33話 中間報告とライバル視

 8月の中旬に予定されている林間学校までに、特別授業では風森の神殿に纏わる歴史や生息する生物と魔物、産業についての勉強から、火の起こし方や遭難した場合の対処法などを教わった。

 私達が泊まる予定なのはバンガローのような木製の建物で、管理のしっかり行き届いた場所だ。物は用意してもらえるが、掃除やベッドメイク、火起こしに料理等、自分達で行わなければならない。

〈色々実践し、体験し、経験を得る事で、様々な視点を持てるように知恵をつける〉

 それが林間学校の目的だ。

 まだ5年生ともあってか、学園でしか出来ない体験だと、貴族出身でも意欲的な子が結構いる。平民と同じことをするのは嫌だ、と言う子もいるが、3日くらい我慢も出来ないのかと他の子から揶揄われていた。

 親元を離れるだけでなく、ダンジョン付近で過ごす。それは、子供達にとって先生や護衛がいても心細いだろう。嫌がる裏には、そう言った不安があると思う。


「ねぇ、ロクスウェルは、林間学校が風森の神殿の理由って知ってる?」


 中間報告がしたいと、下校の時間になった際にロクスウェルが私に声を掛けてきた。今はそれを見せてもらう為に、人が少なくなった教室で彼の準備が終わるのを待っている。


「知らないよ。でも僕は、ダンジョンを皆に知ってもらうチャンスだと思ってる!」

「どうして?」


 徐々に熱が籠る口調になったので、不思議に思い再度訊いた。


「だって、魔鉱石や魔物から採れる素材は、ダンジョンの方が断然精度が高いもん!これからの産業では、必要不可欠だから!」


 私と魔術師さん達が作ったシャンティスの人工栽培の箱は、魔鉱石が必要不可欠だ。規模を拡大するとなれば、その量はかなり必要になる。私の場合は、アーダイン公爵と陛下の行為で純度の高い鉱石を頂いている。しかし、皆がそう上手く素材を手に入れられるわけではない。未来を見据えているロクスウェルの発言は、正しいと思った。


「そうだね。それと一緒に、ダンジョンの環境について考える人が増えると良いな」

「うん。何でも捕り過ぎてはいけないもんね。ちゃんと先を考えないと」


 賛同したロクスウェルは本当に頭が良い子だと、私は感心した。


 王国には〈冒険者〉のような職業は無い。その役割を〈魔物討伐隊〉や〈狩人〉、〈木こり〉等のその道のプロが、国や商団の依頼を受けて素材を納品している。人材を安易に増やさないのは、知識の無い者に危険かつ重要な仕事を担わせない為だ。

 村や町を確実に守る。目的の魔物だけ討伐する。過剰に魔物を討伐しない。討伐した魔物を適切に処理し、素材を採取する。動植物等の自然の産物を根こそぎ採取しない。自然を荒らし、破壊してはいけない。依頼された植物や鉱物を正確に判断する。毒キノコや毒草等の危険物を安全に取り扱う。設置した罠は全て把握し、不要になれば必ず撤去する。火の後始末を確実に行う。出したゴミや自分で処理する。等の戦闘能力だけでなく、様々な技術と専門知識と自然界のルールを熟知し、特定の資格や国の許可が下りなければ、依頼を受けることは出来ない。法整備までされているほどだ。


「よし。試運転も出来たから、動かすね!」


 そう言ってロクスウェルは、両手に乗る程の小さな黒い半円状の機械を起動させる。

 黒色の中に、ぽつりぽつりと白い点が浮かび上がり始める。


「ミュミュ。上を見てよ」


 上を見上げると、夕方になり影が射し始めた天井に、星が浮かび上がる。


「わぁ! すごく綺麗!」


 素直な感想が言葉として飛び出した。

 天井に映るのは、ただの点ではない。天の川や一等星など大小さまざまな星々だ。まだ天井の一角しか映し出せていないが、彼の努力ならば劇場の天井を覆い尽くす星空を作るのは時間の問題だ。


「これだけじゃないよ。一年間の星の動きと、星座、流星を映し出す機能を付ける予定なんだ」

「そこまで考えていたの!?」

「星について天文学の先生に訊いたら、勉強や広報活動に使えるからってお願いされたんだ」


 驚く私に、少し照れ臭そうにロクスウェルは言う。

 ゲーム上ではロマンチックな演出ばかりに使われていたが、これなら昼間の時間帯に劇場や講堂を使って生徒に天文学を教えることが出来る。小さな子供達も、星に触れる機会が増えるだろう。


「これが完成したら、先生が買い取ってくれるって。もちろん最初の完成品は、ミュミュにあげるよ」

「ロクスウェルの技術が認められたんだ! 良かったね!」


 兵器以外の発明品を作りたい。それによって認められたいと言う気持ちは勿論あるはずだ。彼の願いがこんなにも早く実ろうとしている事に、私は素直に嬉しいと思った。


「うん! 今度は劇場を借りて、もっとすごい結果を見せてあげる!」

「楽しみにしてる!」 


 いつの間にか二人きりとなった教室に、話し声を聞きつけた先生が早く帰る様にと注意をしに来た。私達は急いで帰る用意を済ませ、下校した。

 寮までの帰り道、私とロクスウェルは開発の話で盛り上がった。彼は、星空を映す機械だけでなく、それを応用して私が言ったお題をいくつか試作しているらしい。行動力と発想力に、私は脱帽するばかりだ。

 私の中で、ロクスウェルに対するライバル意識が着々と芽生えているのを実感した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る