〜STAGE2.Revenge.猫戦士たちと共に、新型ウイルスのパンデミックを阻止せよ〜

1.魔王城にて


 少し、時は遡る——。


 ここは、魔の島【ザッハートルテ】にそびえ立つ魔王城の最奥さいおう、魔王の間。


 魔王軍三幹部——ヴィット、サクビー、サーシャが無言で跪いていたところ、空中に玉座が現れ、程なくしてそこに、魔王ゴディーヴァが姿を現した。


「魔王ゴディーヴァ様!」


 三幹部は再び跪く。


「……夢の世界と現実の世界の統一まで……後少しだ。そして案の定勇者が現れ、ワシを打ち倒そうとしている。しかし……」


 魔王ゴディーヴァは重々しい声を魔王の間に響かせながら両眼を光らせた。その光は光線となり壁に反射する。するとそこに、映像が映し出された。

 映像の中には、魔王を討ち倒すべく冒険を進める飛田優志とびたまさし——勇者ミオンの姿があった。


「フン……どんな奴かと思えば、顔色の悪い中年の男ではないか、ワハハハ。こんな、見るからに弱々しい者に、このワシを倒せるはずがない。それよりも前に、我がしもべとなった遺伝子を司るドラゴン……パン=デ=ミールが、全世界のあらゆる生物を滅ぼすだろう……ワハハハ……!」


 ヴィット、サクビー、サーシャは変わらず、空中に玉座ごと浮かんでいる魔王ゴディーヴァに向かい、頭を下げ続けている。


「……お前たち、良くやった。お前たちが“生命の巨塔”を破壊したおかげで、まずは第一標的であるオトヨークとうの南部に住む人間を病気にさせ、もう少しで滅ぼすことが出来る。ついでに勇者も病気になり、死んでしまうがいい。ワハハハ……!」


 ヴィットは跪いたまま、初めて言葉を発した。


「しかし、ゴディーヴァ様。お気をつけ下さい……! 勇者ミオンは、既に仲間と思われる者を引き連れていました。以前の勇者のように単独ではなく、今回は数多くの仲間と共に魔王ゴディーヴァ様を討伐しにやってくるに違いありませぬ! 我々も念には念をで、守りを固めた上で作戦を遂行せねば……」

「フン! 仲間がどうした。お前たちは、あの腑抜けた中年の勇者を恐れているのか。ワシの力が及ばぬとでも……言いたいのかッ!」


 魔王ゴディーヴァは赤紫色のオーラを纏い、ヴィットを睨みつけた。

 その眼光の威圧感に、ヴィットは震え上がる。


「い……いえ! 決してそのような……」

「魔王ゴディーヴァ様! 大変ですぴのー!!」


 突然、魔王の間への扉の下部に造られた直径20センチメートルほどの出入口から、小さな何者かが現れる。

 大きさと姿はハムスター、頭にウサギのような形の耳を持ち、目がクリクリとした灰色の体毛の生物——魔王の手先、ピノである。

 ピノはちょこちょこと足音をたて、駆けてきた。


「魔王ゴディーヴァさまぁ! 勇者ミオンは、着々と力をつけていますぴの! しかもしかも! 何だか強そうな猫の戦士たちを仲間にして、邪竜パン=デ=ミールの棲む洞窟に向かおうとしていますぴの!」


 ピノが短い手足をワタワタとさせながら魔王ゴディーヴァに訴えかけるが——。


「ピノ! 貴様、おめおめと逃げ帰りやがって。貴様の失敗のせいで、我々幹部がわざわざ“生命の巨塔”へ出向くことになったのだぞ!」

「そうだビー! 役立たずのミニドラゴンなんかに“ゴールデン・オーブ”を見張らせたせいで、勇者ミオンに奪い返されるし、結局“生命の巨塔”が復活させられたから、また壊しに行くために僕ちゃんたちが出撃したんだビー!」

「オホホホ……あなた、どのつらを下げてこのワタクシの前に来たんですの?」

「ご……ごめんなさいぴの……」


 ピノは、三幹部からやいのやいのと責めたてられた。返す言葉をなくしたピノは、その場にペタリと座り込んでしまった。

 その時、魔王ゴディーヴァの怒声が響き渡る。


「黙れぃ!!」


 三幹部は即座に魔王ゴディーヴァの方に向き直り、再び跪いて姿勢を正す。

 

「ピノ」

「は……はい、魔王ゴディーヴァ様ぴの……」


 少しの間ののち、魔王ゴディーヴァは低いトーンの声で言い渡した。


「ピノ……貴様のような役立たずは我が軍には要らぬ。去れぃ」


 容赦の無いその言葉と共に、魔王ゴディーヴァの持つ髑髏どくろがあしらわれた杖から、赤紫色に輝く光線が放たれた。

 光線はピノに直撃し、魔王の間全体が禍々しく紫に染まる。


「そんなぁ、魔王様……! ぴのーーーーッ!?」


 吹き飛ばされたピノは魔王の間の壁を突き破り、さらに城壁を次々と突き破って、遥か彼方へと飛ばされて行ってしまった。

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