ノマドランド

題材は地味ながら腰のすわった掘り下げで見事な映画へ落とし込んだ「ノマドランド」見た


鑑賞:2021.1.1、記事公開:2021.1.4

監督・脚本:クロエ・ジャオ


フランシス・マクドーマンドが出ているので鑑賞。



中身を全然調べていなかったけど、アメリカの車で暮らす人たちの生活をドキュメンタリータッチで取り扱った映画だった。

いわゆるエンターテイメントでは無く、初老の女性が車中泊をしながら旅をしている様子が淡々と描写されるだけなので退屈な人には退屈かもしれない。

アメリカに住んだことはないし、題材自体は身近なものでは無いので共感できないが、登場する人たちの様子や話に心を動かされ、人生の意味や価値といったものを考えさせられた。


ノマドについてずいぶん昔に読んだ記事とはちょっとイメージが違った。

「職にあぶれた初老の人が家賃を払えず、止むを得ずキャンピングカーで暮らしながら、季節労働者のように仕事を転々としながら国内をさまよっている」という理解だったけど、映画では放浪者側から見た目線でまたちょっと見え方が違った。


何かしらの困難に向き合った時の対応の一つとしてノマド生活を選択した人たち。その中の一人としてマクドーマンドの演じる閉鎖された街を出てゆかざるを得ない初老の女性の目線で、同じ生活をしている人たちの様子を垣間見るようなアプローチ。


車上生活をしている人たちがそれぞれ自分のそれまでの生活に何を感じ何を求めて車に乗ったのか、が語られるシーンに心を打たれた。どうゆう脚本なんだろうと思ったけど、クレジットを見るにキャスト名と役名が同じな人がいるので、まんまそういう人を撮っているみたい。

原作もあるようなので、ドキュメンタリーでは無いだろうけど、個の切実な世界観が見えるシーンはとてもよかった。ガンにかかっている人とかもいて、ほんとかどうかはわからないが切実さの説得力が半端ない。

映像は夕暮れや早朝などで撮っているのか、かっちりとした絵ではなく陰影がありつつも陰鬱な印象は無い。音楽(劇伴?)も登場人物の心象を強調するのではなく、よりそうなピアノのメロディーだけが時折流れるだけ。足音や息遣い鳥の鳴き声など、そこにいる没頭感を強調するような作り。


反資本主義や大量消費社会に対する反発のようなものは漂流生活を送る動機の一つではあるようだけど、そう言ったわかりやすい対立軸の話じゃ無いところはよかった。


こんなに分かりやすさを前面に出さないでおもしろいのは凄い。

ひょっとしたら自分が登場人物と近い年齢になってきたから面白く見れたのかも。


note追記

祝アカデミー賞受賞

作品賞:ノマドランド、主演女優賞:フランシス・マクドーマンド、監督賞:クロエ・ジャオ

今作は制作のアプローチがかなり独特で挑戦作だったので、映画製作者たちの投票で決まるアカデミー賞としては納得の受賞。若干昨今の人種問題女性の権利問題の香りがするけど、そういうことも含めて世相が現れるものだと思うので問題なし。

他のノミネート作が見れないので比較はできないのだけれど。

フランシス・マクドーマンドはいつのまにかなんか凄い。

伊丹十三映画における宮本信子のような人かと思ってたけど、最近は貫禄が半端ない。個人的にはコーエン兄弟の作品に出ている彼女が早く見たい。


○企画主旨

分からない。監督の個人的な企画だと思う。基本ロケでキャストも役者はフランシス・マクドーマンドがメインで、ほかの出演者は実際に車上生活者らしい。

原作がどれだけの知名度かは分からないが、大きな予算は出ていないように思うので、クロエ・ジャオ監督の意気込みで立ち上がった企画だと思う。


○見どころ

やはりアメリカの老いたノマドワーカーたちの生き様というか、佇まいに引き込まれる。また、それをカメラの前で引き出した監督とそれに向き合えたフランシス・マクドーマンドの胆力に恐れ入る。おそらく2016年にアカデミー撮影賞をとった「レヴェナント:蘇えりし者」のようにマジックタイムで撮影されていると思う。というように、ぱっと見では気づきづらい粘り強く気合の入った制作姿勢が作品賞・監督賞・主演女優賞につながっていると思う。

題材よりも作品への向き合い方に価値があると思わせてくれる作品だとおもう。

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