第8話 冒険者ギルドへ

 もふもふカフェは異世界で馴染みがない……。それはひどく悲しいが、ないのであれば馴染みを深くしてしまえばいいのだ。

 というか、もふもふに囲まれて嬉しくならない人がいるだろうか? いや、いない!!


(もふもふをこの世界に浸透させてやる!)


 そして、ブラック勤め……がこの世界にいるかわからないけれど、いたとしたら同じように癒してあげることもできるだろう。


「あ、そうだった。シャルティさん、ルークと一緒に泊れる場所ってありませんか? 宿に行ったら断られてしまって……」

「大きいですからねぇ。テイマーギルドでは登録テイマーに宿泊施設の提供もしていますよ。一泊二〇〇〇と、宿に泊まるより出費も抑えられていいです」


 シャルティによると、この裏にある大きな建物と中庭もテイマーギルドの一部なのだという。太一のように大きな魔物をテイムしている人もいるため、ある程度の場所は確保しているようだ。


「ぜひ宿泊をお願いしたいです……!」

「わかりました。何泊を予定していますか?」

「とりあえず五日でお願いします」


 財布から大銀貨を一枚取り出して、宿泊料を支払う。これで財布の中身は大銀貨一枚と銀貨五枚だ。なんとも心許ない。


(仕事を探すか何かしないと、すぐに所持金が尽きるな……)


「じゃあ、部屋に案内しますね」

「はい」


 受付カウンターの横の通路に進むシャルティの後に続くと、中庭に面した渡り廊下になった。

 庭は大きな木とたくさんの草花と、小さな池があった。そんなに広くなく、縦横ともに五〇メートルほどの広さだろうか。

 何匹か犬の魔物がいたので、テイマーギルドの職員の従魔かもしれない。


「ルークも遊ぶか?」

『俺を犬と一緒にするな。孤高のフェンリルが、こんなところでボール遊びをするわけがないだろう』

「残念」


(だけどルークさん、尻尾が少し反応してますよ)


 ボールを買ってあげたら、一緒に遊んでくれそうだなと考えて太一は笑った。


「ここの中庭も自由に使っていいですよ。井戸もありますから」

「ありがとうございます」

「タイチさんは貴重なテイマーギルド員ですからね! わからないことがあれば、なんでも聞いてください」

「…………」


 シャルティの言葉に、若干頬が引きつる。


「……その、テイマーはあまり多くないんですか?」

「…………」


 意を決して太一が気になってたことを聞くと、シャルティの表情が固まった。


(あ、やっぱり……)


「…………まあ、多いとは言えませんね。でもでも、テイマーってとっても魅力的なんですよ! 魔物を駆使して戦うので、互いに弱点を補うことだってできますし。ただ、強い魔物をテイムするのが少し大変なだけで……なんというか、上級者向けの職業なんですよね」


 弱い魔物をテイムして強く育てるということもあるが、どうしても魔物としての強さにも限界がある。

 より強い魔物をテイムしようとすると、その場所へ行くための強さや仲間が必要になってくる。しかし、強い魔物のいないテイマーがランクの高いパーティに入るのはなかなか難しい。

 それもあり、テイマーを選ぶ人は少ないのだという。


「なるほど、確かにそれはあるかもしれませんね」

「そうなんですよぉ……。だからもう、タイチさんが来てくれてとても嬉しいです! 末永く! テイマーギルドをよろしくお願いしますね!!」

「はい」


 太一としては平和にもふもふカフェをしたいだけなので、テイマーギルドで何ら問題はない。戦闘クエストなんかを受けるわけでもないし。


(あ、そういえば)


「魔物の素材があるんですけど、それって買い取ってもらえますか?」

「基本的に魔物の素材は冒険者ギルドで買い取りをしてますよ。職業ギルドでは、その職に必要な素材のみの買い取りになってるんです。うちだと、特定の魔物が好んで食べる木の実とか草木ですね」

「全部魔物なので、冒険者ギルドへ行ってみます」

「はい」


 うっかりしていたのだが、この町に来る途中――というか、森を抜けている最中。出てきた魔物をルークが倒してくれていたのだ。

 それを魔法の鞄に入れてきたので、買い取ってもらえば懐事情も改善するだろう。


 案内された部屋で一休みをして、冒険者ギルドへ行くことにした。



 ***



 そして冒険者ギルド。

 テイマーギルドとはうってかわり、多くの人で賑わっていた。カウンターには人の列ができていて、時間もかかりそうだ。


『すごい人だな……』

「まあ、仕方ない。冒険者の人だって疲れてるだろし、並ぼう」



 買い取りと書かれているカウンターの列に並んで、二〇分。太一の順番がやってきた。


「こんにちは。素材を査定しますので、カウンターの上に出してください」

「えっと……大きいうえに数も多いので乗り切らないんですけど、どうしましょう?」

「そんなにですか? でも、大きな荷物は何も……」


 受付嬢が不思議そうに首を傾げるので、太一は苦笑しつつ魔法の鞄を指さす。


「あ、魔法の鞄なんです」

「これはまたレアアイテムを持ってますね! わかりました、奥に案内するのでこちらへどうぞ」


(これもレアアイテムだったのか……)


 もう何がレアで何が一般常識なのかわからなくなってきたなと、太一は苦笑する。


 奥の部屋に行くと、そこでは魔物の素材の解体が行われていた。部屋の広さも二〇畳ほどあるので、ここならルークが狩った魔物を出しても問題ないだろう。


(でも、さすがにドラゴンの素材はやばそうだからやめておこう)


「じゃあ、これをお願いします」


 太一がそう言って魔法の鞄から魔物を取り出すと、案内をしていた職員だけではなく作業部屋にいたほかの職員たちも目を見開いた。


「「「なんだこの高ランクの魔物の山は!!」」」

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