五章 銀狐と星の愛子と大地の王冠
57話 起床した場所
いつの間にか眠ってしまった。なんだか頭と体が重い気がする。
寝かせてもらっているベッドも、バンガローのものよりもフワフワしている気がする。
ゆっくりと目を開けると、最初に白い天井が見えた。木造であるバンガローではないとすぐに分かり、私は起き上がった。
淡いピンクベージュの花柄の壁。ピンク系統の花が刺繍されたベッドカバー。木材のチェリー色をした丸いテーブルと椅子。クッションやカーテン、絨毯は全体的に落ち着いたピンク系統の色でまとめられている。
若い女性向けの部屋のようだが、ここはどこだろう?
「入るよー」
レフィードに訊こうとした時、扉が開き、アンジェラさんと花が飾られた花瓶を持つラグニールさんが入って来る。
ラグニールさんはレーヴァンス王太子と一緒に、アーダイン公爵の厚意でホテルに泊まっている。ここはレンリオス領のホテルだと分かり、安心する。
「あ! おはよう!」
私が起きている事に気づいたアンジェラさんは、駆け寄って来る。
「おはようございます」
「体の調子はどう? どこか違和感があったり、動かし難いところはある?」
「特にはありません」
目を覚ますまで、定期的に様子を見に来てくれていたのだろう。けれど、質問に仕方に少し違和感があり、内心首を傾げる。
「それなら良かった。念の為、医者に診てもらおう。ボクが呼んで来るから、ラグニールくんはミューゼリアちゃんと一緒に居てね」
「はい。わかりました」
ラグニールさんの返事を聞くと、早々にアンジェラさんは退出した。
部屋は私とラグニールさんの二人きりになった。
若干気まずい。妹扱いや子ども扱いは慣れているけれど、ラグニールさんは女の子扱いをしてくれるので、こう……もどかしい。
「綺麗ですね」
ラグニールさんは、花瓶をベッドの傍らのチェストへ置いた。
「ミューゼリアさんが元気になる様にって思いながら、庭園でみんなと一緒に摘んだ花だよ」
「ありがとうございます。嬉しいです」
小型の向日葵や白とオレンジの薔薇達は見ているだけで、元気が出てきそうだ。
「あの……私に何かありました?」
アンジェラさんの口振りや、お見舞いのような花達を見て、気になった私は質問をした。
「ミューゼリアさんは、三日間眠り続けていたんだ」
「えぇ!?」
予想以上に眠っていた事に、心底驚いた。
「医師の診察によれば、長めの休眠の原因は魔力の枯渇。体が最低限の機能に抑えて、失った魔力を補おうとしていたんだ」
立ち上がれない程に魔力を使い果たし疲れたのは覚えているが、三日も休む程に重症だったなんて思いもしなかった。
枯渇は、魔力を生産できる生物では本来ありえない状態と言っても良い。どんなに消費しても生命活動分は残るように、身体の仕組みとして備わっているからだ。生命活動を無視して魔力を消費するなんて、人間位しか出来ない。命の前借をするようなものなので、魔術師としても危険だと、学園の先生が言っていた。屋敷に来ていた魔術師の先生からも、念押しされていたので、よく覚えている。
「子供の場合、魔力の消費量を調節が上手く出来ないから、時折に起こるそうだよ。酷使したわけではないから、しっかり休めば大丈夫」
「それを聞いて、安心しました」
自分の事は大丈夫だと分かって嬉しいが、酷使させてしまったゼノスさんが気がかりだ。
「私と同じで体調不良になったゼノスさんは、どうしていますか?」
ヴァーユイシャの羽のお陰で最悪な事態にならずに済んだが、もっと身体を崩してしまっていたゼノスさんは、今頃どうしているだろう。
私は杖を作るのに夢中で、ゼノスさんにはかなりの無理をさせている事に気づけなかった。怪我をしていないから大丈夫だと思ってしまった自分が情けない。
「彼は早々に意識が戻って、今日の朝までここで休ませていたよ。連れの女性と一緒に病院へ移動して行ったんだ。検査入院をさせて結果が良好なら、レンリオス男爵様の屋敷に戻ってもらう、と公爵様が仰られていた。僕が挨拶に行った2日前には、もう容態が安定していたから検査の結果はきっと良好さ」
「そうでしたか……回復されたようで、良かったです」
順調に回復したと分かって、私は安心した。屋敷に戻ってきた際には、改めてお礼を言って剣を渡そう。屋敷の剣も充分良いものだが、麓の町の武器屋に行って、ゼノスさんの風属性に相性の良い剣を探してみよう。
「ミューゼリアさんは」
「ミューが起きたって!!!!?」
ラグニールさんが私に何か言いかけた時に、思い切りドアを開けて兄様が登場した。
「起きたって聞いた!!」
「いても経っても居られず、私も来ました!」
その後ろから、レーヴァンス王太子とシャーナさんも登場した。
「皆落ち着いて、ミューゼリアさんは起きたばかりなんだ」
ラグニールさんが諫めてくれるが、3人は構わずに私へと近づいた。
「喉乾いていないか?」
「少し乾いてます」
「それじゃ、お腹は空いてる?」
「えと、まだ空いてないです」
「ずっと眠っていたから、心配だったわ!」
シャーナさんが我慢しきれずに、3人を押しのけて私に抱き着いて来た。少しだけ涙声に聞こえた。シャーナさんのお母様の事を思い出してしまったのだろうか。
「心配かけて、すいません」
「目を覚ましてくれて、本当に良かった……!」
背中に手をまわして抱きしめ返すと、シャーナさんの手に少し力が籠った。
「公爵嬢ってこんな感じだったか?」
「女子同士だからだよ。きっと」
「……おまえら、失礼だから止めなさい」
3人が仲良く会話をしているのが薄っすらと聞こえた。
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