ブラックブローカー
山羊
闇の仕事紹介屋
「眠い…」
強面のガタイのいいサングラスをかけた男は、睡魔と闘いながら目を擦っていた。
ふらふらと繁華街を歩いていた。
彼の名前は…分からない。
本人も自分の名前を忘れてしまっている。
物心付いた時にはゴミ捨て場でゴミを漁って食べていた。親の存在も分からない。
生き抜く為には、万引き、泥棒もいとわない。
幼き時の記憶は、ほぼない。生きる為に必死だった。
気がついたら、裏社会の人間となっていた。
だから、自分の名前が分からない。
だが、裏社会の人達から、彼はこう呼ばれていた。
「ブラックブローカー」
彼がこう言われるようになったのには、彼が始めた裏のビジネスが原因だ。
その裏のビジネスの内容は、こうだ。
自殺志願者を見つけて、優しい言葉をかけてあげて仕事を紹介する。
だが、その紹介する仕事というのは、勿論、普通の仕事ではない。
暴力当たり前、低賃金当たり前、長時間労働当たり前の超ブラックな仕事を紹介する。
彼がブラックブローカーと呼ばれるキッカケになった初めてこのビジネスをした時の事をつづる。
当時、ブラックブローカーと呼ばれる前の彼は、夜道を歩いていた。
踏み切りの前に死んだ目をして立ちすくむ高校生ぐらいの男の子が立っていた。
踏切が降りて来て、電車が猛スピードで迫ってる時に、男の子は、踏切内に足を進めようとしていた。
目の前で、死なれたら気分が悪いと感じると同時にあるビジネスアイデアがとっさに思いついたブラックブローカーは、男の子を蹴っ飛ばして、踏み切り飛び込み自殺を食い止めた。
強面の顔で怒った男の子を怒り、ビビらせる。その後に、すぐに満面の作り笑いをし、そのギャップから安心感と恐怖心を混ぜ合わせた得体のしれない感情を男の子に埋め込む。
話を聞いた所、その男の子が自殺しようとしたきっかけが
『誰からも必要とされてない』
という事を聞き出した。
その情報を元にブラックブローカーは、男の子に対して、『お前が必要だ』『どうせ捨てるはずだった命!俺の為に使ってみないか?』などと熱く語りかけ、男の子の心を掴み取り、人材不足で悩んでいたブラックな金融屋に紹介した。
その金融屋でその男の子は、奴隷のように扱われているという事を聞いた。
ブラックブローカーは、なんとも感じなかった。
どうせ、自殺して無くなっていた命だったんだ。別に壊れて無くなってもなんとも思わない。ゴミ。最後の再利用したぐらいの感覚だった。
だが、その男の子は、奴隷のように扱われても死ぬ気で頑張って、いつの間にか、出世していたらしい。
その功績を金融屋に気に入られてか、高額な紹介料をブラックブローカーは貰い、この自殺志願者専門の闇の職業紹介人としてのビジネスを本格的に始めていった。
その後は、恋人と別れて、電車に飛び込み自殺をしようとしていた女性を助けて
『どうせ捨てるはずの命、最後に元カレを見返す為に使わないか?』
『綺麗になって、元カレを見返さないか?』
『楽に稼げる仕事がある!』
などと言葉巧みに、騙していき、その女性を風俗に紹介したりしていた。
その女性が風俗で稼いだお金の数十%が仲介手数料として、ブラックブローカーの懐に毎月安定して入ってきた。
その女性が、病んで薬漬けになったという噂を聞いたが何も感じない。
むしろ、薬漬けになったって事は、忠誠心などが上がって毎月より大きなお金が入ってくるぐらいの感覚だった。
そのような事を繰り返しては、ドンドンブラックブローカーの知名度は上がっていった。
しかし、そんな生活の終わりは突然、だった。
繁華街の色んな夜の店で、飲み歩き、眠くなって目を擦っていたブラックブローカーだった。
そろそろ、帰ろうと思って繁華街の出口に向かい歩いていたブラックブローカーは背中を刃物で刺されていた。
自らの腹を見ると、血がべっとり付いた刃先が見えていた。
刺したのは、風俗に紹介されて薬漬けになった元自殺志願者の女だった。
女がブラックブローカーを刺した理由
『薬漬けで頭がおかしくなっていた』
で片付けられた。
その殺傷事件を機にブラックブローカーは名も無き人生の終わりを迎える。
葬式など行われない。
無縁仏に葬られた。
この事件から数年が立ち、当時を知る者たちの間である噂が流れていた。
『ブラックブローカーを刺した薬漬けの風俗嬢がブラックブローカー殺傷事件を起こす前に言っていた最後の言葉が『私、いつまでも綺麗にならない。あいつに騙された』だという事』
他にも、その風俗嬢の給料の半分以上がブラックブローカーの仲介手数料で取られていたなどの噂が流れたが、事件から数年経った今、真相は闇の中に放り込まれている。
完
ブラックブローカー 山羊 @yamahituzi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
同じコレクションの次の小説
関連小説
天才?八木教授の日常/山羊
★0 エッセイ・ノンフィクション 連載中 6話
100の質問に答えてみた!/山羊
★1 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます