第15話 エピローグ
「ルークあーそーぼー!」
聞きなれた言葉に目を覚ました。
やれやれ、誘拐された次の日だというのに、元気いっぱいだ。
俺はいつものモーニングルーティンで支度をはじめる。
そうそう、昨日ジョーカーから貰った刀は屋根裏に隠しておいた。
部屋に置いてたら父上と母上に、俺が不良少年になったと勘違いされてしまうからね。
まだ冒険者登録していることも隠しているから、絶対に見つかるわけにはいかないのだ。
支度を終えてリビングにいくと、リリアと母上がいた。
「リリアちゃん、昨日は大変だったね」
労うように、母上がリリアの頭をよちよちしている。リリアも嬉そうだ。
「セニョールが助けてくれたから平気」
「セ、セニョール? 大丈夫、怪しいひとじゃない? 本当になにもされなかった?」
「なにもされてない。気がついたら隣で寝てた」
リ、リリアッ!
なんて紛らわし言い方をすんだ。それでは勘違いされるだろ。
まるで、俺があのロリコン冒険者みたいじゃないか。は、母上、セニョールは不審者ではありません! カッコいい正義の味方ですよ?
「ああ、可愛いそうなリリアちゃん、抱き締めさせてちょうだい」
「あっ、おはようセニョール」
「えっ」
母上が驚いた顔で振り向く。
「びっくりした~、クーちゃんじゃない。てっきり不審者が現れたかと思ったわ」
はっはっはー、そ、そんなわけないじゃないですかぁ。
ルークは良い子なので、夜な夜な家を抜け出すような不良少年ではありません。安心してください母上。
「だめでしょ、リリアちゃん。クーちゃんに変なあだ名をつけちゃ、めっ、ですよ」
そ、そうだ、そうだ!
おお、やはり母上はだけは、わかってくれている。まさに天女のようだ。
「でもルークが自分でセニョールって──」
「り、りりあ、はやくお外で遊ぼっ」
慌ててリリアの手を握り、引っ張って外につれていく。
この恩知らめ!
このままでは、なにを言い出すつもりか分かったもんじゃない。カッコいい月下の騎士セニョールが、1才の子供なわけないだろ。
「クーちゃん、お昼には帰ってくるのよ!」
「はい、ははうえ。いってきます!」
「いってらっしゃーい」
■
町の公園で、俺はリリアに説教をする。
「りりあ、だめじゃないか。ははうえの前で変なあだ名をつけないでよ」
「でも、ルークが自分でいったんじゃん」
「ななな、なんのこと? おれ、きのうのよるは寝てたから分かんないなー」
「誰も夜に会ったなんて言ってないのに、なんで知ってるの?」
なん・・・・・だと?
この幼女ハメやがッた、策士ッ、策士だなッ!?
くそぉ、やるじゃないかリリア。
ジョーカーの数百倍は手強い。だが認める訳にはいかないッ、月下の騎士セニョールは、謎深き男って設定なのだからッ 秘密のヒーローは、秘密だから格好いいの、バレたらカッコ悪い!
「と、とにかく、ひとまえで変なことをいうのやめておねがい」
「うーん、まぁいいけど。わたしもルークにお願いあるし」
「お願い? りりあが?」
珍しい──というか、初めてだな。
いつもわがまま言わずに、一緒に遊んでくれるのに。どんなお願いだろうか?
「わたしにルークの剣術を教えて欲しい・・・・・・あの、無限一刀流とかいうの」
「ほえっ、あ、あれはほら、あれじゃん? 騎士ごっこのときに適当に言ったやつだよ?」
「昨日、マルティネスのおじさんと草原で戦うの見てた」
「ふぇぇぇぇ!?」
見てたってあの戦いを!?
嘘だろ、てことはつまり、わざわざリリアの家に送り届けたってのに、こっそりついてきたってこと?
君さぁ、なんてことしてるんだよ。
はっ、それはルール違反ってもんだよ?
颯爽と現れ、颯爽と去る謎のヒーローは、追跡しちゃいけないって業界のルールで決まってるの。掟やぶりすぎでしょ・・・・・
リリアのやつ、いつの間にそんな非行少女になってしまったのか。
けど、見られたならしょうがないか。どうせ、いつも一緒にいるリリアにはその内バレてたろうし。
「わたしも、あのピカーって十字架に光るやつやりたい」
「ふふふ、りりあは中々めのつけどころがいいね」
いきなり最終奥義に手をだそうなんて肝がすわってるぜ。
流石は、俺の幼なじみ。しかし教えるとなると大変だな。無限一刀流は才能ごり押しの最強剣術。
それをリリアにも扱えるようにするには、限界まで希釈して薄めないと無理だ。出来るかは分からないけど、幼なじみのために、この最強の俺が稽古をつけてやるか。
「ふぅ、りりあは本当に、てがかるよ。無限一刀流の修行はひどくきびちいものだよ?」
「ルークを守るのはわたしの役目、あの奥義できっと大空を輝かせてみせる」
そう言って、リリアは満面の笑みで両腕を青い空に向かって伸ばした。少女の可愛らしい笑顔に、太陽のまぶしい輝きがふりそそぐ。
こうして、俺は幼なじみの弟子ができてしまった。
いつの日にか、リリアにも無限一刀流が扱える日がくるのだろうか・・・・・・・・・
くればいいな。
俺は期待で胸を膨らます幼馴染をみて、心からそう思った。
■
深夜。
俺はいつものごとく家を抜け出して、ジョーカーが滞在していた宿に訪れていた。
死ぬ間際、俺がジョーカーに聞いたこと。
それはあいつの財産のありかだ。
冒険者狩りなんてしてたんだから、それなりに金を持っていると思ったんだ。
教わったとおり、ベッドの下を探るとたんまりと金貨が入った革袋が出てきた。
ジョーカーは、俗物なんていってたが俺にとって家族のために金は大切なものだ。これでようやく、母上や父上に美味しい物を食べさせることが出来る。
明日の夕食からは新鮮な肉が我が家に並ぶことだろう。
(悪いねジョーカー、遠慮なく貰っていくよ。どうせ死んだら使えないんだし、いいよね)
まだまだ小さい手に収まり切れないほどの金貨。
もしかしたら、もっと稼げば我が家も底辺貴族から抜け出せるかもしれない。
そうなるために、もっと冒険者として稼いでいこう。
リリアも、強くなることに乗り気だし、本気で鍛えてみるか。
きっと、最強の冒険者パーティーとして語り継がれるのもそう遠い未来ではハズさ。
なんの因果か知らないが、成り行きとはいえ俺はこの世に生まれたんだ。
この最強の力を使って、家族と友達と一緒に、最高に楽しく、最高に幸せな人生を歩んでやろうじゃないか。
★ あとがき
ここまで読んで頂き皆様ありがとうございました!
今作は、頭を使わず笑える作品になればよいと思い執筆しました。
次回短いエピソードを挟んだ後、新しい章がスタートします!
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