0.1mmの瞬間光線

転香 李夢琉

ライフル射撃は楽しいぞ

0.1mmの瞬間光線

あたら、ない……)


 あれはそう、中学最後の全国大会。全日本小中学生ライフル射撃競技選手権大会でのことだ。

 途中まではいつにも増して順調だった。今思えばそれが予兆だったのかも知れない――


(あと三発……Xを中てればファイナルに出られるかも)


 僕は撃つ間際まで余計なことを考えていた。

 残り三発、一発目10.5。惜しい、だがまだ巻き返せる。そう思っていた。

 だが二発目、身体が一瞬グラついた。僕の指は意思とは関係なしにトリガーを引いた――その結果7.4。

 引いてしまった衝撃と大きく外れてしまった悔しさからスタンドに銃を勢いよく置いてしまった。「ガッ」という衝突音がしたが、頭が負の感情で押され気にすることすら出来なかった。


(とりあえず深呼吸だ……)


 僕は一度銃を置き、大きく深呼吸をした。水分も摂取し再び深呼吸をする。ライフル銃を構え息を吐きながら重心を落としていく、トリガーに指を掛け遊びを――撃った。


(えっ?! ……8.8)


 僕は驚愕のあまり一瞬目を疑った。

 本来トリガーを引く際には“遊び”と言われるものが存在する。トリガーをゆっくり引いていくと少し引っ掛かるポイントがあるのだが、そこで指を止め、握るようにトリガーを引かなければならない。そうしなければブレてしまうからだ。だが今回それをしなかった。否、出来なかった。無意識の内に力んでいた証拠だ。

 僕は銃を安全な状態にし射座を離れた。


 ――結果ファイナルにすら残れなかった。最後の二発で点を落としてしまい八位以上なら残れたのだが、残念ながら十二位と言う結果になってしまった。

 僕はその日以来、銃を触っていない。もちろん高校受験のためもあるが僕の中で何かが吹っ切れ、部室にすら行かず残りの中学生活を送っていた。


 ――月日は流れ、希望の高校に無事入学することが出来た。それも県内でも有名な進学校である。多少中学のクラスメイトは入学したものの、僕は心機一転。新たな日々を過ごせると思っていた。あいつに会うまでは――

 それはクラスメイト達の自己紹介が終わった休み時間でのこと。


「……佐川中ライフル射撃部、三上翔太。あんたがそうだろう?」


 僕が本を読んでいるところに突然声を掛けてきた。驚きよりも真っ先に疑問を口にした。


「そう、だけど。なぜそのことを?」


 僕がそう返すとその人は呆れたように「やっぱりか」と呟いた。続けて


「俺は高円中ライフル射撃部の鷹野時たかのじ雅俊まさとしだ……この意味分かるよな?」


 僕は驚きのあまり目を見開いた。無理もない、この人は、鷹野時雅俊は中学最後の全国大会準優勝者だ。ファイナルに出た八人の名前はフルネームで覚えて。だがライフル射撃をしなくなった今覚える必要もなく、記憶から消してしまっていたのだ。


「どうして……いや、からかいに来たの?」


 僕が後半、眉を下げて言ったからだろうか、鷹野時はそんなわけあるかと笑い飛ばしこちらも真剣な面持ちでこう言ってきた。


「この学校に来たって事はライフル射撃をするつもりなんだろ? だったらいっしょ――」


「僕はもうしないよ」


(鷹野時くんには悪いけど……)


「僕がこの学校に来たのは、行きたい大学があるだけ。他に理由はないよ……ごめんだけど他を当たってくれる?」


 僕は少しだけバツが悪そうなそれでいて、突き飛ばすような言い方をした。ほとんど初対面の人にこんな言い方をされればすぐに諦めてくれるだろう。僕はそんな思惑もよそに会話を終わらそうとした。


「そうやって、逃げるのか? 中らないからって自分の限界をそこまでだと踏み止まって、もう成長したいとは思わないのか?」


「……少なくとも今の僕は思わないかな」


 ――キーンコーンカーンコーン。


 授業開始のチャイムが鳴った。少しの間沈黙が落ちると鷹野時は一言だけ言うと自分の席に戻っていった。


「なら今日の体験だけで良い。それだけ一緒に行ってくれ……これ以上は何も言わない」


 僕もそれで納得してくれるのならと頷いた。


 ――放課後。僕は荷物をまとめ、鷹野時と共に部活動体験に行った。やはりライフル射撃は珍しいと思う人が多いのか、大勢の人が部室へ向かっていた。

 荷物を置き射場を覗く。ライフルは四台、ピストルは三台撃てるようセットされていた。もうすでに一年生が体験をしておりなんだか賑わっている。

 そこで僕は異常な光景に目を見開いた。ライフルで常にターゲットの王冠が光っている射手がいたのだ。的の王冠は10.0以上を中てたときのみ点灯するようになっている。それがずっと光っているのだ。僕は自然とその人の近くへ足を運んでいた。


(すごい……ほとんどXエックスだ)


 Xとは10.6以上のことをそう呼んでいる。一発の最高得点は10.9これがど真ん中になる。

 僕が来た時点で45発撃ち終わっていた。残りの15発、このまま撃てばいったいどんな点数になるのだろう。

 気付けばわくわくしている自分がいた。


「翔太、あんたもライフルやってたんなら名前くらいは聞いたことあるんじゃないか? 海岡うみおか博人ひろとって」


 鷹野時が小声で言ってきた。


(海岡、博人……)


「あ、去年の」


 そこまで声を出すと鷹野時は無言で頷いた。気付けば海岡はもう撃ち終わっていた。

 早い、いくら何でも早すぎるだろう。競技時間としては45分間の間に60発撃つように決まっている。だがそれにしてもいや、もしかしたら僕が思い出していた時間が長かったのかも知れない。


(海岡博人先輩、去年の全国高校ライフル射撃競技選手権大会の優勝者でありながらまだ二年生。確か高校から始めたらしいから実質一年の練習で全国一位に……すごい人に会えたのは良いけど、もう僕はライフルをするつもりはないし……)


 心の中では関心に思いつつも、去年の失態を思い出し苦笑するように暗い気持ちになる。

 と、その人と目が合った。いや目の前、一メートルほどしか間がないのだから目が合わないわけもないのだが、撃ち終わった海岡先輩と目が合った。


「……あれ? 君って確か三上くんだよね?」


 突然そう訊かれ僕は困惑しながら肯定した。


「え、はい。そうですけど……」


「どう? ライフルやってみない?」


「いや……僕はいいです」


 僕は遠慮がちに拒否をした。だが


「一回だけ、一発だけで良いからさ。ほら、こっち来て」


 海岡先輩は手招きをしながら身体に身につけていたコートを脱ぎ始めていた。

 コートはライフル競技をするうえで重要な役割を持っている。まずは靴、これで足下を固定する。次にズボン、これで足腰を固定する。そして上着、これで上半身をある程度固定する。これだけで銃を構えたときにほとんど身体のブレがなくなる。最後にグローブ、銃を下から支えるため、手が痛くならないよう装着する。

 上着は学ランのように前ボタンが着いている。ズボンは足全体の裏側にチャックが着いておりそこで脱ぎ着出来るようになっている。


「俺も見てみたいな~」


 鷹野時がニヤニヤしながらそう言ってきた。僕は睨みながら射座に入り、ほぼ無意識に浅いため息を吐いた。


「ライフルやったことあるよね? 構えてみて」


 海岡先輩にそう促され、僕は渋々まとに対して肩と肩で直線になるよう横を向き足を肩幅に開く、そして肩当てバックプレートに脇の少し上辺りを挟むと銃を構えた。すると称賛の声が上がった。


「様になってるね~。そのまま裸撃ちする?」


「ああ、じゃあはい」


 裸撃ちとはコートを着ずに銃を持って撃つことを言う。当然ブレは激しく、中てることすら厳しい。

 他の射座で体験をしている初心者達は、コートを着ずに銃をスタンドの上に乗せて撃つスタンド撃ちをしている。主な目的は10点の位置を掴むためだ。

 僕はグローブを左手に嵌め、握り拳を作ると銃を下から持ち上げた。銃は身体と並行になるよう持ちゆっくりと的に合わせる。頬付けに頬を乗せサイトを覗く、フロントサイトと的の黒点が重なるよう調整しトリガーに指を掛ける。まずは遊びをし狙いを定める。


(大丈夫……あの時とは違う。ブレはするけど10点くらいなら……)


 僕は余計なことを考えていた。

 ジリジリとトリガーに力を入れてい――まただ。


(な?! ……あのときから、何も変わってないんだ)


 変に力んでいるせいか指がプルプル震える。また、意思とは関係なしにトリガーを引いてしまった。

 恐る恐る僕はディスプレイに映った得点を見た。

 ――7.4。あの日と同じ、最悪な点数だ。

 撃つのが恐くなった。

 指の震えが止まらない。

 心臓の鼓動がうるさい。

 周りの音が聞こえないほどに僕の頭は血液で圧迫されたかのように満たされていた。


「――くん、三上くん、三上くん?」


 気がつくと海岡先輩が心配そうに僕の顔を覗き込んでいた。


「すみません。やっぱり僕は、やらないです」


 僕はそう言いながら構えていたライフルを台の上に降ろした。そのまま逃げるかのように立ち去ろうとしたが


「……もしかして、緊張してる? それとも、余計なことでも考えてた?」


 ――図星だ。僕は咄嗟に振り返り肯定しようとしたが言い淀んだ。海岡先輩に背中を見せる形で止まり、震える右手を左手で抑える。


「まあ、緊張するなって言う方が無理だと思うけど、そんなに気を持たなくても良いんじゃないかな? それに緊張してるってことは冷静さも欠いてるかも知れない。もっと落ち着いて深呼吸してみたら良いと思うよ」


(そんなのはただのきれいごとじゃないか……僕は……)


「僕はっ……なんとなく続けてたライフルで、たまたま良い点が取れて、たまたま試合で良い結果が出せて、たまたま行きたい大学があったからこの学校に来ただけなんだよ……ライフルを続けるつもりも、アドバイスをもらう義理なんか……僕にはないよ」


(さすがに幻滅したかな……早く帰って寝よう)


 僕は帰ろうと足を踏み出した。射場を出て荷物を持つと階段を降り始めた。


「おい翔太! お前そんなんで良いのか! せっかく続けてたライフルを、あんな形で終わっちまって良いのか?」


「いいんだよ。僕には才能がなかった。それだけだよ」


 振り向き応える。再び足を出そうとするとまた同じ声が呼び止めてくる。


「おまえさ、それただの皮肉だって分かってて言ってるのか? とりあえず一発殴りたくなってきた」


「……あ、そっか。そういえばそうなのか」


 そういえばと思い出し、僕はなるほどと鷹野時君が言っていた意味を理解する。


「――三上くん」


 突然聞こえたその声に驚き目を見開く。そこには海岡先輩の姿があった。


「三上くんはさ、ただなんとなくライフルを続けていたわけではない。そうだよね? それは三上くん自身が一番よくわかってると思う。だって、なんとなく続けていたら。もうやらないつもりでいたのかもしれないけど、それだったらわざわざ唯一ライフル射撃部がある市内の高校を選ぶはずがないだろう?」


 すべて見透かされていた。もはや何と言えばいいのか、目を合わすことさえままならない。

 そうだ。最初はなんとなくで初めたライフルだったけど、いつのまにか「もっとうまくなりたい!」「もっといろんな大会に出たい!」って思うようになった。でも最後の大会であんな記録で、あんな結果を出してしまった。

 認めたくなかった。

 だから全部ライフルのせいにして辞めようと、逃げようと思った。

 でも結局……


「そう、だね。僕は心のどこかで期待していたのかも……またライフルをしたくなった時に、いつでも戻ってこられるように、わざわざこの高校を選んだ」


「見事、過去の三上くんはその目論みに成功したわけだ。しかも一番いい形で、ね」

 

「翔太、ライフルを続けるんならすることはひとつだよな?」


 その言葉に先導されるかのように僕は自然と体を正面に向ける。

 もう迷いはない。

 深呼吸をするとこう言い放った。


「僕はまだ、ライフルを続けたいです!」


 ――帰路に向け足早に階段を駆ける。

 早く帰って練習をしたい。

 もっと上手くなりたい。

 先輩や鷹野時君となら僕の知らない何かを教えてくれるかも知れない。

 足取りは不思議とすごく軽く感じた。

 一度は諦めた夢ももう一度目指せると思った。


 まだ僕は、もう一度僕はあの舞台を目指せる! いつまでもうじうじして情けないじゃないか! 僕はもう……昔の僕じゃない! みんなともう一度、全国に!!


 僕は家に着くや否や自前のコートにライフル銃を持ち飛び出すかのように出かけた。

 ライフル銃を持ち運ぶときは専用のケースに入れて銃だと分からないようにしなければならない。

 ケースに着いている肩紐を肩に掛けコート入れの肩紐も肩に掛け、多少重たいが去年までは当たり前にやっていたことだ。僕はそう思い早歩きで目的の場所に向かった。


「はぁはぁ、まだ閉店まで、時間ありますよね?」


「あら三上くんじゃない。ずっと来てくれないからどうしちゃったのか不安だったのよ。いつも通り撃っていくの?」


「あまり来る時間がなくて……はは、はい。あ、先に払いますね」


 受付のおばさんと少し会話をし射場に入った。

 適当な射座に入りコートと銃の準備をする。銃には目で覗くリアサイトと銃の先にはフロントサイトが着いておりこれを僕はいつも取り外している。箱の中から部品を取り出し六角で留めていく。付け終わると射座前方に置いてある台の上に置く。次にコート、まずは靴を履きひもを結ぶ。そしてズボンを履きチャックを閉め、腰にベルトを巻く。これで下半身はある程度固定された。最後に上着を羽織り、学ランと同じ要領でボタンを留めていく。これで全身防備された。いわゆるフルアーマーというやつだ。

 射座の真ん中に行き、ターゲットと一直線になるように立つ。スタンドを斜め前辺りに置き、足を肩幅くらいに開く。グローブを左手に嵌めライフル銃にバッテリーを挿す。肩当てバックプレートを右肩に当て、そのまま流れる動作でグリップを握る。左手で握り拳を作ると銃を下から持ち上げた。


 ライフル射撃競技の試合時間は、まず自分の射座に入って準備などをする15分。(射座入り)それからサイト調整などコンディションを整えるための10分。(試射)そして60発撃ち、記録を測る45分。(本射)これらが普通の大会で行われている実際の時間だ。ちなみに全国大会などランクの高い試合では、成績の高い上位8名の選手がファイナルというサドンデスのような試合が出来る。


 僕は海岡先輩に指摘された事を思い出しつつ慎重に撃った。――10.4。幸先としては凄く良い点数だ。今度は呼吸を意識しながら撃ってみる。――10.6。先程よりもブレが少なくなった。僕は試射の10分間海岡先輩に教わったこと、中学時代先輩に教わったことを思い出しながら撃った。

 ――10分が経過し本射が始まった。ここからが本番だ。

 呼吸。

 冷静。

 遊び。

 そしてトリガリング。実はこれがライフルを撃つ上で一番重要になってくる。まずトリガーを指の腹で捉えゆっくりと引く、この時に自然な動作で出来るとなお良し。少しずつ引いていくと引っかかりが出てくる、ここでキープ。

 この動作は無意識でしている。その間意識的に的を捉え、黒点とフロントサイトが重なるのを待つ。(身体が多少なりとブレているので揺れのタイミングを見計らう)少しの間キープしていると揺れが遅くなっていく、するとたまに全くブレないポイントが出て来ることがあるのでトリガーをゆっくりと握る。

 ――10.7。

 撃ったあとすぐには降ろさずに2秒ほど姿勢を止める。それから降ろした。

 これはフォロースルーといい撃った場所を“感覚で”覚えるためだ。

 僕は全く同じ動作、姿勢、呼吸で撃った。

 30発を20分で撃ち僕は少し休憩した。


(あと半分……余計なことは考えたらダメだ。目先の一発だけに集中――)


 残りの30発は15分で撃ち終えた。プリンターのリセットボタンを押し60発の合計を取り出す。


「よし! まだ感覚は衰えてないみたいでよかった」


 コートと銃を片付け、受付のおばさんにあいさつをすると僕は家に帰った。

 ――翌日の放課後。鷹野時と共に足早に部室へ向かった。部室に行くともう海岡先輩達が標的ターゲットやディスプレイの準備をしていた。僕たちも加わり準備の手伝いをした。


「……そうだ。鷹野時くんも一緒に測らない?」


「測る? 別に良いが……ん、一緒って誰?」


 僕は鷹野時の言葉を最後までは聞かず海岡先輩に話しかけた。


「良いですよね先輩? ……僕と鷹野時くんと60発。勝負していただけませんか」


 海岡先輩は驚いたように目を見開いていたがやがて納得したのか、なぜかニヤけながら「ああ、いいよ」と言った。

 準備が終わると僕たちはコートを身に纏い始めた。射座割は以下の通りだ。第一射的、鷹野時雅俊。第二射的、海岡博人。第三射的、三上翔太ぼく。これはくじ引きで決めたものである。

 今回は大会と同じよう試射10分、本射45分で測る。

 ――試射が始まった。この時間は主にサイト調整を目的としたものだ。

 射線を合わせ、スタンドの高さを調節し、足幅を調整する。深呼吸をし銃を自然な動作で持ち上げゆっくりと降ろしていく。トリガリングに気を付けながら握る。

 ――右下の10.3。サイトを左に回し調整。もう一度同じ動作で撃つ。

 ――下の10.4。今度は上に二つほど回す。再び撃つ。これを何度か繰り返し一番深いポイントを探る。そうこうしているといつの間にか10分はすぐに経ってしまう。

 ――本射の始まりだ。僕が構えると海岡先輩は少し遅れて銃を構えた。残念ながら鷹野時は僕の視野的に見えないので構えているのかすらも分からない。

 ――誰かの銃声が響いた。

 10.8。ちらっと海岡先輩のディスプレイを見るとそう表示されていた。僕は目線を戻しトリガーを引いた。10.4、まずまずだな。すると同タイミングで撃っていたのか鷹野時のターゲットの王冠が紅く光っていた。


(先輩も鷹野時くんも流石だね……さ、僕も)


 なるべく二人の点数は見ないようにしつつ自分の射撃に集中した。30発撃ち終わり僕は休憩するため銃を降ろした。事前に持ち込んでいた水筒で水分補給をする。ふと海岡先輩のディスプレイを見ると、すでに42発も撃っていた。単純計算で一分で二発撃っていることになる。首を後ろに回し鷹野時のディスプレイを見ると28発撃ち終わっていた。


(ふぅ……あと半分、集中だ)


 ――約10分後海岡先輩が60発撃ち終わりプリンターから記録を取り出すと射座を離れていった。その約5分後僕も撃ち終わりプリンターから記録を取り出すと射座から離れた。少しすると鷹野時も撃ち終わったようだ。記録を取り出すと僕たちがいる方に向かってきた。

 僕と海岡先輩はすでにコートを脱ぎ終わっていたので鷹野時がコートを脱ぐまでの間で台の上を片付けた。そしてお互いの点数を発表し始めた。


「俺の点数は……619.6だ。やっぱり最後だな、ミスったわ」


「次は僕ね……622.7。意外とうまく出来たかな」


「うぉ、さすが桁が違うな」


 僕は鷹野時にぎこちない笑みで返した。そして最後、海岡先輩の点数だ。


「最後は自分かな……まあ、まずまずだね。628.5」


 そう言いながら海岡先輩は記録を広げた。僕は圧倒的な点差とこの点で苦笑いを浮かべている海岡先輩に返す言葉がなかった。

 僕が何も言い出せずにいると海岡先輩から言葉が発せられた。


「撃っててどうだった?」


「……え?」


 思わぬ言葉に僕は先輩であるにも関わらず普通に返してしまった。


「今撃ってどこが良かったかとか、ここが悪かったなとかある?」


「それはまあ、はい。持ちすぎて酸欠になってしまったり……」


 僕が慌ててそう返すと海岡先輩は笑みを浮かべながらこう言った。


「ならそれが次の課題だね。基本的なことは出来てるんだから、次に次に出て来る新しい課題を乗り越えられるよう練習する。そうして上手くなるんだよ」


「あ……はい!」


 僕は力強く頷いた。すると鷹野時も次の課題を見つけたのか僕と先輩の間に割って入ってきた。


「なら俺はフォロースルーだな」


「確かに、見てた感じ撃ったらすぐ降ろしていたよね」


 その言葉に同調するかのように、海岡先輩はうんうんと頷きながら肯定した。

それから僕は大きく息を吸うと静かに吐いた。そして


「次は絶対、負けませんよ?」


 微かに口端を吊り上げながら僕は言った。海岡先輩は一瞬目を丸くするが、僕以上に口端を持ち上げニヤニヤしながらこう言った。


「卒業するまでに、勝てると良いねぇ」


「……まずは新人戦。僕が優勝を奪わせて


 ――僕と海岡先輩の間に火花が散った。



 これは僕と先輩、そして鷹野時達が日本一位の座を賭けて青春を謳歌する――笑いあり、涙ありの日常をえがいたライフル射撃部活動なのである。

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