クッキング魔法使い。〈転生者が火炙りの刑にされる世界で、彼女はおいしいパンを焼く〉

松田宗閃

第1話 転生者は殺される

 神話と呼ばれるほどの遠い遠い遠い昔のこと。

 転生者ミカサルは魔王を倒した。

 だがミカサル自身が次の魔王として君臨し。

 世界は再び闇に覆われた――


 神話に登場する転生者ミカサルの影響は、魔法文化が発展した魔法歴12022年の現代にまで続いている。

 転生者は災いをもたらす存在として忌み嫌われ、もし転生者が現れれば火あぶりの刑にされる。




「ごめん、お母さん。今はひとりになりたいの」


 そう言って、私は部屋に閉じ籠った。


「わかったわ」

 お母さんはドアの向こうからとても心配そうに続けた。

「アンヌがいつも使っている頭痛が治まる魔法札を、ここに置いておくからね。ほかにも欲しいものがあったらなんでも言ってね」


 その余計な気遣いが私の胸をさらに締め付けた。


 外は大雨だった。私はひとり、部屋で泣いた。


 お母さんは酷い生理痛だと思っているけど、もっと酷い。


 夢と記憶は似たようなものかもしれない。でもこれは夢なんかじゃなかった。

 私は17歳なのに、それの終わりは34歳だった。

 私はアンヌ・ャ・ベネットじゃなかった。

 私は雛城ひなじょう恵莉未えりみだった。

 やっとつかんだ幸せ。

 もうすぐ結婚するところだった。

 ドライブデートの帰り道で、トラックが突っ込んできた。

 これは間違いなく私の記憶。


 私は転生者。

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