『月例地獄・天国長会議』

やましん(テンパー)

『月例地獄・天国長会議』


 『これは、いうまでもなく、フィクションです。この世とは、一切、まったく、関係ありません。』




 地球に存在する、ほとんどの天国と、地獄の長の代理が集まり、際どい亡者の収容先を調整する会議である。


 早く言えば、受け入れたくない亡者の、押し付けあいである。


 なにが、悪か、善か、という定義は、それぞれに違いがあり、ある地獄では、極悪人でも、他のある地獄では、善人として、天国送りが相当ともなる。


 重要なことは、この会議では、各自の規範の良し悪しは、一切、議論の対象にはならない。


 みな、自らの正当性を、譲る意志は、まったく、ないからである。


 それは、人間たちが決めるべき事がらでもある。


 しかし、天国や、地獄の受け入れは、じつはなかなか、難しい問題である。


 受け入れる以上は、責任ができる。


 しかし、なかには、天国や地獄にさえも、災いをなす、恐るべき人間があるからだ。


 したがって、ちまたの幽霊さんとは、受け入れ先が決まらない亡者である場合が多いのである。


 もちろん、本人が拒否している場合も、ないことはない。



 今月の当番議長は、いま、もっとも勢いがある、火星の女王さまとも呼ばれ、しかも、現世の現役王女さまでもある、ヘレナさまである。


 伝統的な天国や、地獄にとっては、あまり、有り難くはない、新興勢力だ。


 ところが、実のところは、この女王さまは、宇宙の誕生とともに、ぽろっ、と転がり出た存在であり、この宇宙と同い年であるらしい。


 つまり、まあ、ざっと、138億歳である。


 それどころが、これまでに、いったい、どれだけの宇宙を渡り歩いたのか、まったく、わからないともいう。


 しかし、それ以上の話を聞いた、という存在は、あまりいないらしい。


 この会議に於いては、なんと言われようとも、ちょっとばかり、厄介な存在だ。


 なにしろ、私立地獄と、真の都という、天国に相当する、両方を経営しており、絶対平和主義を貫いている。


 ただし、現実世界での信徒は少ない。


 布教活動は、とくに、奨励されていない。


 権力や、軍事との関係は、それはもう、密接にあるけれど、本国は、政教分離なので、政府は表向き、大した軍備は持たない。


 つまり、あまり、問題にはならない。


 はずであった。


 まあ、そこらあたりは、この会議には関係しない。



 『さて、今日の対象者は、ハーメルンの笛吹き、こと、ミスターZです。いまだに、落ち着き先が決まらないですよ。事件は、1284年6月26日におきたものです。魔法使いさんか、悪魔さんか、人買いさんか、正式な移住コーディネーターさんか、あるいは、非公式な移民請け負いをしていた、あぶれ楽士さんの副業だったのか。本人は、口をつぐんだまま、なにも話しません。あたくしの精神探査にも掛からない、不感応者です。本人かどうかの、証拠もありません。どなたか、ご存じではありませんか?

 いえ、まあ、知らなくても、よいのです。受け入れの可能な場所は?もう、900年になりましたよ。』


 『天国は、どこも、受け入れ超過で、なかなか、たいへんで、予定外のかたは、難しいです。』


 ある、天使さまが、言いました。


 すると、別の常連天使さまから、こう、発言されたのです。


 『ぎちょ、このさい、あなたんとこが、一番でがしょ。あなたは、音楽家だし、やつは、130人もつれ去った、悪人ですぜ。地獄でよいでがしょ。』


 『ほほほ、ほんらいは、だって。おたくの領域でしょ。』


 『いやあ、サタンさんが、嫌がってましてなあ。東方に仕掛人がいたとも、聞きますがな。』


 『閻魔さまは、最初から、その話には、疑いを持っておられます。陰謀ではないか、と。』


 『それなら、ほら、あなた、あなたんとこの社長さんは、いつも、宇宙的な愛が必要と言われる。』


 『ははは。来ましたか。社長は、受け入れの意向はあるようです。ただし、それなりの、準備資金が必要と。正体がわからないので、かき回されても困りますし。会議から、一定、出れば。可能かと。』


 社長さんとは、火星で生まれた大食品会社、現在は王女さまの王国に本社がある、ババヌッキ社の社長さんのことです。すでに二億五千万年以上生きている、まあ、女王さままでは行かないけど、なかなかの、化け物さんです。最近、地獄事業に参入しました。優しい方なのですが、ビジネスは、わりに、シビアです。



 『非常に、前向きな提案です。みなさん、ここは、決めましょう。ならば、あたくしたちが、後援となりましょう。』


 『おお、そりゃ、良い。』


 話しは、珍しく、あっけなく、ついたのです。と、見えたのです。


 『いま、本人は、どこに、いますか?』


 『火星の、老人保護施設で、行きどころのない、亡者たちに、笛を吹いて、聞かせたりして働いてます。』


 『そりゃ、なんでしたら、いっぺんに、いかが?』


 『いや、それは、困ります。資金が大量にかかる。』


 『むしろ、動かさなくてよいのでは?』


 『幽霊がたくさん出るとして、現場は、こんらんしているようですから。この際。社長さんに、あたってください。いわば、まさに、難民のみなさんの保護ですよ。積極的にやらなくては、正義が立たないです。無意味に殺害され、しかも、無視されるなど。論外です。』


 『あやあ〰️〰️〰️〰️。分かりますが、しかし、ぼくのレベルからは、ちょっと、無理。それは、女王さまからが、宜しいのでは。』


 『む。たしかに、難民の受け入れは、これまでも、たくさんしてきております。でも、難民は、本来、地獄行きではないですし。わが、真の都は、さらに、資金がかかります。先日も、天国は拒否したので、地獄側で、やましんさん、受け入れました。たくさんの、ぬいぐるみさんも。結構、わがままで、地獄というわけで、すっごく、落ち込んでいて、たいへんです。だから、難民問題とこれは、分けてください。この際、難しい個人は、みんなで、分担しましょう。次回は、わが、地獄が、天国待遇をさらに整えて、それなりに、受け入れますから。』


 『地獄が天国待遇ですか。なるほど、それは、良いかもしれないな。社長には、報告します。そうしたことなら、社長、乗ると思うな。』


 話し合いは、なぜだか、また、一時、保留となりましたが、次回は、よりよい、話にはなりそうです。


 この問題は、奥が深いのです。


 しかし、現世の難民問題は、もはや、待ったなしです。


 まずは、現世で、さらに、救って差し上げて欲しいものです。


 根本的には、かなり、困難な様子ですが。


 優しさウィルスを、北極から、ぱらぱらと、振りかけるのです。


 全人類を、優しさで、感染させるのです。


           だめかな。


 

 



 


       


 




 


 



 


 

 


 








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