第13話無限一刀流

 「無限一刀流だぁ? 聞いたこともねぇ流派だ」


(当然だ、これは俺だけの剣術。他はいない)


「ただの我流剣術かよ。もういい、お前の答えはわかった。いまさら謝ってもゆるさねぇ、殺す」


(そうだ、それでいいかかってくるがいい!)


ジョーカーが、殺そうと懐に潜りこんで切りつけてくる。

しかし、俺はいままでよりも格段早いスピードで一歩進んで、間合いをかき乱してやる。ガチンと金属のぶつかる音。つばぜり合いにもちこむ。


「なッ、てめぇまだ早くなるのかッ! だが結果は変わらねぇぜ、喰らえ剛火──」


(遅いッ───剛火流・圧歩!)


刃を重ね合わせた、ゼロ距離から、さらに一歩踏み込んで魔力波と共にジョーカーを吹き飛ばす!常人なら圧殺されるほどの爆風が突き抜ける。


「ぐはっ、ば、馬鹿なッ!? なぜお前がその技を!?」


ふっ、驚くのも無理はないだろう。

俺は必要がないから力任せにやってきただけだ。貴様ら只人とは根底から存在の格が違う。やろうと思えば、見た技は瞬時にコピーして再現できる。ドラゴンから、テレパシーを盗んだ時のようにな。




(さあジョーカー、常識を捨てなければこの俺は止められんぞッ!)


「ちっ、化け物め!」


ジョーカーの顔つきが変わった。さっきまでの余裕な笑みはもうない。ついに、本気をだしてきたか。

奴は草原を踏み荒らして全速力で駆けはじめた。俺はその背を追い、肉薄する。風を切り裂く韋駄天の速度で加速をしていくと、ヒューと高い風の悲鳴が耳に残る。


ジョーカーは俺に追いつかれると、振り向き様に剣を薙いだ。


不意打ちのつもりか───が、甘いッ


(合気剣術流あいきけんじゅつりゅう流水りゅうすい


静かなる水の流れは勢いを増して激流となれ。

夜空に流れる天の川のように、ゆらりと流れる俺の刀の切っ先が、ジョーカーの刀と身体を、横へ受け流していく。

勢いに逆らえず、ジョーカーは地面へ転がる。


「くっそ、いったいどうなってやがるッ!?」


倒れる伏せるジョーカーは、すぐに身体を起こして驚愕の声をあげる。

だが、一部の隙も与えるつもりはない。バチバチと迸る雷光が俺の刀から発生して、敵の視界を閃光で塗りつぶす。


(一閃流いっせんりゅ飛雷一閃ひらいいっせん・改!)


「ッ、合気剣術流・流水!!」


黄金の雷光を、ジョーカーはどうにか受け身の構えで攻撃を流す。

だが、俺の飛雷一閃・改は二度舞う。

雷を纏った刀の下には、魔力でできた二の太刀、雷の刃が潜んでいる。


焦燥と、電撃がジョーカーを襲う。


「ぐぁぁぁぁ、あッありえねぇ!」


雷が収まると、ジョーカーはゼェゼェと息をはいて、地面に膝をついたまま俺を睨みつけてくる。


「はぁ、どうなっている、なぜお前にその技が使える」


なぜか、か。

会話なんてするつもりは、毛頭なかったが、答えてやろう。これはある意味、ジョーカーへのお礼みたいなものだしな。


俺はコイツに技術の深みを教えてもらったおかげで、努力し、研鑽し、血と汗で技を昇華させてきた偉人に敬意を払おうと心から思えた。俺は生まれながらの最強だが、コイツらは違う。なんの力も持たない赤子として生まれ、厳しい修行の末、力をつけた成り上がりだ。その苦しみは並大抵ではなかっただろう。


だから俺も、強者となった人には誠意を持って答えようじゃないか。


(眼球に際限なく魔力を流し込めば、それは魔眼と成る。俺の目は魔眼だ。一度見た技ならなんだって真似できるのさ)


その事実は、ジョーカーにとっては屈辱的だったらしい。

怒りの声をあげて、地面を殴った。


「くははは、そうかい、本当にてめぇは化け物だったってわけか。そりゃ俺の修行なんてつまらなくて欠伸がでるわけだ。だが──」



ジョーカーが立ち上がる。刀を突きの姿勢で構えて



「最後に勝つのはこの俺だ。ここでお前を殺し、俺は覚醒者へと至ってみせる。技をコピーするなら、オリジナルの奥義一発で仕留めるまで」


と、言ってきたので、俺も対抗するように突きの姿勢をとる。


(正面から食い破ってやるさ)


ジョーカーはこれで終わらせるつもりか。

無駄話をせずに、集中して体内の魔力を活性化させている。

お互いに睨み合い、しばらく無言の時間が続き──ジョーカーが動いた。


魔力を使い、足元で魔法を発動させたか。

魔力の爆発で推進力を得たジョーカーが渾身の突きを放つ。刀にも魔力が伝わり、刃が赤く染まる。


「死ねぇぇッ、奥義・緋王竜雅突緋ひおうりゅうがとつ!」


速い。

申し分ない踏み込みの速さ、これまでみた、どの技よりも速い。そのスピードで加速した突きの貫通力はとんでもないものだろう。では、俺はどうこの攻撃を突破するのか?


見せてやろう。

万物の頂点にいる俺の答えを!


「奥義返し・緋王竜雅突緋ひおうりゅうがとつ!」


目には目を、歯には歯を。

そして、奥義には奥義だ。

誰も一度食らった技をコピーするとは言っていない。この魔眼は一度見た技をコピーする。それに俺の動体視力、魔力、全てのポテンシャルを駆使すれば、初見でも、相手が発動した技をほぼノータイムで発動できる。



緋色に染まった刃が、ジョーカーの肩を突き抜き、肉を抉り、腕を切り落とす。


S級冒険者狩りのジョーカーの剣士生命は、今日この夜、完全に絶たれた。


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