22.白黒のモフモフの正体


 飛田とびたとミランダは、悠木と雪白を追うべくワープゲートをくぐり、猫だけが住む地底国“ニャガルタ”の首都“ニャンバラ”へとワープした。


 目に映ったのは、ニャーニャーと鳴き声をあげながら逃げ惑う猫たちの姿。

 猫サイズの街で、何と巨人さながらの悠木がはしゃぎ回り、その後ろを雪白が追いかけている。

 サイズが自動的にねずみと同じになるねずみの世界とは違い、人間がワープゲートで地底の猫が住む国に出ると、人間サイズのままなのだ。


「すごーい! 猫さんの街だぁー! わーい! 撫でさせて、撫でさせてー!」

「待ちなさい、友莉ゆうり! はぁ、はぁ……」


 早く、大人しくさせなければいけない。

 すぐにミランダが悠木と雪白のところへと飛んで行き、呪文を詠唱した。すると、オレンジ色の光が悠木と雪白を包み込み、2人はみるみるうちに小さくなり猫サイズとなる。

 オレンジ色の光は飛田の方にも飛んでいき、飛田も猫サイズとなった。


 そしてオレンジ色の光はさらに2つに枝分かれし、飛田の後方へと飛んでいく。

 ワープゲートからここに来ているのは悠木と雪白だけのはずだが、おかしいなと一瞬思う飛田だったが、今はそれよりも悠木たちだ。首を傾げている彼女らに駆け寄る。


「あれ? 周りの景色がでっかくなったー?」

「はぁ、はぁ。違うの愛音あいね。私たちが小さくなったのよ」


 ニャンバラの住民の猫たちはみんな逃げて行ったようだ。しんとする街並みに飛田、悠木、雪白だけが残された。


「ふ……2人とも……。すぐに見つかって良かったです……」


 飛田は安堵の表情を浮かべ、長い息を吐いた。


「ごめんね飛田さんっ! 退屈だったから、ミランダちゃん呼んで猫さんの国に来ちゃった! てへ!」

「もう、てへじゃないでしょ。……本当にすみません、飛田さん」


 悠木、雪白は揃って頭を下げる。

 飛田は苦笑いしつつ頷いたが、彼女らの後ろで——手のひらに乗せられるほどのサイズの、白と黒の小さな毛玉が飛び跳ねているのが目に入った。


「……な、何ですかあれは!」


 思わず声を上げると、悠木と雪白はハッとする。


「悠木さん、雪白さん! 後ろです!」

「えっ!?」

「……ん? な、何この物体……?」


 悠木と雪白が振り向くと、2つの毛玉はクルンと回転し、正体を現した。

 真っ白な体毛に覆われた丸々とした体。顔だけが犬で、短い手足の謎の生き物。

 真っ黒な体毛に覆われたハムスターのような体に、兎の耳が生えた謎の生き物。


 白い方が、軽やかにステップを踏みながら可愛らしい声を放った。


「やっと追いついたみゅー! みゅーの名前は“ミューズ”だみゅ! 音楽の精霊だみゅー!」


 ミューズという名の白いモフモフは、嬉しそうに細く高い声を上げ、名を名乗った。

 

「魔王軍と戦えるヒロインの君たちを、ずっと追ってたんだみゅー! そして隣にいるのは……“ピノ”だみゅ!」


 ピノ——その名前を聞いた飛田は、ミューズの隣で飛び跳ねる黒い毛玉に視線を向け、身構えた。


「あなたは……あの時の……!」


 かつての敵は、クルリンと体を回転させ、正体を現す。

 乾いた風が、ぴゅうと音を立てて吹いた。


「……バレちゃったぴの。勇者ミオン……」


 その声の可愛らしさとは裏腹に、思い起こされるのはあの時の悲劇——。

 苦い思いを噛み締めつつも、飛田はひとまずピノの話に耳を傾けることにした。


「あの時は悪かったぴの……。ぴのはもう魔王軍から足を洗ったぴの。ってか、クビにされたぴの……」

「魔王軍を、クビに……?」


 ミューズが飛び跳ねながら、補足説明をする。


「みゅーが、ピノの新しい生きる道を教えたんだみゅー! それは……」


 何のことか、何が起きているのかさっぱり分からない様子の、悠木、雪白。

 そんな2人の方にミューズは短い腕を向けると、美少女アニメにおけるマスコットキャラの決め台詞で聞くような、可愛らしい声を響かせた。


「美少女魔法戦士と共に、魔王軍と戦う道だみゅ!」


 悠木と雪白は見合い、思わずつぶやく。


「「美少女……魔法戦士?」」


 唖然とする2人を置いて、ピノは頬を膨らませながらピョンピョンと飛び跳ね、に対しての無尽蔵に湧き出てくる文句を垂れる。


「魔王ゴディーヴァのヤツめ! ぴのはちゃんと情報提供したのに役立たずだとか言って! ちっともぴのの努力を認めてくれなかったぴの! ぴの以外の部下もちょっとミスをしただけですぐクビにしちゃうし! ハッキリ言ってムカついてたぴの!」


 プリプリと体を震わせるピノは、段々と早口になっていく。


「そしてとうとうぴのもクビになって……でも、いい機会だぴの。ぴのは……魔王にギャフンと言わせてやりたいって、ミューズに言ったぴの!」


 スッキリした顔を見せるピノを見て、ミューズは話を繋げた。


「その心意気を買って、みゅーの仲間になってもらったんだみゅ! みゅーの力でピノの邪悪な魔力を浄化したから、安心していいみゅー!」


 しばし、沈黙が続いた。

 飛田は、ミューズとピノの目をじっと見つめた。そこに感じたのは、嘘偽りのない純粋な光——。


「……そうですか。ならば、信じることにしましょう。改めまして、私が勇者ミオンこと……飛田とびた優志まさしです。ミューズさん、ピノさん、宜しくお願い致します」


 頭を下げると、ミューズは体よりも大きな頭を満足気にコクコクと縦に振った。悠木はそんなミューズの元に駆け寄り「可愛いー!」を連呼していた。

 そんな悠木を他所に、雪白は恐る恐る、ミューズに問いかける。


「……で、美少女魔法戦士っていうのはもしかして……」


 待ってました、と言わんばかりにミューズとピノは大声をあげた。


「みゅみゅ! もちろん、そこの君たち……アイネとユーリだみゅー!!」

「ぴのたちは、お前たち2人と、“契約”しに来たんだぴの!」

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