49.逃走した邪竜


 “邪竜パン=デ=ミール”は地中深くへと逃走してしまったので、星猫戦隊コスモレンジャーは一旦、基地へと帰ることとなった。


 基地の会議室で、ライムが作った魚のスープを食しながら、今後どうするかを話し合う。


「すみません、私が勝手な行動をしたばかりに……」


 飛田とびたは申し訳なく思い、頭を下げた。

 ソールは首を横に振り、言葉を返す。


優志まさしくん、謝ることはない。優志くんがいてくれなければ、今頃“邪竜パン=デ=ミール”は街中でウイルスを撒き散らし、大変なことになっていただろう」

「優志さんの守護神、夢幻獅子……。その力、とても驚きました。また力を貸していただけるよう、是非ともお願い致します」


 ソールとムーンはじめ、星猫戦隊の面々が、飛田に向かって頭を下げる。ゴマもソアラも飛田の活躍を認めたらしく、素直に頭を下げていた。

 しかし、すっかり疲れた顔になっていた飛田は立ち上がり、申し出る。


「すみません、あまりに色々あったためか、少し疲れました。一度、家に帰ってよろしいでしょうか」


 部屋に帰り、何もせずベッドでゴロゴロしたい。好きな音楽を聴きながら、何も考えずに過ごしたい——そんな心の訴えは、無視できない。


「もちろんだ。戦士には休息も大切だ。優志くん、また元気になったなら、いつでも復帰を待っているよ」

「ありがとうございました、優志さん」

「お前の強さ、しっかりこの目に焼き付けたぞ! またな!」

「も……もう帰っちゃうの……?」

「フン。気が向いたらまた戻って来なさいよね」


 ソール、ムーン、マーズ、マーキュリー、ヴィーナスに見送られながら、玄関へと向かう。

 

「優志、絶対に“邪竜パン=デ=ミール”をブッ倒そうぜ」

「優志ィ! これからも頼りにしてるぜェ!」


 ついてきたゴマとソアラに、背中をポンと同時に叩かれた。


「ありがとうございます、ゴマくん、ソアラくん。こんなこと言っちゃなんですけど、あなたたちと一緒に戦えて、楽しかったです。必ず、新型ウイルスを終息させましょう!」


 ゴマとソアラ、それぞれの肉球をプニッと押してから、玄関の扉を開いた。



「ミランダさん、来て下さい。私の部屋まで、ワープさせて下さい!」


 桃色の空に向かいそう言うと、金色の光に包まれながら風の精霊ミランダが姿を表した。

 ミランダは8の字を描きながら、舞い降りてくる。


「優志くん、お疲れ様。優志くんのお部屋にワープゲートは繋げられるんだけど……、ちょっと問題が発生したのよ」

「問題……ですか」

「うん……。実は、ワープゲートに魔王の力が干渉していて、時間調整ができなくなってるの。だから例えば、今からお部屋を出発したその日に帰ったりは出来ないの」

「魔王の力が……!? え……それは大丈夫なのですか?」

「ワープ自体はできるから、大丈夫。でも今から帰ると、お部屋を出発してから経った時間と同じ時間……まる1日ぶん、経っていることになるわ。幸い、今のところ時間調整が出来なくなっているだけで済んでる。でも……可能性は低いけど、今後もしかしたら、ワープ自体がもうできなくなる、なんてこともあるかも……」


 ワープが使えなくなるかもしれない——。

 帰るのを一瞬躊躇したが、やはり飛田の心身は、休むことを必死に訴えかけてきているのは否めない。

 休むには、住み慣れた自室が一番だ。


「……こんな戦いが続くとは……体より、精神がもたないです……。やはり、帰って休むことにします。ミランダさん、お願いします!」

「分かったわ」


 地面に虹色に輝くワープゲートが現れ、飛田は真っ直ぐにワープゲートの中へと入っていった。



 無事、飛田の住むアパートの一室に帰って来ることができた。

 日付は、2月22日。20時過ぎだった。ミランダの言う通り、飛田の部屋から旅立ってから、まる1日が経っていた。

 手短にシャワーを浴び着替えると、迷わずベッドにダイブする。


 因みに、星猫戦隊コスモレンジャーとして戦っている間、飛田の脇腹の痛みはほとんど無くなっていた。病気が治る時というのは、きっと本人が忘れている時なのだろう。


 しかし精神的な疲労が蓄積していた飛田は、当面の間は自宅でゆっくりと過ごすことにした。


 就寝時、夢の世界に行ったとしても、飛田——勇者ミオンは、宿屋のベッドで横になったまま一切何もせず、ただただ夢から覚めるのを待つだけだった。

 稲村——僧侶リュカや、ラデクたちに「早く冒険を続けよう」と言われても、とても気力が湧かず、ひたすら寝たふりを続けていた。

 

 それでも飛田の精神疲労はなかなか癒えず、何も出来ぬまま、4月を迎えたのだった。




  〜STAGE2.猫戦士たちと共に、新型ウイルスのパンデミックを阻止せよ〜——Not Cleared……


 Next Stage——

 〜STAGE2.Revenge.猫戦士たちと共に、新型ウイルスのパンデミックを阻止せよ〜


————————


※ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

面白いと思ってくださいましたら、

★評価、フォローをお願いいたします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る