第21話 元凶

「なっ‼︎? 嘘……でしょ?」


驚愕の表情をしながら、体の中をつきやぶって現れる泥の塊を見下ろすフェリアス。


槍のように鋭く尖った泥の先端には、どろりとした赤い液体が付着し。


しかしそれはこぼれ落ちることなく、泥へと吸い込まれるように吸収されていく。


「フェリアス‼︎」


俺はすぐさまフェリアスの体を貫いた泥を剣で両断し、救出する。


「っ……‼︎? 痛っ……」


苦悶の表情を浮かべ、その場に倒れるフェリアス。


「おい‼︎ あんた大丈夫か?」


「うぐっ……はぁ、はぁ、まぁ、なんとかね」


傷口部分の服を破き、状況を見る。


心臓を狙った一撃ではあったが、体を捻って回避したのだろう。


貫かれたのは左肩であり、重症ではあるが命に別状はなさそうだ。


「ちょっと染みるぞ」


俺は胸をなでおろし、セッカに持たされていた水筒の水を傷口に振りかける。


本当であれば消毒用のアルコールでもあれば良かったのだが。


今は応急処置だ。


「いっっ‼︎? いたたたたた‼︎? ちょっ、も、もっと優しくしなさいよね‼︎? 死んだらどうするの‼︎」


「それだけ騒げれば大丈夫だ」


染みるのか、フェリアスは半べそをかきながらジタバタと暴れる。


俺はそれに少し安堵をしながら、自分の服の袖を破ってフェリアスの肩に巻きつける。


「ちょっ、ちょっとそれ結構いいやつ……」


「どうせ作り直すってセッカも言ってたし。 あんたの服も破いたからお互い様だ」


「……ルーシー」


「またいつあいつが襲ってくるかわからないからな、簡易的だけどとりあえず止血はこれでいいだろう。歩けそうか? フェリアス」


「うん、なんとかね」


フェリアスはそういうと、剣を杖にするように立ち上がる。


だが、肩を貫かれたせいか左腕は動かないようで、戦力としては期待するのは酷だろう。


「あlkんがkt4kれあkが‼︎」


どこからともなく、先ほどのなり損ないの声が響く。


こちらを探している様に、あちこちから建物を破壊する音が響く。


あれだけ何度も両断し、押しつぶしたというのにその声は未だに元気そうだ。


「これだけ元気そうだってなると、核には傷一つ付いてないって感じだな」


「そうね……族長の話だと核は宝石の入った首飾りだって言ってたから。さして耐久力のあるものじゃないと踏んでたんだけど……」


フェリアスの言葉に、俺はふむと考える。


あんまり考えるのは得意じゃないが、それでも自分の村のことだ。


「なぁ、そもそもどうしていきなり魔獣塊なんてでてきたんだろうな? 族長はずっと昔からルビーのペンダントをつけてるし。 それでも魔獣塊なんて出てきたことは一度もなかったぞ?」


俺の言葉に、フェリアスは少し驚いたような表情をし。


その後に「なるほど」という言葉を漏らす。


「核は……ルビーのペンダントじゃないんだ。 私たちの想像以上に、なりそこないに知恵があると仮定するなら、あの泥人形を囮にして本体は高みの見物を決め込んでいる……そうすれば合点が行く」


「どういうことだよ? 狐の尾の核ってそんなに簡単に変わるものなのか?」


「魔獣塊は封印を一度きちんとされれば、外的要因が無い限り外に漏れだすことはしない。

だけど、外側からなら結構簡単に封印を解くことができるのよ。持ち主が死亡、もしくは封印している入れ物が破壊されればいいだけだからね」


おれは、初めて魔獣塊と戦った際にセッカの言った「首を落とせ」という言葉を思い出す。


「なるほど、結構簡単に外に漏れだすんだな」


「そういうこと。 器が壊れれば、九尾の尾は自然と外に漏れだす。 だからこそきっと、誰かが族長のペンダントを壊して、狐の尾の力を奪おうとした」


「……何のために?」


「狐の尾は純粋な力の塊。 封印されていたら力は発揮できないけれども、その力を身につければ莫大な力を得ることができる……もちろん制御できればだけど。最近そういう力を渇望してた奴っていなかった?」


「候補ならいくらでもいるぞ、俺の村では来月、時期族長を決める紅月祭というのが開かれる予定だったし……人狼族(おれたち)は力の弱い奴は族長とは認めないから、圧倒的な力なんてみんな欲しがってたよ」


「ふーん……じゃあ逆に、その候補者ってやつの中で一番実力が疑問視されていた奴。もしくは最近になって急に不利な立場に立たされた奴っている?」


「……あっ」


その言葉に、俺はふと思い出す。


なるほど、確かにあいつが犯人なら最初に真っ先にセッカを襲った理由もわかる。


「……心当たりがあるのね?」


「あー、うん……まぁ、もともと実力は疑問視されていたんだけど、おれがボコボコにしちゃったせいで、多分大きく不利になった奴はいるなぁ」


「となると、魔獣塊の核は今そいつになっている可能性が高いわね」


「まじかぁ」


深いため息が漏れる。


たしかに、フェリアスの推理が正しいのだとすれば。


魔獣塊の封印を解くという迂闊さも、自分だけ安全圏から攻撃を仕替けるなんていう姑息さも、あいつなら可能性は大いにある。


「ガルドラ……」


思い出すだけで気が重くなる族長の息子。


いつまで迷惑をかけるつもりだ……とこころのなかで呟きながらも、おれは一人ガルドラの匂いをたどることにするのであった。

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