1 見ている

 ◆


いささ直截的ちょくせつてきな表現になりますが、まとめさせていただきますね」


 流暢りゅうちょうに日本語をあやつる目の前の金髪の青年は、そのやたらとキツい目つきに反して、丁寧にそう言った。

 随分ずいぶんと目つきで損をしてそうだ、なんて美佳みかは思った。


 長閑のどかな昼下りの喫茶店。

 その穏やかな空間と、外の明るさとは裏腹に、美佳みかは駆け込んだ寺から紹介された霊能力者らしい人たちに、まとめることも覚束おぼつかない経緯を説明していた。


 指定された時間に現れたのは、カップルとも見紛みまがう、美佳みかよりも明らかに若い青年と少女とも呼べそうな女性の二人組だった。


 ロビン・イングラムと名乗った青年は、ひょろりと背が高く、空の色と深さそのままの色の三白眼さんぱくがんにシンプルなメガネをかけて、そのあたりの大学生にまぎれるような、シンプルなTシャツに薄手のジャケットと細身の黒いジーンズにローファーという出で立ちをしている。

 こうして話している感じも合わせて、ザ・知的スマート、と言った感じが強い。


 一方、その助手といった体で動いている少女、唐国からくにひろの方は、ボーイッシュなウルフショートと、ボーダーの七分袖のプルオーバーに紺のスキニーパンツ、足元はスニーカーと、とても活動的なで立ちである。


 そうしてロビンが会話の主導権をにぎった横で、ひろがノートを開いて、美佳みかの話のポイントを取りまとめている。

 一通り説明を終えて、話を引き出すことにてっしていたロビンは、美佳みかおびえように配慮はいりょしめした上で話をまとめて行く。


「まず一つ、コシバミカさん、アナタは過去にひとりかくれんぼをおこなったことがある、と」

「はい」


 ちらりとひろの反対側から見ても几帳面きちょうめんな文字が並んだノートに視線を向けつつ、ロビンが言う。


「その時には物理的におかしいことは発生せず、ただアナタはからみつくような視線を感じていた、と」

「そうです……当時は、大学生になったばかりで、ひとり暮らしを始めて、怖いもの知らず、でしたから」


 しゃっとひろが書き留めた内容に三色ボールペンの赤で下線を引く。

 その赤が美佳みかの心をひっかくような気がした。


「確かにめられたことではないですが、それなりの人が遊びとしてやっていることです。それに、過去はやんでもどうしようもないですから」


 美佳みかの様子を見て、ロビンはドライにそう言い切る。

 それはただめているのではなく、事実確認をしているだけ、ということを強調していた。


「そして、最近、その時と同じ視線を感じるようになった、と」

「はい……」

「その点についてですが、視線を感じるようになった頃、アナタ自身や周囲で変わったことはありましたか?」


 そう言われて、美佳みかはそっと腹に手を当ててから、ロビン相手には言い出しにくく、ちらりとひろの方を見た。

 すると、ロビンとひろたがいに目を見合わせて意思の疎通そつうはかってから、ひろが席を立って、美佳みかのすぐ横までやってくる。

 そのままかがんでくれたひろに、こそこそと美佳みかは耳打ちをした。

 ロビンはその様子を見ながら自分の頼んだホットコーヒーに口を付けている。


「……わあ、それはおめでとうございます!」


 耳打ちの内容を聞いたひろは、少しばかり美佳みかをしげしげと見てから、そう口にした。

 美佳みかあわてて付け加える。


「でも、でもね、その、彼氏にもまだ言ってないし、その安定、してからじゃないと」

「そうですよね、だからこそ、不安の種、取りたいですもんね」


 不意に、げほっ、とロビンが横を向いてき込んだ。

 そのまましばらく、げほごほとき込んでいる。

 どうやら、この流暢りゅうちょうに日本語をあやつる外国人の青年は、ひろとの会話から内容をさっして、そしてその拍子ひょうしにコーヒーにむせる程度には日本人的感覚をゆうしているらしい。

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