豊臣秀吉の場合


無理心中の末に私は生き残った。

ただし、相手は行方知れず。

きっと死んだと思われる……遺体は無いけど。

うん。

心中しても女の方が助かる事が多い理由を垣間見た瞬間であった。




「おもっちょったよりも地味やないか?」

「秀吉様、代々の天下人が血眼になって欲しがる一品ですぞ」

「やけど有馬ありま、これのどこがええのか全然わからんって。いっそ、きんで塗り直そか?」


この私を金ピカにする気か!!!

呪ってやろうか!

この下品な猿が!



「おやめください。炎の中から生還しただけでも奇跡に近いのです。そのせいで釉薬が取れてしまわれましたが、これはこれでおもむきがございます」

「そうゆうもんかの?よし!なら有馬ありま、これはお前にやる!大事にしろよ!」

「は、ははっ!!!」



どうやら私の新しいあるじが決まったようだ。

有馬則頼ありまのりより。彼は茶道家として名を馳せた人物で、私を観賞用にするのではなく、きちんと茶入れとして扱ってくれた。



「秀吉様は派手好きなお方。この茶入れの良さが理解出来ないのも仕方がない」


偶に愚痴る事もあるが今までのあるじ達の中では常識人だ。


「金箔の中で茶を振るうのもまた面白い。だが、利休殿の酷評もまた確か……大事にならねば良いのだが」


主君と茶道の師匠が仲が最近悪いらしく、あるじは心配していた。

その心配は見事に的中し、猿は当代随一の茶道家の切腹を命じた。

何故、武士でもないのに切腹なのか?

成り上がりの猿の考える事は解らん。

世渡り上手ではある事は認めるが、あれでは一代限りの栄華で終わりそうだ。



有馬則頼ありまのりよりが亡くなると、私は彼の遺言に従い、大阪城に行く事になった。

なんでも、天下人の名宝、と名高い私は、所有権だけは何故か豊臣家のままだったのだ。


再び、猿があるじになる危機。


だが、大阪城に猿は居なかった。代わりに白皙の美少年が大阪城の主人として君臨していたのだ。

いつの間にか猿は亡くなっていた。興味がなかったので気にも留めなかった。


美少年が、あの猿の息子だと知った時は驚いた。全く似ていない。母親が美人なので母親に似たのだろう。もっとも種違いという噂が後を絶たなかったが、あれだけ似ていないのなら噂がたっても仕方ない。


暫くのんびりと置物と化していたら、周り一面が炎に包まれた。



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