合いを入れると、イカロス爺さんは器用に櫛を操り、なんと! 鉄板にの凹みに入っていた、生地をひっくり返してみせた。


「「「「おお~」」」


まるで神業のごとき手際に誰もが驚きを隠せない。

そして、ひっくり返した生地は、美しい茶色い焼き色。ジュウジュウ焼ける音と、次第に香ってくる香りに、俺はゴクリと唾を飲み込む。


一体どんな料理ができると言うのだ!


その後、イカロス爺さんは手際よく、全てのたこ焼きをひっくり返し、焼き終えた物から順に器へ盛り付けていく。


最後に、特性のソースとかいう、茶色い液体をかけて


「完成じゃ!」


と宣言する。

器の上には、丸くて可愛い、コロコロとした物体が並んでいる。こ、これがタコ焼きというやつなのか!


「本当は干した魚の削りなども加え風味をあげるのじゃが、内陸のこの地域ではこれが限界じゃな! さあ熱い内にすぐ食べるとよい」


俺は櫛をさして、たこ焼きを一つ持ち上げる。立ち上がる湯気にのって、あまいソースの香りが食欲を刺激する。これは期待大だ。もう我慢できないっ。


大きさ的に、小さな俺の口では、一口で入りきらないので、パクっとかぶりつく。


「はふはふはふ、あっふい!」


な、なんだこれ!?

熱くて全然味がわからない。

しかし、しばらく口の中に空気を送り込んで冷ましていくと、じんわりとソースの風味が広がっていき、生地の味と混ざり合う。


「う、うまいっ!」


素晴らしい!

外はカリとして中はフワフワだぁ。

これがタコ焼きなのか!?

中に入ってるクラーケンの足がいいアクセントになっている!


「うおおおお、旨いです! 最高です! もっと下さい!」


(我にはちと小さすぎるが、良い味付けじゃ!)


(おいしい)


アイコも、ピーちゃんも、リリアもパクパクと食べ進めていく。わかる、わかるぞ。これは食べる手が止まらなくなるよ。


でもあれ? アイコお前あんだけクラーケン愛について語ってたくせに、食べるのは平気なのかよ! 本当によくわからん奴だ。


そして、俺は一番楽しみにしていた、母上と父上の反応を見る。


「美味しいわね~。私こんな美味しい物はじめてたべたわ」


「うーん、たまらんな! 毎日食べたいくらいだ」


二人とも、タコ焼きを食べて、とても幸せそうな顔をしている。ああ、食材を用意するまでに色々と大変だったが頑張ってきてよかった。母上の笑顔のためなら、俺は何度でも頑張れる気がする! 


安心してください母上!

不肖な息子ではありますが、もっと精進して、いつかこんな食事が当たり前に出来る家になるよう、お金をザックザック稼いで我が家の家計を助ける所存でございます!


こうして、俺の初めての親孝行は幕を閉じるのだった。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る