第5話 『台本で遊ぼう!』

ようこそ演劇サークルへ ~大学で冴えない俺が演劇サークルに出会って人生変わった話~


第5話『台本で遊ぼう!』

作 えりんぎ♂


【演劇サークルの部室】


 いつもの演劇サークルのメンバーが集まっている。


福島「今日は台本を使って練習するで!」

みんな「はーい」

井上「台本を配るね」


 井上はそれぞれに1枚づつ紙を配る。

 吉田は受け取った台本を見る。

 ※使用台本は第5話と同時更新『朝の一時』参照。読まなくても問題ないです。


吉田「…?ヘタ?あの、『下手(へタテ)側』ってなんですか?」


 吉田は台本に『Bが下手(シモテ)側に立っている』と書いてある所が気になったようだ。


井上「ヘタ?あ~『上手(カミテ)』と『下手(シモテ)』の事かな?」

福島「吉田くん!これは『下手(ヘタ)』やのうて『下手(シモテ)』って言うんやで!」

吉田「『下手(シモテ)』?」

福島「アカネン!間島くん!」

川村「お~」間島「はい!」


 川村と間島は部室内にある舞台に見立てた簡易舞台に移動する。

 川村が吉田達から見て右側、間島が吉田達から見て左側に立つ。


川村「こっちが『上手』」

間島「こっちが『下手』!」

福島「そういう事や!」

吉田「…えっと、場所って事ですか?」

井上「そうだね、『上手』は客席側から見て右側、『下手』は客席側から見て左側を表す言葉だね」

吉田「…なるほど…でも、それって『上手』『下手』じゃなくって普通に右左じゃダメなんですか?」

井上「あ~、それは、舞台の演出を付ける時や準備等で指示するときに右左だと混乱する場合があるからだね」

吉田「混乱する?」

井上「例えば…川村さん、少し『右』に移動してくれる?」

川村「『右』って、部長から見て?あたしから見て?」

吉田「あ、なるほど」

井上「そう、こういう風に客席側から舞台を見ている人と舞台に立っている人では同じ『右』と言っても基準によって変わってしまう場合がある。そんなときにいちいちどっち基準なのかとか指示するのは大変でしょ?だから…川村さん、少し『上手』に移動してくれる?」

川村「あぁ」


 川村はすんなりと吉田達から見て右に移動する。


吉田「おぉ」

井上「『上手』は客席側から見て『右側』、重要なのは『客席側から見て』っていう言葉、この言葉があるから川村さんにとっても『上手』は『客席側から見て』『右側』っていう認識は同じ、だから混乱しなかったんだ。こういう風に『右』『左』よりも『上手』『下手』を使った方が指示する側と受け取る側の認識に齟齬が発生しないって事だね」

吉田「なるほど~」

福島「『上手』『下手』は舞台だと必ずって言っていいほど使うから覚えといて損ないで!」

吉田「なるほど…『上手』『下手』」


 吉田は渡された台本にメモを取った。


福島「あと分からん所ない?」

吉田「待ってください…えっと…」


 吉田は台本を見る。


吉田「あ、この『下手からはける』の『はける』ってのはなんですか?」

福島「あーそれは…間島くん!『下手』から『はけて』!」

間島「はい!」


 間島は簡易舞台の『下手』から退場する。


福島「『はける』は見ての通り、舞台袖に退場する事や」

吉田「なるほど」

井上「ちなみに人間だけではなく舞台上にある大道具や小道具を袖に出すときも『はける』を使うときがあるね」

吉田「なるほど、『はける』!覚えました!」


 吉田は渡された台本にメモを取った。


井上「他に分からないの何かあるかな?」


 吉田は台本を読み返す。


吉田「うーん、大丈夫そうです!」

福島「よっしゃ!じゃあやってくで!」

みんな「はーい」

福島「じゃあ、まずは手本や!アカネん!間島くん!」

川村「あぁ」間島「はい!」


 川村と間島はそれぞれ位置につく。


井上「じゃあいくよ、よーい」


 パンッ!

 井上が手を叩いた。


≪川村と間島のお手本≫


 川村が下手側に立っている。

 間島が上手から入ってくる。


間島「『おはよう』」

川村「『おはよう』」

間島「『元気?顔色悪いみたいだけど?』」

川村「『いや、元気だよ』」

間島「『そう?よかった』」


 間島は下手方を見て


間島「『あ!おはよう!』」


 誰かを見つけたかのように下手に声を掛けそのまま下手に移動し、舞台からはける。


 パンッ!

 井上が手を叩く。


井上「うん、2人共ありがとう」

福島「まあ、台本そのままやるとこんなんやな」

吉田「…なんていうか、普通の日常会話?ていうか、短いですね」

福島「せやな、パパっとやれる練習用台本やからね」

吉田「なるほど」

福島「ただ、今回はここからちょっとした演出をつけんで」

吉田「演出?」

福島「せや、実際舞台をつくるときは台本をそのままやるんやなくって、そのお芝居をやる目的や客層に合わせて、演出家に『ここはこういう風にしてくれへん?』みたいな演出をつけられる。そういったときにしっかりとそれに応えられるようにするのも役者や、今からするのはそれの練習やね」

吉田「なるほど」

井上「うん、そうだねぇ…場所は会社のオフィスで間島くんが元気のいい体育会系の上司、川村さんが上司の事が苦手な部下の1人、試しにそういった設定でやってみようか…朝、出勤してきた苦手な上司に挨拶をされて、テンションが下がる部下って感じのシチュエーションかな?ちょっと話し合って台詞とか調整してやってみて貰えるかな?」

川村「おう」間島「はい!」


 川村と間島は話し合った後、それぞれ位置につく。


川村「…よし、いいぜ」

井上「うん、それじゃあいくよ、よーい」

 

 パンッ!

 井上が手を叩いた。


≪川村と間島のお手本2≫


 川村が下手側に立っている。

 間島が上手から入ってくる。


間島「『おはようございます!』」


 間島は吉田達の方に身体を向けて元気よく声を出す。


間島「『お!おはよう!』」


 間島は下手にいる川村を見つけ近くに寄り声を掛ける。


川村「『…おはよう、ございます』」


 川村は比較的小さい声で答える。


間島「『おいおい!元気ないなー!大丈夫か!?顔色悪いぞ!?』」

川村「『…いえ、大丈夫です』」

間島「『そうかぁ!?なら!よかった!』」


 間島は下手側を見て何かを見つける。


間島「『おぉ!おはよう!』」


 間島は下手側に手を振りながら下手に移動し、舞台からはける。


川村「『…』」


 川村は間島がはけた方向を不機嫌そうに見つめていた。


 パンッ!

 井上が手を叩いた。


井上「2人共ありがとう」


 そう言って井上は台本に何かを書き込む。


吉田「おぉ、なんかそれっぽいですね」

福島「せやね、2人共パパッと合わせられるんは流石やね」

井上「うんうん、2人共良かったよ。僕が出した要望もしっかり反映して貰えたしね。ただ、川村さんが上司の事を苦手っていう気持ちがもう少し見えるとわかりやすいから…間島くん、『元気ないぞ?』って川村さんに声を掛けるときにもっと覗き込むようにしてやって貰えっていいかな?さっきよりも『心配してるんだぞ~』って感じで。そうすれば、川村さんがもっと気持ちを出しやすくなるんじゃないかな?」

川村「確かにそれはかなりウザそうだな…頼めるか?」

間島「もちろん!」

井上「よし、じゃあ、間島くんが川村さんに『おはよう』と声を掛ける所からやろうか」

川村「あぁ」間島「はい!」

吉田「おぉ、部長がそれっぽいこと言ってるような気がする」

福島「ヒロがやっとるんは、芝居を客観的に観て改善点や評価を伝えて、そこから目的にあった軌道修正をする、演出家として重要な仕事のフィードバックやね」

吉田「なるほど」


 川村と間島は位置につく。


井上「じゃあ、よーい」


 パンッ!

 井上が手を叩いた。


≪川村と間島のお手本3≫


 下手に川村が立っていて、上手から間島が入ってくる。


間島「『お!おはよう!』」


 間島は川村の近くに寄り声を掛ける。


川村「『…おはよう、ございます』」

間島「『おいおいおい!どうしたぁ!?元気ないなー!』」


 間島はそう言いながら、川村の肩に手を乗せる。


川村「『…ッ!』」


 川村がビクッとする。


間島「『大丈夫か!?顔色悪いぞ!?ん?』」


 間島はそのまま、川村の肩に手を置きながら顔を覗き込むようにして聞いてきた。


川村「『…い、いえ、大丈夫です…』」


 川村は苦笑いしながら、間島の手を退ける。


間島「『そうか!?なら!よかった!』」


 間島は下手側を見て何かを見つける。


間島「『おぉ!おはよう!』」


 間島は下手側に手を振りながら下手に移動し、舞台からはける。


川村「『…チッ』」


 川村は間島がはけた方向を横目で見ながら小さく舌打ちした。


 パンッ!

 井上が手を叩いた。


井上「うん、いいね。わかりやすくなったと思う」

吉田「たしかに、さっきより川村さんの気持ちが分かりやすかったような気がしますね」

福島「せやね!それも多分、間島くんの肩ポンのおかげやな!あれ、滅茶苦茶ウザいしキモかったわ!」

間島「キモ…!?それは誉めてるんですよね!?」

福島「誉めとる誉めとる」

川村「あぁ、お陰でやりやすかったからな、サンキュー間島」

間島「そっか!それなら良かったよ!」

福島「ちゅうわけで、吉田くん!芝居はこういう風にトライ&フィードバックの繰り返しでより洗練させていくわけや!」

吉田「なるほど!」

福島「じゃあ!わかったところで次は実践!ウチらもやるで!」

吉田「え!?俺もやるんですか!?」

福島「当たり前やろ!?なあに安心しい、そんな気ぃ張らんでも昨日のごっこ遊びみたいに楽しんでやればええんねん!」

吉田「昨日の…わかりました」

福島「よっし!ヒロ!お題!」

井上「うん、わかった…さっきと同じ台本で、別のシュチュエーションにするね。そうだね…場所は学校の教室、しおりが誰にでも平等に接する明るい女の子、吉田くんがその女の子に密かに好意を寄せる男の子…朝、好意を寄せる女の子に挨拶をされてしどろもどろになるみたいなよくあるシュチュエーションはどうかな?」

吉田「…え?恋愛ものですか?」

井上「うん、恋愛のテーマは一般的に関心が高いから想像がつきやすいし、やりやすいかなと思って…ごめん嫌だった?」

吉田「いや、嫌というかちょっと恥ずかしいというか…」

福島「ならちょうどええやん!今後、恋愛ものをやるかもしれへんし!今やって恥ずかしさを克服しようや!」

吉田「えぇ…」

福島「…吉田くんはウチとやるの嫌なん?」


 福島は捨てられた子犬のような瞳で吉田を見つめる。


吉田「…はぁ…わかりました、やります」

福島「よっしゃ!どんな感じか試してみたいから、1回軽く通そか!」

吉田「…通す?」

福島「台本を最初から最後まで通してやる事を『通し』って言うんや」

吉田「なるほど」

福島「じゃあ、ヒロの言ったことを踏まえてとりあえず通してみるで」

吉田「わかりました」


 吉田と福島は位置につく。


井上「それじゃあ、試しにね。よーい」


 パンッ

 井上が手を叩く。


≪吉田と福島の練習≫


 吉田が下手側に立っている。

 福島が上手から入ってくる。


福島「『うーん!今日もいい天気やなぁ!』」


 福島は背伸びをしてクソでかい独り言を言う。


福島「『おぉ!おはようさん!』」


 福島は下手にいる吉田を見つけ近くに寄り声を掛ける。


吉田「…オ、オ、オ、オハヨウゴザイマス」


 吉田はとんでもない棒読みで答える。


福島「…『元気?なんや、顔色悪いみたいやけど?』」

吉田「イ、イヤ、ダ、ダ、ダ、ダイジョウブ…ダヨ?」

福島「…『そっか、なら』…いや!良くないわー!」

 

 パンッ!

 井上が手を叩いた。


福島「ちょっと!吉田くん!それ演技ちゃうやろ!?なんでそんなに緊張してんの?」

吉田「いや、すいません…なんか、台詞が決まってると、それを言わないとって思って緊張しちゃって…」

福島「今回は流れさえできてれば台詞はそんな重要やないからそんな気にせんでええねん、昨日を思い出して楽にやろうや、楽に」

吉田「…楽に…はい」

福島「ヒロ!もう1回!」

井上「いいの?わかった、よーい」


 パンッ!

 井上が手を叩いた。


≪吉田と福島の練習2≫


福島「『うーん!今日もいい天気やなぁ!』」


 福島は背伸びをしてクソでかい独り言を言う。


福島「『おぉ!おはようさん!』」

 

 福島は吉田の近くに寄り声を掛ける。


吉田「…『おはよ』…ん…いや、『おは』…あれ?」


 スッ

 福島が手を挙げる。


 パンッ!

 井上が手を叩いた。


福島「今度はなんや?」

吉田「いや、なんか台詞の言い方がしっくりこなくて…」

福島「言い方なんてええねん!どうでも!ええか?大事なのはイメージや、しっかりイメージして体感する事ができれば自然とそれっぽい台詞になるもんやで!」

吉田「イメージ」

福島「せや、昨日のイメトレを思い出すんや…さぁ、イメージして~、ここは高校の教室内…吉田くん、高校の名前は?」

吉田「…若羽高校です」

福島「2年何組?」

吉田「…4でした」

福島「じゃあ、今この空間は若羽高校2年4組、朝の陽ざしが教室に差し込んどる…他の生徒もボチボチ登校してきて、それぞれ駄弁ったり、気だるそうにしとったり、中には提出物を焦ってやってる奴もおるやろなぁ」


 吉田は福島に言われた通り、目を閉じてイメージする。


吉田「…(2年4組…、懐かしいな…2年のときは林も同じクラスだったから、そこまで悪くなかったような気がする…うん、イメージ出来てきた)」


 吉田は目を開ける。


福島「イメージが固まってきたようやな、じゃあ、次は好きな人や!」

吉田「す、好きな人?」

福島「せや!ここが一番大事や!当時、好きだった人、気になっとった人をイメージするんや!」

吉田「(好きだった人…!?いや、高校のときはそもそも女子と関りが無かったから、好きと言われても…)えっと…」

福島「イメージが難しかったら、当時じゃなくても今でもええで!」

吉田「今…」


 吉田の視線が川村の方に滑り、川村と目が合う。


川村「?」

吉田「(いやいやいや!)」


 吉田は直ぐに目を逸らし首を振る。


福島「……!」


 その様子を見た福島はニヤリと笑う。


福島「…なるほど、イメージ出来たようやな」

吉田「え?」

福島「じゃあ、その子が同じ高校の同級生で憧れてる存在や!今から相手にその子に接するの同じように接すればええ」

吉田「…なるほど」

福島「よし、アカネン!ウチと交代してくれへん!?」

吉田「は?」

川村「あ?」

福島「いやな~、ウチ関西弁しか喋れへんから、もしかしたら吉田くんのイメージを邪魔してしまうかもしれんと思ってな」

吉田「え?いや…」

福島「吉田くんの憧れの人って関西弁?」

吉田「…違いますけど…」

福島「そういうことや!頼むでアカネン!」

川村「…別に構わなねえけど、あたしに代わっても対して変わんねぇだろ?」

福島「いやいや、ウチの感が言うとるアカネンの方が器用やから上手くいくって…なぁ!頼む!」

川村「…はぁ、わかった」

吉田「(えぇ!?)」


 福島と川村が入れ替わる。


川村「で、吉田、あたしはどんな風にすればいい?」

吉田「え?いや、えっと…」

福島「何もせんと大丈夫や!アカネンが思う平等に接する明るい女の子でいけばええ!」

川村「なんで、おまえが言うんだよ?なぁ吉田」

吉田「あ、えっと…多分、そんな感じで、大丈夫だと思います…」

川村「そうか?…わかった、じゃあそれでいくわ」


 吉田と川村のやりとりを見てニヤニヤしている福島。


間島「何故?笑っているんですか?」

福島「いや、何でもない何でもない」

間島「?」


 吉田と川村が位置につく。


吉田「(落ち着け!…俺!…そうだ、とにかくやるんだ!イメージして…イメージして…)」


 吉田は自分がいた高校の風景をイメージする。

 気温、日差し、匂い、間取り、自分の席、記憶を辿りイメージの中で再現していく…そして、川村を自分の同級生として、憧れの存在として、その再現したイメージに上書きする。


井上「じゃあ、いくよー、よーい」


 パンッ!

 井上が手を叩いた。


【若羽高校2年4組の教室】


 朝、7時45分、大体いつもの時間にクラスの前に到着した。

 扉を開けると当然見慣れた光景が広がっている。まばらにいる生徒たちそれぞれ駄弁っていたり、机に突っ伏していたり、提出物を焦ってやっていたり…

 

川村「お、吉田!おはよう!」

吉田「!!」


 後ろから唐突に声を掛けられ、ビックリして振り返る。

 

川村「よ!」


 そこには、クラスの人気者である川村さんが立っていた。


吉田「あ…えっ…」


 少し不良っぽい見た目とは裏腹に、俺のような日陰者にでも笑顔で挨拶をしてくれる、そんな誰にでも分け隔てなく接する明るい性格、それが彼女の人気秘訣だ。


吉田「か、川村さん…お、お、おはようございます」


 予期せぬ不意打ち喰らったため、言葉が上手くでなかった。つうか、今の俺かなりキモくなかったか?


川村「ん?なんか、おまえ顔赤いぞ?熱でもあるんじゃねえか?」


 川村さんはそういうと俺の額に手を当て、もう一方の手を自分の額に当てた。


吉田「うぇ!?…ぁぇ…え、あ、あのぉ…」

川村「うーん、わからん」


 そう言うと川村さんは額から手を離した。


吉田「だ、だ、だ、大丈夫です!…元気ですから!」

川村「そうか?それならいいけど、無理すんなよ?」

吉田「は、はい!」

クラスの女子「あ、あかねー、おはよう」

川村「お!おはよう!」


 川村さんは声を掛けてきたクラスの女子の方へ行く。

 俺は、その背中を目で追いながら川村さんが触れた額を確かめるように指でそっとなぞった。


 パンッ!

 井上が手を叩く。


【演劇サークルの部室】


吉田「…」

井上「うん、良かったよ。吉田くん」

吉田「!…あぁ、えっと…ありがとうございます」


 吉田のイメージと川村の立ち位置が上手くかみ合った結果、吉田は演技に集中する事が出来ていたようだ。


福島「いやぁ!良かったで!吉田くん!」

間島「凄く!自然な演技だったよ!」

吉田「あ、ありがとうございます」


 演技を終えた吉田は不思議な高揚感を覚えていた。


吉田「(…しっかりイメージしたおかげか、やってるときは本当にその状況に入り込めてやれたような没入感があって…それがよかったのかな?上手くいったというか、上手くかみ合ったというか、こう、ピースがピッタリハマったっような感じ…それがなんか気持ちよかった…!…もしかして、これが演技の楽しさなのか!?)」

川村「上出来だったな、吉田」

吉田「あ、川村さ…」


 吉田は、一瞬、川村の姿が制服姿であるかのように見えた。


吉田「え?」

川村「どうした?」


 だが、当然そんな事ある筈が無く目の前には先ほどと変わらずジャージ姿の川村が立っていた。


吉田「あ、いや…」

福島「いやぁ!アカネンも良かったでぇ!あの吉田くんの額に手を当てるヤツ?アレは勘違いしてまうな!」

川村「あぁ、アレはさっきの間島の肩ポンを参考にしてな、やっぱ、ボディタッチってのは強い表現だぜ」

間島「そうか!僕は強かったのか!?」

川村「表現の話な」


 サークルメンバーが盛り上がる中、吉田は1人さっきの事が少し気になっていた。


吉田「(さっきのは一体…イメージを頑張り過ぎたのか?)」

間島「吉田くん!次は僕とやろう!」

吉田「え?」

福島「待て!待て!結局、ウチやれてへんねんから!ウチが先や!」

井上「ちょっと2人共ストップ。…吉田くん、疲れてない?休憩しなくて大丈夫?」

吉田「えっと…(まぁ、いいか、演技は楽しかったわけだし)はい!大丈夫です!まだやれます!」

福島「おっしゃあ、じゃあいくでぇ!」


 その日、サークルメンバーは退校時間ギリギリまで台本を使って遊んだ。

 

■登場人物


吉田康太(よしだこうた)…大学2年生。身長は170cmないくらい。髪の長さは長すぎず短すぎず。外を歩いているとよく知らない人に道を聞かれる。


川村(かわむら)あかね…大学2年生。身長は160前半。金髪プリンショートポニテ。小麦色の日焼け肌。学校や近所を徘徊するときはジャージかパーカー。


間島真(まじままこと)…大学2年生。身長は180前半。すっきりしたスポーツ刈り。黒ぶちの四角い眼鏡を愛用。ベンチプレス150kg挑戦中。


福島(ふくしま)しおり…大学3年生。身長は140前半。前髪ぱっつんショートヘア―。年齢確認率100%。


井上博人(いのうえひろひと)…大学3年生。身長は170前半。茶髪のミディアムショート。特技は後方保護者面。

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