恋隠れ
小雨(こあめ、小飴)
隠
最近流行りのバンド”ラブリーボーイ”、初めて出した曲が大ヒットし今では知らぬ人はほとんどいない、該当調査で9割の人が「聞いたことがある」と答えた今を時めく男子グループ。学校でも休み時間はラブリーボーイの話で持ちきりだ。
「チカちゃんはどの子が好き? 私は優くんなんだけどさ~」
友達が私に話を持ち掛けてくる。私は眼鏡をクイっと押さえて掛けなおしながら、
「わ、私はそういうの興味ないし……」
そう答えると友達は詰まらなさそうな顔をしてほかの集団に混ざりに行く。しかし、興味がないというのは嘘だ。だが決して皆には言えない、それには理由があった。
放課後、完全下校時間まで教室に残り課題を済ませ、先生に追い出されるかのように学校を出る。辺りは真っ暗で人はいない。眼鏡をはずして私は駅に向かい、そのまま電車に揺られ、都心へ向かった。
電車を降り、向かったのはライブハウ。件のラブリーボーイのライブがある日で、正面は行列ができていた。堂々とその行列を避けながら歩き、関係者入り口に行く。
「お! チカ! おはよう!」
ラブリーボーイ、ファンの間ではRBと略されることが多い、ボーカルの優が声をかけてくる。
「おはよ~学校大変だよねぇ」
このおっとりしているのはベースの濱、その性格と裏腹に激しいベースでギャップ萌えだと騒がれているバンドの人気2位。
「おっすーチカ、今日もよろしくな!」
最後にギターの亜希が手を振りながら近づいてくる。RBにはファンには言えない秘密がある。それは私、ドラムのチカが女であるということ、男子グループと事務所が発表してしまい、訂正する前に人気が出てしまったため、こうなってしまった。
実際事務所でもドラムを交代するか議論になった、しかし私はこのバンドが好きだし、亜希が好きだった。付き合っているのは事務所にもメンバーにも内緒にしている。バンドメンバーも交代は反対だったため、結局”チカは男”ということにしてライブをしている。チカのチャームポイントのサングラスをし、カバンからスティックを取り出す。ドラムのセッティングなどは事務所のスタッフが前乗りして調整をしてくれているので、あとは練習の成果を発揮するだけだ。
「よっしゃ、行くか!」
バンド内人気1位の優が先導をして皆の待つホールへ向かった。
「「お疲れ様でしたー」」
メンバー一同でスタッフに声をかけて会場を出る。私は少し間を開けて出る。一緒に出るといろいろ不都合があるからだ。
関係者口から出るとついさっきまで見てた顔がいた。
「よ、お疲れ」
優だった。いつものニカっとした笑顔ではなく何か真面目なことを言おうとしているのは明らかだった。
「優、お疲れ様。どうしたの?」
真面目な顔の優を始めてみるため、緊張したが悟られぬように、平静を保つ。
「そ、そのな、前々から思ってたんだけどよ、好きなんだよ。チカのこと」
意外過ぎるその言葉に顔が固まる。一瞬脳がフリーズするくらいには意外だった。返事をどうにか返そうとするが、
「返事は次のライブでいいから! じゃあな!」
そういって走り去っていった。混乱した頭をどうにか動かしとにかく帰路についた。帰りの電車の中で亜希にメールをする。
『あのさ、優に告白された』
『は? いつ? 今?』
返事はすぐに帰ってきた。亜希はいつもタクシーで帰るので返信が早い。
『返答は? したの?』
『次のライブまでにって』
そう返信するとため息のスタンプが返ってくる。そして優の告白よりも困惑する文章が返ってくる。
『まぁ、好きな方を選べよ。俺のことはいいから』
どういう意味か判断が付かなかった。まるで自分はいいといってるようにしか思えないが、私は亜希が好きだ。でもここで断れば気まずくなってしまうかもしれない、悩みに悩み、授業のノートもまともにとれずライブ当日を迎えた。少し早めに楽屋に入った私の数分後に亜希が来た。二人で会話を交わすものの、優のことが気になり少し気まずい空気が流れる。
「おはようございまーす…っと亜希とチカ早いじゃーん」
いつもと変わらない優が入ってくる。すると亜希が、
「悪い、俺トイレ」
楽屋を足早に出て行ってしまった。沈黙が私と優を包む。
「なぁ、答え聞かせてくれよ」
沈黙を破ったのは優、バンドリーダーである彼に何か言うのはかなり勇気がいる。が、気をしっかり持って言った。
今日もライブは成功に終わった。
「「おつかれさまでした!」」
メンバー全員であいさつをして関係者入り口から3人は出ていく。私は楽屋で課題をしてから帰ることにした。ライブ前のことを振り返りながら。
『聞かせてくれよ』
そういわれた私は、
『ごめん、私はこのバンドが好きなの、だから……』
『わかったよ』
残念そうに笑った優はそう言って一度楽屋を出て行った。次に戻ってきたときはいつもの優だった。
『お、なんだよー濱も来てんのかー! 遅刻みたいではずいじゃねーか!』
そういって亜希の肩を叩く。
『そろそろだよ~いこうよ~』
珍しく濱が先陣を切って楽屋を出る。それに続いてみんなステージに向かった。
課題を終わらせると時計は23時を回っていた。終電までは時間があるが帰らないと親が心配するだろう。
「さて、帰るかな」
独り言をつぶやいて帰ろうとした時、楽屋の扉が開く。そこにいたのはスタッフではなく濱だった。
「濱? 忘れ物?」
そう聞くと濱は珍しく真顔で頷いた。
「チカを忘れた」
デジャブを感じ、脳がフリーズする。しかし二回目なので今度は逃げられる前に答えを出した。
「私は……」
今日も学校は”ラブリーボーイ”の話題で持ちきりだ、ファン待望のファーストアルバムが発売されるのだ。中には限定曲や、新曲も入っている。
「ねぇねぇチカぁ、RB聞こうよぉアルバム貸すからさ!」
それでも私はいつものように言う。
「私はそういうの興味ないから……」
私はバンドが好きだ、亜希も恋人として好きだ。RB の曲すべてが好きだ。だから私は興味がないふりをしなきゃいけない。私のため、バンドのため、大好きなもののため。
恋隠れ 小雨(こあめ、小飴) @coame_syousetu
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