21.悠木暴走
「ねえー暇! ひま、ひま、ひまだよーぉ! あ、さっきの不思議な妖精さん呼んじゃお! ミランダちゃんだっけ? ミランダちゃーん!!」
「こら、ちょっと
悠木と雪白は、待合室で1時間ほど待たされていた。
すっかり待ちくたびれ退屈しきった悠木は、勝手にミランダを呼び出してしまったのだった。
「あれ? アイネちゃんにユーリちゃん、何かご用? もう帰るの?」
虹色の光に包まれ、ミランダが待合室の空間に現れる。
「まーだー帰らないー。私もっと、この夢みたいな国にいたいもん。でもー、ずっと
「そうねえ……。じゃあ、こことはまた別の異世界の景色をちょっとだけ見せてあげる」
「えっ? 見たーい!」
ミランダは、待合室の壁に楕円形の光の渦を作り上げた。
光の渦の中で、靄が晴れていくように、風景が少しずつ現れ始める。
淡いピンク色の空。見たこともない形の植物。
行き交うのは、服を着た二足歩行の猫たち。
ねずみと猫が仲良く暮らす
「地底にある猫さんの国、“ニャガルタ”の首都“ニャンバラ”よ。“ニャンバラ”に住む猫さんたちの一部が、今あなたたちがいるねずみさんの世界の街、Chutopia2120に移住してきたの」
「すっごーーい! 猫さんの国だあ!」
「ああ、さっき飛田さんからも聞いた。どういういきさつでねずみの街に猫たちが来たのか、気になるわね」
雪白はそう言いつつ、興味深そうにニャンバラの風景を眺めていた。が、そんな雪白の服の袖を、悠木はぐいと引っ張る。
「ねえね
「あ、こらちょっと愛音!」
悠木は雪白の腕を引っ張り、壁に渦巻く虹色の光へとダッシュする。
「あー! ちょっと待って、アイネ、ユーリ! ……あー、行っちゃった……」
光の渦は、ワープゲートだ。
ニャンバラに繋ぎ、風景だけを見せるつもりだったが、悠木は雪白と共にワープゲートに突っ込んで行き、ニャンバラへと行ってしまった。
不測の事態に、ミランダはすっかり取り乱していた。
「たたたた、大変! すぐに追いかけなきゃ! アイネちゃん、ユーリちゃーん! ……ぷぎゃ!?」
2人の後を追い、虹色の渦に飛んで行こうとした時、何かにぶつかられた。
モフっとした感覚。
振り向くと——白いモフモフの毛玉と黒いモフモフの毛玉が、床の上で飛び跳ねていた。
「え!? 何!?」
もう何が何だか。
考える前に、白い毛玉はクルリンと回転すると、正体を現す。
「あ……! 見つかっちゃったみゅー! みゅーの名前は【ミューズ】だみゅー! すぐにアイネを追わなくちゃいけないから、通してもらうみゅー!」
ミューズ——。
垂れ耳の犬のような顔に、クリクリとした目。全身真っ白の、二頭身のマスコットのような姿。今はねずみの世界に来ている影響でさらに小さくなっていると思われるが、元々の大きさはハムスターほどだろう。
彼は妖精の男の子だということが、同族であるミランダには分かる。
そして黒い毛玉も、クルリンと回転して正体を見せる。
「【ピノ】だぴの! ピノもユーリを追ってるぴの! 勇者ミオンに見つかる前に、ユーリに追いつかなきゃいけないぴの! 通すぴのー!」
ピノ——。
頭にはウサギのような形の耳、クリクリとした目。全身真っ黒の2頭身で、大きさはミューズとほぼ同じだ。
ピノも妖精の女の子のようだが、ミランダが知る種族ではない。
働かぬ思考回路でピノが何者だろうと考える前に、ミューズとピノはすでにワープゲートの中へと入って行ってしまっていた。
「ああ! 行っちゃった……!」
ちょうどその時、飛田が待合室に入ってきた。
「お待たせしました、悠木さん、雪白さん。玉城さんはここで入院しますので、……ってあれ? ミランダさん、何故ここに……。ん? 悠木さんと雪白さんは?」
「……ごめん、
「ええ!? 大変です! すぐに追いましょう!」
悠木と雪白を追うべく、ミランダは飛田と共にワープゲートをくぐり、ニャンバラへとワープした。
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