第4話 復讐を始める最強の赤子

 俺は現在、回復したドラゴンの背に仁王立ちでライドして空を飛んでいる。


 赤きドラゴンと、漆黒のマントに身を包んだ赤子が、夜の大空を支配する。スーパーハードボイルドの赤ん坊とは俺のことだ。


 ドラゴンに実力の違いをたたきこんだ後、生物の頂きたる俺に忠誠を誓わせた。なので、あの荒々しかったコイツも今じゃ忠実な下僕だ。


あばばばばばぶばぶもっとスピードをあげろ。門限はとうに過ぎている


(うむ、わかったぞ主! ドラゴンの速さを見せてやろう!)


 夜空を舞うドラゴンのスピードは中々のもので、装備している漆黒のタオルケットがヒラヒラとはためく。頭のうぶ毛が風で抜けないかが心配だ。


 しばらく飛んでいると、目的地が見えてきたので可愛い赤ちゃんの短い指で指差した。


ばぶばぶあそこだ!」


あっ、ちなみに、声は赤ちゃん言葉に戻っている。魔法の効果がきれたみたいだ。中々のイケボだったので将来の成長が大変楽しみである。


 空から見下ろした場所には、愛しの我が家がみえた。

俺は初めてのお使いを達成したような気持になり、嬉しさがこみ上げてくる。


本当は母上に報告して頭をよちよち撫でてもらい、褒めて欲しかったけど、これは秘密のミッション。残念だが諦めるしかない。


(どうする、家の真上まできたが着陸するか?)


(いや、ばれたら大変だからここで降りる)


そう言って、俺は千メートルほど下に見える我が家を確認した。

このくらいの高さ、最強の俺にはなんともない。


(では、手筈通りに頼むぞ!)


(まかせろ、主に逆らった愚さをとくと思い知らせてやる。では、我はこのまま向かうとする)


 俺が飛び降りると同時、レッドドラゴンは西にむかって飛び立っていった。


 俺は自由落下に身を任せながら、距離が離れるにつれ、小さくなっていくドラゴンの背を見送り、さらにはその先にある貴族の家へと思いを馳せた。


(さあ、復讐の時はもうすぐだ。ククク、待っていろ悪徳貴族め)




■■■■■




——翌日


 初めての夜更かしで、体が完全にグロッキーになっていた俺を起こしに、母上が部屋にやってきた。


「はーい、クーちゃん朝ですよ」


ばぶぶぶ、ばぶばぶばははうえ、まだねむいば、ばぶばぶあっ、まぶし


 寝不足のまま目を覚ます。

母上が部屋のカーテンを開けて太陽の光が部屋に充満する。

成長期だというのに、あのアホ貴族のせいで寝不足だ。昨夜は頑張りすぎた。

この愛らしい丸いわがままボディーは睡眠を欲している。


 俺はまぶしい朝日から逃れるため、漆黒のマント、もとい涎のついたタオルケットを頭にかぶったが、すぐに母上に取り上げられてしまう。


「あら、いつの間にかずいぶんと汚れているわ。これは洗濯しなくちゃね」


ばぶばぶ、ばぶばぶかえちて、かえちて


必死にお願いするが、無慈悲にもマントは奪われてしまった。

いつになく厳しい母上に俺は絶望する。


(うう、まだ寝たりないのだっ! 昨日調子にのってコーヒーまで飲んだせいで、帰ってもすぐに眠れなかったんだよぉ)


「さあ、おきましょうねクーちゃん」


 俺を持ち上げようとする母上に、いやいやと頭を横にふる。

もしかするとこれが反抗期ってやつだろうか。ふっ、体は正直というわけだ。俺にはもう指一本動かせる体力は残ってな・・・


「はーい、おっぱいの時間だよー」


「あびゃびゃびゃびゃ」


 ノータイムでむしゃぶりついた。これさえあれば、疲れなんて一瞬でぶっとぶぜ。


ばぶばぶばぶこれだよこれ


「いつもいっぱい飲むけど、今日はすごいなぁ」


 俺は最高のエナジードリンクを飲んで、改めて決意を固める。


(マンマミルクを横取りしようとする奴に容赦はしない。この至高の乳は俺だけのものだっ! 誰にも渡してなるものかっ。あのくそ貴族におしえてやる、母乳戦争で俺に勝てる奴なんて存在しないことをな!)


 俺は満足いくまで栄養補給をすると、お腹いっぱいでぐったりと相棒のベッドに横になった。自然と瞼が重くなり、目を閉じると母上がよちよちしてくれる。

ああ、これが幸せというやつか・・・・そのまま俺はまた眠った。




■■■■■



「ふざけるなっ、これはどういうことだ!」


 突然の大声で、俺は深い眠りから目を覚ました。

昨日きいたばかりの、あの醜い伯爵の声だった。なにやら言い争ってるみたいだ。うるさい声が俺の部屋にまで届いてくる。


「カイリー!!! 貴様一体どんな手を使った!!?」


「はい? いったいなんのことでしょう?」


「とぼけるな、昨日の今日でこんな偶然があるわけがないだろっ!」


 ガンっとものを殴る音がした。

おそらく怒り狂った伯爵がものにあたっているのだろう。

俺は伯爵の慌てる姿を想像して、ベッドの上でくすくすと笑いを堪える。


「あの、伯爵。どういうことですか? なぜそのように怒っているのか、私には見当もつかないのですが……」


「どうもこうもあるかっ! 全部お前の差し金に違いないのだ!」


「そう言われましても、具体的に何があったか教えていただかないと」


「ふんっ! 白々しい、それが私に対する仕返しのつもりか! それなら、いいだろ教えてやる! お前のところのドラゴンが私の屋敷に住み始めたのだ!」


「……は、はい? あ、あのよく聞こえなかったので、もう一度お聞かせください」


父上の混乱した声があがる。

だが、それをはるかに上回る声量で伯爵が叫んだ。


「だから、貴様のドラゴンが私の屋敷に住み始めたのだ! この責任どうしてくれる!」


 ふふふ、ついにこの瞬間がきたか。

伯爵、お前がいったい誰にケンカを売ったのか教えてやるよ。

これは、俺の復讐のゴングだ。


覚悟はいいか?


お前の魂に刻んでやろう。

お前には、母上のおっぱいは早すぎるとな!!!!

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