変な数字が見えるようになったオレ氏、ヤンデレハーレムに飲み込まれる

ヤンデレ好きさん

第1話 オレにしか見えない数字

 オレは眠っている最中、凄まじい熱に苛まれていた。夢を見ている。

 夢の内容は誰かに説明するのも憚られるものであり、ハーレムを形成しているという妄想全開の類。全く、自分の童貞っぷりには虫唾が走る。

 うなされている中で、オレは決して交わることの無い学校の美少女たちとハーレムを築いていた。

 みんな瞳に光が灯っておらず、かなり怖い。野獣のような鋭い視線を伴い、オレを取り囲んでいる。その中にはなぜか妹もいた。


 彼女たちに襲われそうになった時、オレは目を覚ます。布団を蹴飛ばし、荒くなった息を整えた。

今の夢は何だ? どうしてあんな夢を見たんだろう。

 夢の中とは言え、女子とイチャイチャしていたような気がする……あれか、最近見たエロ動画の影響だろうか。夢って直近で見たものに割と影響されるっぽいし、それかもしれない。

 にしても、体中が茹だるような暑さに襲われている。先程の変な夢のせいだろうか。

 あまりの暑さに水を一杯、飲みたい気分だ。

 昨日までとは異なり、自主的に布団から出ると同時に、部屋の扉が開く。


「兄貴?」


 そこにはオレ、橘大和の妹である橘怜が立っていた。


「何その情けない顔。もしかして仮病でもして学校でも休みたいのかしら。我ながらこんな兄を持って後悔してるわ」


 地味なオレとは似ても似つかない派手なツインテールの金髪に耳にはピアスを開け、指先は色とりどりのネイルが塗られている。

 彼女はボッチのオレとは対照的に、学校ではかなりの人気者である。友人をたくさん囲み、文武両道ときている。そんな彼女はきっと出来の悪いオレをコンプレックスに思っているに違いない。

 このギャルJKめ……。こいつオレを嫌ってるのか、当たりが強いんだよな。

 妹の視線は案の定氷のように冷たく、とても辛辣だった。

 どうせこいつはオレのことを美しい自分の周りに集るハエくらいにしか思っていない。だからああいったきつい言動を惜し気も無く吐けるのだ。

 まあ、オレなんかがはるか高みにいる怜にどんなに反発したところで、彼女にとってはこそばゆい微風に過ぎない。つまりは無駄な足掻きというものだ。


「ふん、まあいいわ。それよりさっさと着替えなさいよ。もう朝食できてるから」

「お、おう……あれ?」


 オレは怜の頭上に数字が浮かんでいることに気付く。

 その数字は“20”くらいを指しているが意味は全く分からず、オレの混乱を招くばかりだ。

 オレがそういった事情で彼女のことをじろじろと見ていると、怜は明らかにこちらを不快そうに睨みつけてきた。


「ちょっと何見てるわけ!? 変態! 死ね!」


 怜はその勢いのままオレを罵倒してくる。あらぬ疑いをかけられてしまったオレは濡れ衣を晴らすべく動く。


「お前の頭に数字のようなものが見えるんだが」

「何言ってんの兄貴。マジで病院行った方が良いよ」


 包み隠さず数字のことを言ったオレだが、怜には全く取り合ってもらえず精神異常者のレッテルを貼られるだけに終わる。

 怜の反応から察するに、オレが見えている数字はどうやら彼女には見えていないようで、罵倒されるのは当然という結論に至る。

 

「馬鹿みたいなこと言ってないでさっさと着替えなさいよ! まったく、こんな愚兄を持ってあたしは最悪の星の下に生まれたと嘆かわしく思うわ」


 オレを罵倒しまくる彼女は睨むなり、部屋の出入り口へ向かう。


「あんたと一緒の空気を吸うのも苦痛だから、先に行ってるわ。兄貴も早く行きなさいよ。あたしの評価に傷が付いたらそれは全部兄貴のせいだから」


 オレについて散々なことを言うだけ言って、彼女は一人学校へ向かう。

 遅刻でもしようものなら、あの怖い妹に怒られる。オレは急いで制服に着替え、朝食をかき込んでいく。

 そんなドタバタとした日常の中で、オレは自分のパンツがまた消えていることに気付く。


「最近、よく紛失するんだよな」


 恐ろしいことに、失くしたという記憶さえ無いのが困ったものであり、オレは盗まれているのではないかと心配になってくる。

 失くなった覚えも無いものを探す程、オレは暇ではない。幸いにも資金はあるので、帰りに新しいものを買って来るとしよう。


 登校中、オレは妹のみならず、街中を歩いているクラスメイトや知り合いに数字が浮かんでいる。

 だいたい一桁であり、妹よりも低い数値である。しかもあれだけ鮮明に映っているのに、誰も数字については話題に挙げたり、それどころかそれとなくでも触れようともしない。

 妹の発言から顧みるに、おそらくオレにしか見えない何かなのだと思われる。

 オレだけが認識できる謎の数字が、街を歩く人々の頭上に浮かんでいる光景というのはなかなかにシュールなものであった。


「おはようございます、橘くん。今日も一日頑張りましょうね」


 教室に入ると、クラスで一番の美少女、花崎さんが笑顔で挨拶してくれる。変わらず綺麗で可愛い。彼女が微笑んでくれるだけで、心が洗われるようだ。

 彼女と出会えるだけでも、学校に来た価値がある。

 花崎美咲は誰にでも分け隔てなく接する黒髪ロングの美少女であり、成績優秀で運動神経抜群、おまけに容姿端麗ときている。まさに才色兼備。

 クラスの男子の憧れの存在だ。

 ちなみに、オレも密かに好意を寄せている。まあ、叶わない夢だけどな。そんな花崎さんの頭上にも例の数字が浮かんでいた。

 数字は18である。高いのか低いのかわからん。一応、他のクラスメイトよりは高いのか?

 花崎さんは誰に対しても優しいから、オレにさえも平等に接してくれるのだろう。


「ああ、そうだね」


 オレは彼女に愛想笑いを浮かべつつ、自分の席に着く。

それから程なくして、朝のホームルームが始まる。

 担任の先生が出席確認をしている最中、隣の席の花崎さんと目が合う。

 これまでと同じく、彼女はこちらに向かって小さく手を振ってくれたので、オレは軽く手を挙げて応える。

 すると彼女は嬉しそうにはにかんでくれた。その可愛らしい笑みはまるで天使のようだった。


「それでは今日の連絡事項です。この時間を使って体育祭の実行委員を決めますので、立候補者がいる場合は挙手でお願いします。いないようなら私の方で決めておきますが、いいですか?」


 うちの高校は来月、六月に体育祭が行われる。

 そのため、その前に体育祭実行委員会なるものが設けられる。そしてそれに花崎さんは立候補をし、周囲からは歓声が上がる。

 オレはそんなものとは無縁に、寝たふりをしながら自分に起きた変化の方に注目していた。

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