46話 再び風森の神殿へ
辺境伯パシュハラ家と侯爵マーギリアン家の間に生まれたゼノスさん。両家の領土は隣接しており、関係が深い。マーギリアン家は女性しか生まれなかった為、彼の父は婿養子となった。特に両家がギスギスとした描写はゲーム上で見られなかったが、ゼノスさんはまだ子供なので親権の兼ね合いでひと悶着ありそうだ。
〈子供が連れ去られた!〉と何も後ろ盾がない男爵家なら訴えられてしまえば、ゼノスさんを引き渡すしか家門を守る手立てはない。しかし今のレンリオス家は、国王と公爵の後ろ盾がある。団長は、お父様の実力を見込んでいるだけでなく、これがあってゼノスさんを送ったのだろう。
だが、今度はゼノスさんの母親の裏の行動に注意が必要になって来る。
ゲーム上では、ゼノスとリティナが仲良くなるたびに、悪役令嬢さながらの実母による嫌がらせが繰り広げられ、街で借りたアトリエを燃やされ、裏組織を雇って拉致軟禁までされた。
このままいけば、リティナの代わりに年が近い異性である私が目を付けられ、虐められる。
パシュハラとマーギリアンの領地から、レンリオスはかなり離れおり、今日出発したとしても着くのは馬車で2週間後だ。竜車を使っても、1週間はかかる。ゼノスさんの母親が来たとしても時間稼ぎができる絶妙なタイミングで、風森の神殿調査の話題が出てきた。
アンジェラさんの話にお父様が反応したところ見ると、ゼノスさんの事情や実母の話をキサミさんから聞いていると考えて良い。問題を回避・解決するために、一旦レンリオス家から私とゼノスさんを離す決断をした。この間に両家と連絡を取り合い、対策を練ってくれるはずだ。
そして、一週間後。私とアンジェラさん、リュカオン、ゼノスさん、そしてキサミさんは風森の神殿へ向かう。到着するとバンガローが建ち並ぶ広場には、既に国から派遣されて来た調査隊が30人程来ていた。アンジェラさんと隊長が話し合う際中、私達は待機している。
(レフィード。風森の神殿の中に何か変化はある?)
待っている間に、私はレフィードに訊いてみる。
『前回と違い、人が来なくなったためスィヤクツの一部のグループが再び外層に来ている。それ以外は、特に大きな変化はない』
(また出てきたの? 何度も追い出すほど縄張り意識が高い魔物か……出会ったら、戦いになりそうだね)
シュクラジャの寝床で会話した内容を思い出しながら、私は言う。
『どうだろうな』
同意してくれると思ったが、レフィードは答えを濁した。
(何か気になる事があるの?)
『森に変化が見られない。スィヤクツのみが動いているのも奇妙だ。何度も追い出す様な縄張り意識が強いとなれば、全てのモノを敵とみなして暴れても良いはずだ。他の種の魔物に動きが一切なく、木々に大きな影響が出ていない』
(森は、静かなの?)
『静かだ。今にしてみれば、あの時スィヤツク達が人間を追い出そうとしていたように思える』
言われてみれば、外層は風森の神殿で最も広大であり貧しい環境ではないので、わざわざ一番外側のバンガローにいる人間を襲うのは奇妙だ。学園に戻った後に聞いた話では、夕食様に用意された肉や野菜は放置されていたが食い荒らした形跡は一切なかったらしい。
(追い出すって言っても、遺物の結界は人間が作っているものだから、不利益を被りそうなのに)
『調査してみれば、何かわかって来るだろう』
(そうだね。私も頑張るから、レフィードも調べてね)
『わかった。お互いに気を付けて調査しよう』
私とレフィードが会話をしていると、アンジェラさんが戻って来た。
「おまたせ。夕暮れになるまでにここへ戻る算段で、ボクらは深層の聖域へ直行するよ」
「他の方達は、どのような動きをするのでしょうか?」
リュカオンは冷静にアンジェラさんに問いかける。
「外層、中層を調査してもらう」
調査隊隊長は部下たちに指示を出し、5人チームで割り振り行動を開始している。
「スィヤツク達を誘導するのですか?」
「うん。そうだよ。流石ミューゼリアちゃん。わかっているね」
私の質問にアンジェラさんはにっこりと口元に笑みを浮かべる。
「聖域に異変があると、魔物達の動きも変わる。これは、激流の郷国と呼ばれた巨大な滝のあった場所で見られた現象だ。遺物の置かれていた祭壇が、記録的な豪雨によって発生した濁流に飲み込まれ、破壊された。遺物はそのまま海に流され、死の海域〈原海の胎国〉に眠っている。ボクは、予め決められていた出来事だと考えている。何故なら、魔物が豪雨の降る前に大移動をしたんだ。人間側もそれを見て大災害の前兆だと示唆して、激流の郷国周辺から逃げ出したと記録に残っているからね」
「聖域の遺物が災害を予知したのでしょうか」
グランディス皇国の水の大型ダンジョン激流の郷国が原海の胎国への移動は、180年くらい前に発生したらしい。危険地帯が発生した時期とほぼ同じだ。ゲームの設定ではその辺りの話は追及されず、郷国は魔物が生息するが人間達が住めるくらいに穏やかな場所だったと書かれている。
冒険者の環境破壊を見かねて、遺物の周囲に住まう精霊が動いたのだろうか。
結界を容易に破れるとは思えず、思わずそんな考察をしてしまう。
「さぁ? もしかしたら、遺物が移動するって魔物達に知らせたかもしれないよ? 今回も何か知らせを受けてスィヤツク達が動き出したように思える。森が異様に静かだからね」
レフィードと似たようなことを言っているアンジェラさんに、内心驚いた。
「さて、立ち話はこれ位にして、行こうか」
「はい」
アンジェラさんは先頭、次を歩く私の隣にリュカオン、一番後ろにゼノスさんとキサミさんの配列で歩き始める。
「おい、ゼノス。何かあれば、お嬢の護衛を最優先しろ。私情を挟むんじゃねーぞ」
ぶっきらぼうな低いキサミさんの声が聞こえた。
聞こえないふりをしつつ、2人は〈逃げてきたようだ〉ではなく〈逃げて来た〉と理解した。もうすでに、ゼノスさんは実母の被害を受けている。
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