第32話 イチャイチャ

「そんなんじゃお兄様の妹として相応しくないと自覚しています。それでも、お兄様が大好きなのは変わらない。この気持ちが偽物だと思わないでください!」

「分かってるよ。オレだって怜のことを大切に思ってる」

「はい、お兄様のことはこんな妹にもお見通しです」


 妹は捨てられた犬のように、涙ながらに訴える。その想いは痛いほど伝わっていた。

 きっと、今まで不安な日々を過ごしてきたに違いない。

 いくら兄妹と言っても、オレとは見た目が全く異なっている。周囲からは比較され続けてきたのだろう。

 もちろん容姿では一般的に地味なオレより、可愛く美しい彼女の圧勝だ。だが、彼女の物差しではその世間の眼差しが不満なようだ。

 彼女はオレに似ていないことをやたらと気にしている。

 全てのスペックがオレより優っているのは、普通の人間なら喜ぶべきことなのに、彼女は神から与えられたギフトをまるで呪いのように感じている。

 怜という少女は、オレのことを心の底から愛してくれているが故に苦悩していた。


「お兄様……どうか、これからもあたしをよろしくお願いします」

「ああ、こちらこそ頼むよ」


 オレが頭を撫でると、彼女は猫のような鳴き声を上げて嬉しそうな反応を示す。


「お兄様……もっと、触ってほしいです」


 彼女はそう言うとオレの手を取り、自分の胸に押し当てた。

 オレは動揺しつつも、妹の望み通りにする。すると、怜は甘い吐息を漏らした。

 それからしばらくの間、怜は甘えん坊モードになり続けていた。

 風呂から出た後、リビングにてソファーで2人並んで座る。

 怜が隣に座っているため、距離が近くて落ち着かない。

 彼女はオレの腕を抱き枕にして、密着している。

 風呂上がりのせいか、いつも以上にいい匂いがしてドキドキしてしまう。しかも、オレの肩には怜の頭が乗っかっており、時折耳元で愛を囁かれるので余計に落ち着けない。

 オレはなるべく意識しないように努めるが、思春期の人間にこれは無理がある。


「お兄様ぁ……」

「ん?」

「好きぃ……」

「ああ……」


 妹はオレの顔を見つめて、愛の言葉を紡ぐ。それに対してオレはどう答えればいいのか分からずに曖昧な返事を返すばかり。

 妹の言動はメロドラマのヒロインであり、仕草も可愛過ぎて目が離せない。これじゃあ、妹を恋愛対象として見てしまう。

 それは絶対にダメだ。怜はあくまで大切な家族であって、恋慕を抱く相手ではない。

 だから、オレはこの気持ちを抑え込む必要があるのだ。


「お兄様、コーヒー牛乳を飲みませんか?」


 妹は冷蔵庫から取り出した二つある瓶のうちの一つをオレに差し出す。


「そうだな。せっかくだし、貰おうかな」

「はい! それじゃ、一緒に飲みましょうね」


 怜は蓋を開けると、オレの口元まで持っていく。そして、彼女はそのまま瓶を傾けた。てっきり瓶を渡してくるかと思いきや、予想外の彼女の行動に面食らう。


「おい、怜!?」

「ふふっ、お兄様ったら可愛いですね♪」

「こっちは恥ずかしいんだけど……」

「あら? お兄様ってば、照れてますねぇ」

「そりゃ、まぁ……。こういうのは慣れていないし」

「あたしはお兄様となら、いつだって構いませんよ」


 オレは妹に傾けられたコーヒー牛乳の瓶に口をつけ、中身を飲む。

 風呂上りということもあり、冷たい液体が喉を通っていく感覚が心地良い。怜はニコニコと笑顔を浮かべていた。

 オレに飲ませ終えた後、彼女は自分の分を飲んでいる。

 それからしばらく二人でまったりとした時間を過ごした。その間、妹はずっと楽しげである。

 ちなみに怜はパジャマ姿で、上はノースリーブのシャツである。そのため、彼女の白い腕が露わになっており、目のやり場に困る。

 そんな風に悶々としていると、怜が不意打ち気味に抱きついてきた。

 風呂に入る前でもやったやり取りの第二ラウンド、そのままの勢いで押し倒され、怜に覆い被さられる。

 オレは仰向けのまま、妹を見上げる体勢になった。

 彼女は妖艶な笑みを見せながら、舌なめずりする。

 その光景はとても扇情的であった。

 妹はオレの頬に手を当てて、唇を重ねようとしてくる。その目は漆黒に包まれていて、オレ以外の全てを弾き出してるように見えた。

 このままだとキスしてしまいそうな雰囲気だったので、彼女の顔の前に手を差し込んで止める。

 すると、怜は不満げな表情を見せた。


「どうしてですかぁ?」

「兄妹同士の口付けなんて、流石に緊張する」


 オレは苦笑いしながら、正直に答える。すると、彼女は悪戯っぽく微笑んだ。

 オレの手を掴んで、指先に優しくキスをする。

 それから彼女はオレの耳元で囁いた。


「あたしはお兄様になら、いつでもOKですよ?」

「…………」

「それにしても、お兄様はあたしのことが好き過ぎですよね。あんなに露悪的に振る舞っても見捨てなかった」

「悪いかよ」

「いえ、全然悪くありません。むしろ、とても嬉しいです。こんなにも愛されて幸せ者ですね、あたしは」

 

 怜は今度、オレのパジャマを捲り、剥き出した肌を舐め始める。彼女はオレの首筋から胸にかけて何度も丁寧に舌を這わせていく。時折、甘噛みしたりして遊んでいる。その度に身体がビクッと震える。


「お兄様ぁ……大好きぃ」

「ちょっ、怜……」

「お兄様の味、美味しいですぅ……」

「頼むから、ちょっと待ってくれ!」

「嫌ぁ……。もっと、お兄様を食べたいのぉ……」


 怜はオレの制止を無視して、首元を執拗に攻め続ける。

 オレは彼女にされるがままになっていた。やがて、彼女はオレの胸に吸い付き始めた。

 そこでようやく妹は動きを止める。

 それから彼女はゆっくりと起き上がった。

 オレは乱れた呼吸を整えつつ、妹を見る。

 彼女は顔を真っ赤にして俯いていた。

 もしかして、我に返ったのか? そう思った瞬間、怜はオレの上に跨ってきた。そして、そのまま唇を重ねる。


「んっ……」

「れ、怜!?」

「お兄様、ごめんなさい……。もう我慢出来なくてぇ……」

「あー……、そういうことか」

「えへへ。お兄様の肌って柔らかいんですね。とっても気持ち良かったです」

「そ、そうか」

「ねぇ、もう一度いいですか?」

「ダメだ! こればかりは許可出来ないぞ」

「むぅ、ケチぃ」

「いや、普通に考えてダメだろう……」

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