〜STAGE4.生命の巨塔を完全修復せよ〜

1.死の祭典、開幕


 双子山の麓の街“ウキョー”にて開催された“天下一武術大会”。

 優志勇者ミオン一行は、賞品の船を入手すべく、勇んで出場したのであった。

 優志自身は敗退したが、一行のメンバーであるゴマが見事優勝を果たし、無事に船の入手が決まった。


 だが——。


 人々は、天下一武術大会での戦いに夢中であるあまり、気づいていなかった。

 双子山の山間にある峡谷に、バナナ&さくらんぼ形の巨大飛行物体、【ジャイアント・ディック】が挟まっていたことなど——。


「何なんだ、あのデッカいバナナは! 勇者ミオン様、早く!」

「やっぱり呑気に観戦してる場合やなかったんや! 優志まさしさん、急いで向かわんと!」


 ラデクが、猫に戻ってしまったスピカを抱えたままグラウンドに駆けつけた。

 サラーも息を切らしながら後を追う。


「どうしましょう……ミランダさんはワープゲートが使えませんし……」


 ただ、見ているしか出来ない——。


 再び、地面が揺さぶられる。


「ああ! バナナが動き出したぞ!」


 “ジャイアント・ディック”が、谷間に挟まったまま、地響きを立てながらゆっくりと動き始めた。

 黄色い光を放ちながら、前進していく。そのまま闇夜の空へ飛び立つのかと思いきや、すぐに動きを止めた。と思えば、今度は徐々に後退を始める。


「あれは一体……何をやってるんだ?」

「おっきなバナナとさくらんぼー……見た目は可愛いのにー」


 サラーは興味深そうに、轟音を立てて後退していく“ジャイアント・ディック”を眺めていた。呑気なものである。


 その時、双眼鏡を覗いていた、“天下一武術大会”主催者のイングズが、大声を出した。


「やばいぞ! 山肌と、谷間の崖が削れていく……!」


 後退した“ジャイアント・ディック”が、また前進を始める。

 前進と後退を繰り返すことで、“ジャイアント・ディック”のガチガチに硬い装甲——皮の剥かれたバナナの実の部分——で、谷間の崖をゴリゴリと削っているのである。


「崖から水が! 生命の水が、溢れ始めた! まずいぞ!」


 再びイングズの声。

 削られた崖から、大量の生命の水が溢れ出し始めたのである。そして溢れた生命の水が、みるみるうちに“ジャイアント・ディック”のバナナの実の部分へと吸収されていく——。

 ガチガチに硬かったバナナの実の部分を、スポンジ状に変化させたらしい。



 危機は、それだけではない。

 優志はふと、周囲の空気が染まってきていることに気付く。


「う……く……!?」


 途端、優志の脇腹が痛み始める。

 久しぶりの、胆石症の発作だろうか?

 否、胆石は完治してないものの、ほとんど治ったと医師からは言われていた筈だ。


「うあ……痛い……苦しい……」

「ぐあああああ! ぐぶっ……」


 時を同じくして、周囲の出場者たちも、突然苦しみ始めた。吐血したり、気を失って倒れたり、呼吸苦を訴えたり……症状は様々である。


 グラウンドの芝生も、競技場の周囲にある木々も、枯れ始めている。


 

 赤黒い気体——瘴気である。

 


「み……見てください、あれです!」


 優志が指を差したその先には——。

 直径30メートルほどの、桃の形をした巨大な飛行物体が浮遊。高さ50メートルほどのところでホバリングしていた。

 桃形飛行物体の中央を縦に走る割れ目からは、赤黒い瘴気が凄まじい勢いで噴き出している。


「!? スピカ!? スピカ!!」

「あー! スピカちゃんがー!」


 ラデクに抱かれたスピカが、グッタリとしていた。ガクガクと痙攣している。


「スピカ! ソアラ! しっかりしろ!!」


 ゴマの声がグラウンドに響く。優志はハッとして振り向いた。


 目に入ったのは、苦しそうに唸り声を上げるスピカと——猫に戻ったソアラの姿。

 しかしソアラは、地面に横たわりながら口から血を流し、白目を剥いていた。完全に意識を失っている——。


 猫に戻ったゴマは、スピカを心配そうに見ながら、前脚でソアラの体を必死に揺すっていた——が、2匹とも気がつく気配がない。


「スピカさん、ソアラくん……皆さん……!」


 優志が唇を噛んで桃形飛行物体を見上げた時。

 不気味な笑い声を発する何者かの群れが、段々とグラウンドに押し寄せてきていることに気付く。


 100を超えるであろう数の魔物たちが、グラウンドに迫って来ていたのである——!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る