〜STAGE3.天下一武術大会を制覇し、船を手に入れよ〜
1.衝撃のデビュー
10月——。
邪竜パン=デ=ミールを倒したことで新型ウイルスによって世界が滅ぼされることは免れたが、それでも新型ウイルスは今後、完全に消えることはない、との見方がされるようになってしまった。
専門家たちにも、収束に向かっているという見方を持つ者と、第3波、第4波と続くとの見方を持つ者がいて、先は全く見えない。
緩やかに変異が続き、感染力や後遺症がよりひどくなるとの見解も出ている。
(明日、誰が死んでもおかしくない世界が本当に来るかもしれない)
暗い気分を一掃するため、優志は稲村に電話をかけた。『こんな時間にどーした、飛田くん』と、イヤホンから稲村の大声が漏れる。
「ちょっと気晴らしに話そうと思ってさ。ところで、いなちゃんも足ツボやらない?」
『足ツボー?』
「胃が悪いって言ってたじゃないか。土踏まずの親指側を押すと痛いはずだよ」
『土踏まずの親指側ねえ……』
数秒、無言になる。
土踏まずの親指側をグッと押しのであろう。
『うーん、俺は胃腸炎だが……別に痛くないぞ。そんなモン当てにならんだろ。あれだ、偽モンの医学で、金儲けしようとする手口だ。目ぇ覚ませよ、優志よぉ』
「うーん……やっぱり当てにならないのかなあ……」
優志がずっと続けていたセルフ手術——足の反射区療法。
優志にとっては非常に効果があったが、信じない人には全く効き目がないのであろう。
反射区療法に全く興味がなさげな稲村は、話題を変える。
『そういや飛田くん、お前、夢見てるか?』
一瞬、何のことかと思う優志であったが、すぐに【夢の世界グランアース】のことだと理解する。
「夢……見てないなあ。今、夢の世界グランアースがどうなってるのか気になるんだけど」
『俺は毎晩のように僧侶リュカとして、ラデクくんやサラーちゃんと一緒にダンジョンにでかけて魔物を倒したり、宝探ししたりする夢ばっかり見るんだよ。でもお前が全然出てこねえから、冒険が進まねえよ』
「ラデクくん、サラーさん、無事でしたか。ちょっと安心した。いやあ、私も夢を見ようと思って見られる訳じゃないから……。申し訳ない」
『あいや、責めてる訳じゃねえんだ。だが、もう10月だろ? ラデクから聞いたんだが、お前知ってるよな? 【天下一武術大会】のこと』
以前、モヤマの街に初めて訪れた際、酔っ払いのオヤジから手渡された広告紙。
そこには、こう書かれていたのであった——。
『双子山の麓の街ウキョーにて、今月引退の海賊団〝キャスター〟主催、〝天下一武術大会〟開催! 優勝者には、海賊団が現役時に使用していた、海賊船が贈られます。開催は10月! 強者求む!』
優志はすぐに思い出し、稲村に返事する。
「知ってる知ってる! モヤマでもらったチラシに書いてあったね。優勝すれば船がもらえるって……」
『船がなきゃ魔王の島に行けないんだろ? 次、夢を見たらすぐに、〝天下一武術大会〟が開かれる街へ行こうぜ! 忘れないでくれよ! じゃあ風呂沸いたから切るわ。じゃあな!』
「わ、わかったよ」
通話が切れ、優志がため息を一つ吐いたその時——。
スマホに通知が入る。
配信アプリ【
優志は、動画サイトでVライバーによる宣伝を見て興味を持ち、先日IZENAGをダウンロードした。
ただ、名前の入力の仕方が分からず、優志の名前は『あ』で登録されてしまい、そのままになってしまっている。
もちろん、プロフィール画像もデフォルトのまま。
「んと……“雑談配信、入退室自由、ポイント回収◯、寝落ち◯”、……
優志は、ライバーがたくさん表示されているサムネイル表示から、真っ黒な猫耳の、髪色も黒いイケメン男子のイラストが描かれたサムネイルを選択した。
入室すると、画面にサムネイルと同じ黒髪猫耳イケメン男子のイラストがドンと表示され、目と口が表情豊かに動き始める。
「おお、これがVライバーというものですか!」
そして——どこかで聞き憶えのある声が、スマホのスピーカーから発せられる。
『ん? ……お、初見さんだ。んとんと……、“あ”さん、こんゴマー! 来てくれてありがとうだぜ!』
「こ……こんゴマ……?」
『初見挨拶だ。お喋りが大好きな、人間になった猫の勇者!
優志は、「ゴマくん……何やってるんですか……」と言いながら『こんゴマ』とだけコメントを入力した。
猫であるゴマは、一体どうやってVライバーデビューしたのであろうか——。
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