第8話 転生者の証

 今、私のことを転生者と言った?


 トレントさんは態度を急変させて、続けた。

「隠していましたが、私たち2人は魔法検察官です。魔法検察異世界転生者捜索課の者です」


 うそ、嫌な予感しかしない……。


「ベネットさん、あなたの魔法は素晴らしい。しかし電子レンジと言うそれは、この世界のものではない」


 ちょっと何を言いってるのかわからない。


「食品を温めるなら料理魔法を使う。電子レンジなんて誰も知らない。なぜ知っている? それは君がこの世界で生まれた人ではないからだ」


 まさか!!


「つまりベネットさん、あなたは、異世界転生者だ」


 バレていた!!!!!

 そんな、完全な盲点。

 私は転生者と自分からは言ってはいないけれど、行動でバレていたのか。

 身から出た錆。前世から出た電子レンジ。

 そんなことを言っている場合ではない。


 トレントは得意げだった。

「まさか私の在任中に本物の転生者が現れるとは、100年に1度現れるか現れないかの転生者の捜索を行うことができるなんて夢のようだったが、まさか本物だったとは、これは孫の世代にまで語り継ぐことができる。本当に名誉なことだ。この言葉を使える日がこようとは、魔法検察官人生において最高の日だ」

 少し深呼を整えて、彼は言った。

「君を異世界転生者の容疑で逮捕する」


 転生者と自覚してから3年、逮捕されることを想定しなかったことはない。


 バレないよう警戒して生活をしてきた。会話からポロっと転生者だとバレないようにパーティを組まないようにしていたし、創造プリンターでタピオカミルクティーを作ることも、あれ以来していない。なのに……。

 火炙りの刑が頭をよぎる。

 くそっ、どうする?

 何とかしなければ――


 この状況、ドラゴン退治が終わって、もともと人が住まないこのエリアにいるのは、私と魔法検察官の2人だけ。口封じをすれば。


 こいつらを魔法壁に閉じ込めるんだ!


「魔法壁展開!」

 魔法壁は2つ展開することを想定して呪文を作っていない。1つが限界。だけど、偶然にも魔法検察官の2人は同じ場所に揃っている。2人まとめて閉じ込める!


 黒い魔法壁が2人の魔法検察官を囲うように素早く展開された。

 成功――


「うむうむ閉じ込められてみると、大変良くできた魔法壁だ」


 コンコンと、トレントは内部から壁を叩いた。


「小さな空気窓があるが、外界とは遮断され熱が逃げない作り、力ずくでも破ることができない頑丈さ。そしてマイクロ波を跳ね返す膜があり電子レンジの壁として機能する」


 独り言のようにしゃべると、今度は私に向かって質問を投げてきた。


「私たちをここに閉じ込めてドラゴンのように殺すつもりか?」


 私は沈黙してやり過ごす。


「いいや、人を殺めたことのない若造にそんな野蛮なことはできない。できたとしてこの場から逃げるぐらいだろう」


 悔しいけれど、図星。


「しかし、私たちを舐めてもらっては困る。その魔法では私たちを閉じ込めることなんてできない。私の独自魔法は魔法の分析。彼の独自魔法は犯罪者を追いかけるのに最適な魔法だ。さあ、見せてあげなさい」


 助手のクーリエは空間に手を大きく回して正円を描いた。と、同時に、私のすぐ隣にも同じ正円が現れ始める。


「ワープの魔法だ。君は逃げられない」


 それは私の独自魔法と相性最悪な魔法だった。異能バトルの相手として完璧に分が悪い。


 私の隣にできた正円からクーリエと、それからトレントがぴょんと飛び出してきた。


 私は誰もいなくなった魔法壁を解除して、映画で見た悪者のように両手を頭の上にするしかなかった。


 トレントに手錠を掛けられ、呪文妨害魔法札で首を巻かれた。


「火炙りにされたらどんな悲鳴を上げるんだろうなぁ。楽しみだ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る