第9話 開店資金
太一が出した魔物を見て、ギルド職員は驚きの声をあげた。
「レッドウルフに、ワイルドホロホロと……プラチナゴーレムまでいるぞ! おいおい、どれも高ランクの魔物じゃないか!!」
(どれも強そうだったもんな……)
ルークが軽く倒していたので気にしないようにしていたが、やはりかなり強い魔物だったみたいだ。
とりあえず、全部出さなくてよかった……ということにしておこう。
「傷はそこそこあるが、ほとんど一撃で倒してる……。すごいなんてもんじゃないな」
解体作業を担当する職員が、魔物の状態をチェックしてくれている。そして紙に素材の内容などを書き出して、受付嬢に渡す。
「どれもいい素材だ。これで買い取りをしておいてくれ」
「は、はいっ!」
「よーっし、野郎ども! 俺たちは今から楽しい解体タイムだ~!」
「「「おー!!」」」
そして気付けば、太一は冒険者ギルドの個室に通されていた。どうやら、素材として売った魔物のランクが高かったことが原因のようだ。
受付嬢は一度退室していて、今は太一とルークの二人だけ。
「どうしよう……何かいろいろ聞かれたりするのかな?」
『ふん、人間は弱いな。あんな魔物程度で驚くとは、たかが知れている』
ふんと鼻を鳴らすルークは、まったく気にしていないようだ。
(俺は別室に通されてこれから取り調べでもされる気分だっていうのに……)
太一がそんなことを考えていると、ノックがして先ほどの受付嬢がやってきた。別に、いかつい上司が一緒……というわけではない。
そのことにちょっとほっとする。
「すみません、お待たせしちゃって。金額が大きいので、ここで渡しますね」
「あ、はい」
(なんだ、買取金額が大きいから別室に通されただけだったのか)
宝くじで高額当選すると別室に通されるというけれど、きっとそれと同じだろう。太一がほっとしていると、受付嬢が「それで」と話を切り出した。
「あんな高ランクの魔物、いったいどうやって倒したんですか? あなた、冒険者ギルドを利用するの初めてですよね?」
(やっぱり取り調べだったー!!)
「えーっとですね」
「まず名前は!?」
「タイチ・アリマです」
「冒険者カードは!? というかギルド登録はどうなってるんですか!?」
めちゃくちゃ食いついてくる受付嬢に、太一は自分がテイマーであることなどを説明した。魔物は従魔が倒してくれたということも。
「え……まさか高ランクのテイマーだったなんて……。都市伝説か何かだと思ってました。本当にいるんですねぇ……。そうですよね、失礼かもしれませんけど、タイチさんってそんなに強そうじゃないですもんね」
「ははは……」
(どうせ弱いですよ……)
「まあ、そんなわけで素材を売りに来ただけです」
「……わかりました。まさか、こんなところに逸材がいたなんて。テイマーもいいですけど、冒険者ギルドもよろしくお願いしますね!」
そう言って手を叩くと、受付嬢はジャラっとお金の入った袋を机の上に置いた。今回の買い取りの料金みたいだ。
「レッドウルフは一体一〇万チェル、それが三体。ワイルドホロホロは一体一三万チェル。プラチナゴーレムは一体……三〇〇万チェル。合計で、三四三万チェルです」
「え……」
あまりの金額の大きさに、開いた口がふさがらないとはこのことだろうか。
渡された袋の中を確認すると、大金貨が三枚、金貨が四枚、大銀貨が三枚入っていた。一気に太一の財布が潤っていく。
「これだけあれば資金は十分じゃないか……!?」
「装備か何か買うんですか?」
思わずガッツポーズをした太一を見て、受付嬢がくすりと笑う。
「実はもふもふカフェを開く予定なんです」
「もふもふカフェ?」
「そうです。魔物たちと触れ合えるカフェ……ですかね」
きょとんとした反応の受付嬢に、やっぱりこの世界にもふもふカフェはないのかと苦笑する。
カワイイ猫を連れていたら説明も楽だったかもしれないが、隣にいるのはなかなかに大型なルークだけ。
受付嬢は考えつつも、「いいですね」と賛同してくれた。
「冒険者じゃないのはもったいないですけど、強いテイマーが街でカフェをしていてくれたら心強いですから!」
「ああ、なるほど」
確かに、魔物がいる世界では街の防衛も大切だ。兵士が配置されてはいたが、ドラゴンが襲ってきてそれから街を守れるのか……と言われたら、わからない。
「物件探しをするなら、商業ギルドですね」
「行ったことがないので、場所を教えてもらってもいいですか!?」
「いいですよ~」
資金が溜まっても、商売関係の手続きに関してはさっぱりだったので、ここで教えてもらえたのはラッキーだ。
大通りにある商業ギルドで、商売関係はすべて手続きができるのだという。
「もふもふカフェができたら行くので、教えてくださいね」
「本当ですか!? ぜひ!」
しかも、お客さん第一号も確保だ。
なかなか難しい道のりだと思っていたけれど、やっぱり楽しそうだなと太一は思った。
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