〜STAGE5.仲間との別離! チャイ大陸にて己を鍛えよ、勇者ミオン!〜

1.謎の忍者、再び


 バリン! ガッシャーン!


 けたたましく窓ガラスが割れる音で、優志まさしは目を覚ました。

 心臓がバクバクする。


 ここは、夢? ではない。目に映るのは、優志の住むアパートの自室。


 そこに、2人の人影が現れた。


 部屋に、侵入者がいる。黒ずくめの2人組。

 優志は呆然としたまま、割れた窓の側に立つ、その2人組を見ていた。


 ——忍者だ。


「だ……誰ですか! け、警察を……110番を……」


 慌ててスマホに手を伸ばすが、スマホはつるりと手から滑り、床に落ちた。


「勇者ミオン殿。そなたを捕らえ、魔王ゴディーヴァ殿に差し出すのだ。……六花りっか、寝起きの今がチャンスでござる。やるぞ」

「り……六花ではない! 私の名は【影丸かげまる】だ! も……もう【ジライヤ】、何度言えば分かる!」


 2人組の忍者は、背が高い方が男性で“ジライヤ”という名前、低い方が女性で名前は“影丸”——もしくは“六花りっか”、いずれかのようだ。

 2人組は刀を抜き、優志に斬りかかった。


「うわあっ!?」


 部屋で暴れ回る、2人の謎の忍者。

 棚が倒され、テーブルの上に置いてあった物が床に落ち、部屋がめちゃくちゃにされる。


 ともあれ、殺される訳にはいかない。

 振り下ろされる刀を必死に避けつつ、部屋に置いてあった“獅子の装備” ——“獅子の兜”、“獅子の鎧”、“獅子の盾”、“獅子の剣”を身につける。


「や……やめて下さい! 警察呼びますよ!」


 装備を整えた優志は声を上げ、剣を構えた。


「……遅かったか。引き上げるぞ」

「了解」


 ドロン、と、2人組は煙に包まれる。


「けほ、けほ……」


 煙にむせながら視線を戻すと、2人組は忽然と姿を消していた。


 ♢


(……今のも、現実世界と夢の世界が融合することで現れた、あっちの世界の人……もしくは魔物なんでしょうか……)


 呼ぶまでもなく警察がやってきて、優志は事情聴取をひと通り済ませた。

 忍者が現れた、なんて言っても通じないだろうから、不審者が家に侵入した、という事だけを伝えると、警察は帰って行った。


 野次馬の視線を無視するように玄関の扉を閉め、ため息をつきながら座る。

 割れた窓ガラスには、ガムテープで雑に段ボールが貼り付けられている。


 食欲は無いが、朝食としてご飯を軽く茶碗に1杯と即席の味噌汁の支度をする。

 体調は別段悪くはない。

 外は、先程現れた忍者以外は魔物の姿はなく、いつも通りの様子。

 スマホのニュースも、今年も紅葉が綺麗だの、税金がまた高くなるだの何だの、いつもと変わらない。


 LINEの通知が鳴る。


「ん……。あ、悠木さんからですね……」


 悠木からの、『そろそろ冒険したーい! 飛田とびたさん、連れてって!』というメッセージの後に、流行りのキャラクターのスタンプが3つ添えられていた。


 船で“チャイ大陸”に渡ること、今まで以上に危険な旅になり得ることを文章にまとめ、返信する。

 謎の忍者に襲われたことは、伏せておいた。


(フシミ港……でしたっけ。後で合流することにしましょう。……あ、いなちゃんからもLINEが来ました)


 稲村いなむらからのメッセージも、『そろそろ行こうぜ』との内容だった。


「……準備して、行きますか!」


 皿を洗い、シャワーと髭剃りを済ませると、“獅子の装備”を再び身につける。空気はいちだんと冷えてきたが、重厚な“獅子の装備”を身につけると、それだけでじわりと汗が滲み出る。


 荒らされた床の物を部屋の隅にどけた優志は、「ミランダさん、来て下さい」と心に念じた。

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