第44話美和の失意 後はヴィヴィアン

泣き出したからと言って、美和には何も慰めの言葉はかけられなかった。

美和は、うつむいたまま帰る以外に、選択肢は無かった。


美和の姿が見えなくなって少したってから、祥子がパン屋に入って来た。

その祥子に真奈が頭を下げる。

「ごめんね、恥ずかしいことになって」


祥子は首を横に振る。

「真奈ちゃんが謝る理由はないよ」

祥子は、少し笑う。

「まあ。孝太君らしい・・・と言えばそうかな」

「中学でも高校でも、こんなことがあった」

真奈も思い出した。

「・・・時々言い寄られて女難になるよね、孝兄ちゃん」

「でも、無粋だから、嫌いな人に怒ると・・・」

祥子は苦笑い。

「相手の女の子にズバリ、怖いくらいだった」

「教室の中でもお構いなし」

「私は同じクラスが多かったから、何回か見たよ」

真奈

「でも・・・今日の言い方はストレート過ぎるとは思わないよ」

「特に美和お嬢様には」

「上から目線過ぎだもの」

祥子も頷く。

「まあ、言い方はきついけれど、遠回しよりはいいかな」


少し黙っていた孝太が口を開いた。

「後は・・・ヴィヴィアンがわからない」

「俺を追いかけて、はるばるフランスから来たって言うけれど」

「フランス大使館とかの話も、よくわからない」

「この開店してもいない店でパンを焼きたいと言うのもわからない」


真奈も難しい顔。

「確かに孝太兄ちゃんのファン・・・と言っても追いかけは異常かな」

「でも、大使さんの姪だからお嬢様でしょ?」

「店員として雇うのも・・・人件費もどうしたらいいのか」


孝太は、心配そうな祥子の顔を見た。

「大丈夫、嫌われてもいいから、真っ正直に話す」

「俺には、それしかできない」


祥子は笑顔で頷き、孝太にウィンクを送っている。

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