第12話 流派
地面を蹴り、一瞬で距離をつめて、脇差しを横薙ぎに振るう。
剣圧で風が発生して、周囲に生えている背の高い雑草が同じ方向へ一斉に倒れた。
刀を構えるマルティネスを、相手の武器ごと真っ二つに切り裂く──ことは出来なかった。
俺の刃がマルティネスの刀に触れた瞬間、奴の刀が流れるように動いて、俺の剣先だけが、激流に飲み込まれたように受け流されてしまった。
よろめき足取りを乱したところに、斬擊が首を狙い飛んでくる。
迎え撃つためにもう一度刀を振るうが、今度は体が宙に浮かぶ感覚。どうやら、また受け流されたらしい。
俺が刀にこめた力の強さ、方向が、マルティネスによってねじ曲げられ、ベクトルをかえて違う場所に流されてしまう。体重が軽いのも災いわざわいした。刀に引っ張られるように俺の体は宙を浮き、投げ飛ばされる。
なるほど、一丁前のことを言うだけはある。悪くない攻撃だ。
俺は試しにもう一度剣を振るうが、結果は同じ、綺麗にかわされて終わり。
「だから、言っただろ、お前に足りないのは技術だと」
マルティネスは汗ひとつかかず、余裕の笑みを浮かべている。
「これは、古くから存在する合気剣術流の技『流水』、敵の力が強いほど、静かな水流は激流へと変化する。力馬鹿相手にはピッタリな技だ」
(たしかに、相性は悪いみたいだな)
俺の攻撃は全て才能頼り。
スピード、パワーを活かした一直線な動きだ。対策としては完璧な剣術だ。
「これで、少しは気がかわったか? 学ぶつもりがあるなら命まではとらないぜ?」
(ふん、必要ないな。俺には俺のやり方がある)
「けっ、舐めたガキだ」
と、言うと、マルティネスは前を向いたまま雑に刀を後ろに薙いだ。すると、マルティネスの背にあった巨大な岩石が真っ二つに割れて崩れていく。
「お前がやっていることは、これと同じだ。こんなもの、力があれば誰にでも出来るケダモノの剣。深みが足りない」
(ふふふ、深みだと? 笑わせるな、必要なのは相手を殺す蹂躙力、そこに浅いも深いもない)
「ならば、死ね」
素早い速度でマルティネスが正面から突っ込んで攻撃してきたので、俺は刀で受け止める。つばぜり合い体勢になると、マルティネスは叫んだ。
「
すると、つばぜり合いのゼロ距離からさらに重たい衝撃が俺を襲い、後方数メートルまで弾き飛ばされてしまった。
転ばないように、足で地面を引きずりながら耐えると、先ほどまで俺がいた場所から今の地点まで、土に踏ん張った足跡の轍が二本引かれる。
「戦いの神は細部に宿る。僅かな剣先、踏み込みの一歩、呼吸の方法。それら全てを磨き積み上げてきたのが剣術だ」
マルティネスの刀から魔力が溢れ、バチバチッと唸る眩しい電撃が発生する。
「
これまで見せてきた中でも最高速度の攻撃。
迎え撃とうとしたが、刃が触れる一歩手前で、雷の閃光が爆発的に増して視界を奪われてしまった。
俺はこのままでは不味いと思い、バックステップを踏みながら全身を守るように刀を盾にして防御の姿勢をとる。案の定、マルティネスの刀は、俺の視界を奪う前とは違った角度で飛んできた。あらかじめ軌道を見せておいて、視界から消えたら別角度からうつ二段構え。理論的な攻撃だ。
だが、俺の判断がはやかったのもあり、間一髪で雷の刃は俺の刀を掠り、過ぎ去っていく。
「ちっ、身体能力だけは一流だな。だがこれでわかったはず。剣術がいかに偉大であるかをな」
(まぁ、見直してはいるよ。どれも素晴らしい一撃だったしね)
「そうだ、数多の達人が己の生涯をかけて、学び、研鑽し、次世代に技術をたくして進化を繰り返してきた。その剣には汗と血の匂いが感じれる。それが俺の言う深みだ」
たしかに、一昼夜で完全されたものでないことは、受けた俺にも良くわかる。理論的につくられた剣の技術には幾多の歴史を感じらる。だが、そもそもマルティネスは大きな勘違いをしている。
俺はもともと、剣術を馬鹿にはしていない。ただ、必要がないだけだ。なぜなら理論的に剣を振ったところで、意味がないから。俺は理から外れた存在。生まれながらに、あるべき姿というのが決まっていたのだから。けれど、マルティネスには面白いものを見せてもらった。リリアに手をだした罪は消せないが、せめてもの俺からの礼だ。
お前にも、答え合わせをさせてやろう。
(マルティネス、お前の持つ技術には感服した。とても良い勉強になったぞ)
「あん? そうか、やっとお前にも剣の理が分かったか。では許しを乞え。さすれば俺がお前に・・・・・・・」
(だが断る!)
俺は堂々と仁王立ちを決めて、空を見上げて手に持つ刀を天に向けた。
「・・・・・・は?」
(お前がどれだけの流派を扱えるかは知らん。それはとても凄いことだし、お前の努力を馬鹿にするつもりはない)
月明かりが俺を照らす。
今宵の月は何度見ても本当に綺麗だ。
(だがしかし、俺の生き方は俺が決める。いつだって、我が心の流派は自由好き勝手に
天に向けていた刀をゆっくりおろして、マルティネスに突きつける。
(我が剣術は無限一刀流、最強の剣術だ。お前に敗北という二文字を教えやる。かかってこいマルティネス、いや、『s級冒険者狩りのジョーカー』よ)
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