第6話 魔法使い私
独自魔法:オーブンレンジ+
簡単に説明するとオーブンレンジ。そのまんま。前世のオーブンレンジを魔法にしたものだ。しかし魔法の技術のおかげで前世のものとは全く違う仕上がりになっちゃったのだ。
特徴その1、座標指定魔法
この魔法は座標指定が無いと始まらない。私から見てどの位置に仕掛けるかを特定する必要がある。遠すぎると使えない恐らく私の半径30メートルほどの距離が限界。
特徴その2、直方体の魔法壁
オーブンや電子レンジのような壁、黒い魔法壁を形成すること。四方・天井・床の6面に魔法壁を作り完全に閉じ込めて、外界へ熱を逃がさない。とっても薄い壁に見えて内部からは裂けることは絶対にない。なぜならバリアの魔法の応用で作られているからだ。もしオーブンレンジ内で爆発が起こったとしてもびくともしない! ちなみになぜ黒いのかと言うと、電子レンジと同じ構造でマイクロ波を外へ出さない程度の網目状の膜を形成しているからだ。そしてそして、この魔法壁の大きさは何と2階建ての家ぐらいの大きさまで拡大可能なのだ。
特徴その3、オーブンレンジ機能
その名の通り500℃まで加熱できるオーブン機能。魔法が使える世界と言うのはやっぱすごくって、余熱と言う概念を必要としない。超速で温度を変化させられるのだ。便利すぎる。
そして一人暮らしの見方、電子レンジ機能。電子レンジ、つまりマイクロ波を放出する機能を魔法で再現できるのかが、不安だったのだけれど、やってみるものである。仕組みを理解していれば、あとは呪文に変換するだけの作業だった。案外簡単にマイクロ波を再現できてしまった。
ついでに今どきのオーブンレンジでは当たり前になったスチームオーブンの機能も追加した。つまり内部で水蒸気を発生させて蒸し器として使うこともできちゃうのである。
特徴その4、冷凍機能
とてもいいバリアの魔法を知ってしまったがために、冷凍機能も付けたくなって、つい追加してしまったオマケ機能である。バリア内で冷気魔法を発動させることで、冷凍庫のように氷を作ることもできるのだ。
石窯で焼くピザを再現できれば、冷たいアイスだって作れてしまう。もはや万能調理魔法と言えるだろう。この最高の魔法。おいしさ無双オーブンレンジ+なのだ!
さすがベーカリーの娘。それらしい魔法を作ってしまう。
と言っても、私はまだ魔法の修行中だし、このスペックは今後どんどん伸びていくのではと思っている。
よし、独自魔法が完成したし、試しにモンスター討伐に出かけてみますか。
何を隠そうこの魔法は、料理をすることのほかに、モンスターにも使えるように考え出された魔法なのだから。
* * *
冒険者ギルドには討伐の依頼がわんさかと舞い込んでいた。
どれにしようか……、う~ん、難易度の一番低そうな、これ!
―――――――――
【巨大ネズミ討伐依頼】
お菓子工場で倉庫に合った乾燥フルーツが食い荒らされているのが発見される。その痕跡から野生魔物の巨大ネズミと推測される。討伐してくれた方には、報酬のほか、弊社のお菓子の詰め合わせをプレゼントいたします。
―――――――――
決して、お菓子の詰め合わせに惹かれたのではない。
街から少しだけ離れた場所なので、遠征費用もそんなに掛からない。丁度良い依頼。
早速申し込みを行った。
冒険者ギルドのお姉さんは、ここに初めて来たとき独自魔法について教えてくれた人だった。
「フーン、これやるんだ、あんた討伐依頼って初めてだよね、大丈夫?」
「修行を積んだので、任せてください!」
「どんな独自魔法にしたの?」
「オーブンレンジ+です」
「不安だね」
私は独自魔法オーブンレンジ+について、お姉さんに詳しく説明した。
「なるほどね~。私が教えてあげられるのは、この巨大ネズミって、ネズミなだけあってチーズが大好物ってことぐらいかな~」
* * *
街を走るバスに初めて乗った。この異世界の都市は本当に何でもある。
大都市を抜けて郊外を走ること1時間。お菓子工場が見えてきた。
日が暮れてあたりは真っ暗だったが、工場の明かりはまだところどころ灯っている。
お菓子工場付近のバス停に到着すると、従業員の人が案内してくれた。
その倉庫は、バリア魔法を使える従業員が交代で魔法を掛けながら夜間の見張りを行っていると言う。
冒険者ギルドから派遣された私は、見張りを任され、それまで夜間の見張りを担当していた従業員と交代になった。
「くれぐれも油断しないで、奴らはとにかくスピードだけは速いので」
そう言い残すと、従業員は帰っていった。
一人で依頼を受けるのは少々怖いところがある。
被害のあった倉庫に罠を仕掛けに行った。
単純なネズミ捕り機。そこに街で買ったチーズを挟む。
さあ出ておいでネズミちゃん。
私は一本道の通路に隠れてネズミが来るのを待つだけだった。
2時間ほど経って、私がウトウトしだしたとき、パチーンと大きな音が鳴った。ネズミ捕り機が動いた音だった。見事にチーズだけ取られてしまっていた。
くそっ、やられた。
次の瞬間、気配を感じたと思ったら、私の後ろに置いていたバッグの中にある残りのチーズに巨大ネズミが噛みついていた。ネズミのくせに60センチほどの巨体。
「魔法壁展開!」
私の魔法壁とネズミの逃げ足とのスピード勝負。と、見せかけてこちらが本命の罠。こちらにネズミがやってくることを想定して、魔法壁を高速展開できるように準備しておいた。通路は一本道、逃げる方向に向けて長い直方体をの魔法壁を形成する。巨大ネズミを魔法壁にぶつかって中でひっくり返った。勝った。
巨大ネズミは魔法壁の中を行ったり来たりウロチョロしていた。
すまないね巨大ネズミちゃん。お前が初の犠牲者だよ。
私は電子レンジ魔法を発動させた。
パーンと、弾ける音がして巨大ネズミはミンチになった。
グロ……。
……焼こう。
私はオーブン魔法を発動して黒焦げになるまで焼いた。
取り合えずグロテスクだけれど独自魔法は大成功。
私は翌日報酬とお菓子の詰め合わせをGETした。
* * *
それから時は流れ3年がたったころ、私は20歳でギルドの上位ランカーになっていた。
キッチン魔法のアンヌ。
罠を仕掛け、そこにやってきた敵を魔法壁で閉じ込めることができれば、どんなモンスターでも倒してしまう。キッチン魔法の使い手。モンスター退治のほかに料理の依頼も受付中。イベントなどで大量の食事を作る際はぜひお任せください。パンを焼いたり、大量のアイスを作ったり、料理のことならなんでもお任せ。美味しい時間を提供いたします。
冒険者ギルドの掲示板。人気冒険者のコーナーに私の紹介記事が張り出されていた。
他の冒険者のモンスター退治より、グロテスクに討伐してしまうため、実際に多かったのは料理の依頼の方だった。
巨人族のために巨大なウェディングケーキを作りにも行った。
大海に漁に出て、釣った魚を凍らせる仕事もやった。
そんなある日のことだった。
冒険者ギルドのカウンターに、ものすごく懐かしく、見覚えがあるものを見つけた。
スマートフォン端末。
それは前世で私が使っていたものと同じだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます