第20話人狼族村の攻防

「なりそこない……」


「九尾の狐になりきれず、だがそれでも九尾の真似事をする存在。だからなりそこない」


「皮肉な話だな」


「え?」


「いや、なんでもない」


まさか、おれのことを散々なりそこないと蔑んでいた村人たちが、なりそこないなんて呼ばれる化け物になるとは皮肉だとしてもできすぎている。


恨みもあるし好きでもない村人たちではあった。


奴隷のように扱われ、正直二度と顔も見たくない奴らだが、それでも殺されるほどのことはしていないはず。


憤ることも出来ず、喜ぶことも出来ない。


そんななんとも言えない気持ちを抑えて剣を構える。


こんな空虚な気持ちは初めてだ。


「……それで、そのなりそこないってのはどうすれば倒せるんだ?」


「体の作りは魔獣塊とはかわらない。どこかに核になるものがあるはず」


「それがどこかわかるか?」


「それが簡単にわかれば苦労しないわよ……まぁ、なぜかセッカのやつは核の位置を正確に割り出せるんだけど……少なくともわたしにはそんな大層な能力ないわ」


「セッカのやつ、こういう大事な時にかぎって役に立たないよな」


「今頃気づいたの? あいつ頭もいいしなんでもそつなくこなす優等生だけど……大事なところでいっつも大ポカするお間抜けさんなのよ」


「なんとなくそんな気がしてたがやっぱりか」


頭のなかでセッカの「にょわぁ」という声が響く。


何もかも自分の掌の上……みたいな顔しているくせに、事あるごとに漏れ出す残念な叫び声が思い出される。


やれやれ、とんでもない奴について来てしまったものだ。


「さて……だとしたら後はどうやって核を探すかだけど……」


依然俺たちを興味深そうに眺めるなりそこない。


俺の顔を不思議そうに眺める姿からは俺の記憶が残っている様子はなく、俺は全く違うものだと割り切って剣を放つ。


【断空‼︎】


先手必勝。


空気を切り裂き、泥を両断する俺。


だが。


【ぎゃうぁk;hふぁこんっくばお@んふぁじぇんr‼︎‼︎】


俺の敵意を感じたのか、魔獣塊は叫び声をあげると、風船のように体が膨らみ。


やがてその体は弾けて、四方へと飛び散る。


「ば、爆発したですって‼︎」


「いや、ちがう‼︎」


一見すればただの自爆。


だがその破裂により、魔獣塊は見事俺の断空を回避した。


剣を外したというのは生まれて初めてだが、行き場をなくした斬撃は、村の外壁を両断し。


それを見送った後に四方に散った泥はまた集まり、人の形をなす。


「人の形をしてるから、てっきり人っぽいのかと思ったけれど。 その実態は完全に化け物って言ったところなのね……だったら容赦はしないわ‼︎」


その様子を見て、フェリアスは魔力を高めて魔法を放つ。


【アイスエイジ‼︎】


先ほど無数に伸びる腕を氷漬けにした絶対零度。


高速で放たれるその魔法は、間違いなく魔獣塊を包み込み氷漬けにする。


はずだった。


【ふぁkf人じゃk狼jfかjふ変あpkjらえr化ぁ‼︎】


それは、まるで泥の塊が一匹の化け物に変わる瞬間のようで。


やがてその泥は、趣味の悪いことに……もしくは飲み込まれた人々の真似事でもするかのように。


人狼族の姿形を取る。


【すslkd;;;;;;;;kdlっっklすslk‼︎】


泥から伸びる爪と牙は、色が黒いことだけを除けば完璧な人狼族だ。


【がkは@mn;ktなkjんfぁkらjふぁえれ‼︎‼︎‼︎‼︎】


怒号とともに、大地をめくり上がらせて、アイスエイジの範囲から離脱。


そのまま魔法の技後硬直のせいで動けなくなったフェリアスに、泥で作られた牙と爪で攻撃を仕掛けて来る。


「危ない‼︎ フェリアス‼︎」


一閃。


フェリアスに振り下ろされた泥でできた爪。


ふれればおそらく怪我では済まないであろうその一撃を俺は泥とフェリアスの間に割って入って防ぐ。


【fはおfhだんじゃrねwr‼︎?】


「ぐっぐうぐぐぬぬ‼︎?」


泥でできていながら、まるで巨大なハンマーで殴りつけられたかのような感覚。


腕と足、両方を人狼変化させているというのに……この衝撃。


鋭さはさておき、重さだけならガルドラの一撃をはるかにしのぐ。


「ご主人様‼︎ 頭下げて‼︎」


「へっ‼︎?」


そんな中、急に背後から響くフェリアスの怒号。


おれはその言葉に反射的に背後を確認してみる。


この背中の悪寒、気のせいだと嬉しいんだけど……。




「決戦凍氷‼︎」


「ど、どわああああぁ‼︎?」


背後から走る巨大な氷の塊。


悪い予感は大的中。


フェリアスのやつが遠慮なしに放つ一撃必殺の奥義に、俺は絶叫をしながら死に物狂いで泥の爪を弾き、その場に伏せる。


またもや「ちっ」というなにかが髪を掠めるような音が響き。


「ちぇすとおおおおおぉ‼︎」


なりそこないはその巨大な氷の刃により、なすすべもなく押しつぶされ、そのまま村を覆う壁へと叩きつけられる。


【あ;hふぁ;fはkじゃべ‼︎‼︎?】


両断された上に巨大な氷の塊を叩きつけられた村の城壁は、悲鳴をあげるかのように崩壊し。


がらがらと崩れる瓦礫の下敷きになるように、なりそこないは埋もれていく。


「お前なぁ……うまく回避できたから良かったけど、俺が巻き込まれたらどうするつもりだったんだよ」


「あら、ご主人様を信じての行動ですよ。 まぁ仮に事故でお亡くなりになられたならそれはそれ、奴隷として働く時間が短くなるってだけだもの」


「なんてやつだ……」


口を尖らせて抗議をしてみるも、あっけらかんとそう言い放つフェリアス。


俺はそれにため息を漏らし。立ち上がる。


「まぁ、それはともかく、これで終わりね……いかに核を巧みに隠していても、あれだけ綺麗に潰されりゃ關係ないでしょ。やっぱり魔獣塊退治は【押しつぶし】 この手に限るわ」


*この手しか知りません。


「まさかお前、ほかの魔獣塊にもこんなことを……」


「当たり前じゃない。 お陰で三本も核を集められたんだから」


「……えげつねぇ」


それがどうしたの? とでも言いたげなフェリアスの表情に、俺は少し引き気味にそう呟くが。


フェリアスはどうやらその態度が気に食わなかったらしく頬を膨らませる。


「なによ、何が問題だってのよ。 こうした方が効率がいいのよ‼︎ 言っとくけど今回は私が魔獣塊を退治したのだから、狐の尾は私が……‼︎?」


私がもらう。


そう言おうと口を開いたフェリアス。


しかしそれを言い終わるよりも早く。


槍のように伸びた黒い泥が……フェリアスを背後からつらぬいた。

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