サキュバスの棲む家

青野あやめ

プロローグ


【サキュバス】

サキュバスまたはサッキュバス(英: Succubus、英語: [ˈsʌkjʊbəs])、は、女性のリリン・デーモン、または通常は性行為を通じて男性を誘惑するために、女性の形で夢の中に現れる(中世の伝説にまで遡る)民間伝承における超自然的存在。邦訳は女夢魔(おんなむま)または女淫魔(おんないんま)。男性型はインキュバスである。


出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』




思い返せば、私は運が悪い。

運悪く祖父の再婚相手が家族を引っ掻き回し、両親との関係が拗れた。

運悪く学生時代はあらぬことからいじめに遭った。

運悪く災害で職を失い、悪い男にも騙され金をふんだくられた。

「あんた、決して運が悪いわけじゃないわ。」

寺の住職の僧尼が言う。彼女は所謂人で、千里眼とでも言おうか、相手の守護霊や人生が視えてしまうらしい。

私はというと不信心者で半信半疑、本当かな、なんて話半分で彼女の話を聞く不敬者だった。

確かに、彼女の言うことには得心がいくこともあった。

彼ーー悪い詐欺師ーーと付き合うようになってから体調を崩し入院すること3回、隣の家がボヤ騒を起こしたりと災難続きだった。

「そりゃ、その人とあんたは根本的に合わない。あんたの運を下げまくる下げ男だよ。」

しかし、「あんた、子どもをおろしたね。」とも言われた。

私は妊娠したこともなければ中絶したこともない。これは外れた。

祖父のことも聞いた。祖父の再婚相手のせいで家族はめちゃくちゃだと。


「あの人には色魔が憑いてるからね。どうしようもないのさ。」


色魔ーー本当にそんなものが存在するなら、その悪魔が私たちの人生を狂わせたのだろうか。

フランスの童話にある『ガール橋の野うさぎ《ル・リブル・ド・ポワン・ド・ガール》』の石工のように魔王サタンと契約しての命を引き換えにこの拗れた関係の橋渡しでもしてもらおうかーーこの場合のうさぎ《犠牲者》とは私か、はたまた他の家族かーー。

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