第37話 どこにいるの~?
「さて、これからどうしようか……」
ここにいるといつまでもフロンデさんにイジられそう、ということで私と園生くんは紙束を持って場所を移した。
フロンデさんが「公共の場で紙束を見るな」との事だったので、私たちは一度宿まで戻ってきた。
園生くんの借りている部屋で改めて紙束を開く。
やはり、目的の人は宝を探しに旅に出てしまったみたい。
「山に宝物なんてあるのかなぁ~」
「そういう都市伝説みたいなものがマイダの国にもあったりしないの?」
園生くんはベッドの上で腕を組んで「うーん……」と考えはじめてしまった。
まるで瞑想中のようになってしまったので、園生くんのことは放っておいて改めてバングルさんのことが書かれている紙を眺める。
山に宝があるにしろ、ないにしろ、そもそも山に行って宝が見つかるまで帰ってこない、という事もないんじゃない?
だって、こんなに長く山にいるならそれなりに装備も必要だろうし、日々の食べるものや寝るところの確保など考えることは次々出てくる。
一週間くらいならどうにかなるかもしれない。でも、それで長期に渡りそうならば計画を変えるなり、トレジャーハンターなんだし策を考えるだろう。
「ねぇ、園生くん」
「ん~……」
私が紙束から目を離し、園生くんのほうをみたら腕を組んだままゴロンとベッドに横になっていた。
「ちょっとぉ……マジメに考えてるぅ?」
「ん~…………」
目を瞑った園生くんからは空返事が返ってきた。
大きくため息をついてベッドに近づく。園生くんの胸が規則正しく上下している。
こっちは色々考えてるのに……っ!
むぎゅっと園生くんの鼻をつまむと、園生くんが苦しそうに眉を寄せて
「はっ!」
と大きく目と口を開けた。
慌てたように目をキョロキョロとさせて、自分の顔から伸びている私の腕を辿り私と目がパチッと合う。
状況を理解したのか、気まずそうに「えへへ……へ」とごまかそうとするので、もう一度むぎゅっと強く鼻をつまんでから手を離した。
園生くんは「いひゃい……」と鼻をさすりながらゆっくりと起き上がった。
「……怒ってる……?」
「怒ってないよ?」
至って普通に答えたつもり。人間、眠くなるときだってあるものね。
園生くんが疑うようにじっと半目で見てくる。怒ってないアピールのために笑顔で返すと、ようやく信じてくれたみたい。
「もう……気を取り直して、これからどうやってバングルさんのことを探せば良いのかなぁ……」
「あー、それなんだけどさー」
園生くんも私を探しながらバングルさんの情報を集めていたらしい。それによると何人か「バングルさんを見かけた」という目撃情報を手に入れていた。
見かけたタイミングによっては、この紙束よりも新しい情報だ。
そっちのほうがバングルさんを見つける手がかりになりそう!
バングルさんが向かったとされる山に行くにも準備が必要となるし、まずは新しい目撃情報を街の人たちから聞き出すことにした。
そこから情報をまとめていけば、もしかしたら遠い山にまで行かなくても済むかもしれない。
少しだけ邪な願いを胸に抱いたまま、私と園生くんは街の人たちに話を聞いていった。
◆ ◆ ◆
何日か聞き込みをした結果、バングルさんは自宅に帰っていないだけで不定期に街には戻ってきているようだった。
しかし、戻ってくるタイミングがバラバラで自宅以外の宿などに不定期に現れていたりするので、どうやって見当をつけるか悩んでいた。
「はぁー……もっとバッタリ出くわすかと思ってたのに、全然タイミング合わねー」
「ホントにね……」
私と園生くんはすずさんの宿でこうして作戦会議をすることが増えて、とうとう詰まりだした。
こんな運任せではダメだ、何か打開策を考えないと……。
やっぱり山に行くしかないのかもしれない。
園生くんの借りている部屋から外を眺めても見えるのは、のどかな町並みと遠くに見える大自然。
ゲームじゃないけど、山に向かう道中にモンスターとかいたらどうしよう……。
考え出すと、どうしても山に探しには行きたくない理由ばかりが頭をよぎる。
私は園生くんのようにナイフを華麗に操ることも出来ないし、だからといって逃げ足が速いわけでもない。
でも、このままではいつまでもバングルさんを見つけることが出来ないし……。
モヤモヤととりとめなく思考を巡らせていると、下からバタバタと忙しない足音が聞こえてきた。
その足音はどんどん私たちのいる部屋に近づいてくる。そしてドアをノックする音と同時に声を掛けられる。
「近部くーん! 律歌ちゃーん! いるかい? あんたたちが探してる人、来たよ!!」
すずさんの声が部屋に響く。
その内容に、思わず園生くんと顔を見合わせる。
「園生くん……!」
「律歌ちゃん!!」
やったー! と思わず園生くんと勢いよく抱きあって喜んだ。
ドアを開けたすずさんが私たちを見て、あっ、と手を口にあてながら小さく謝って静かにドアを閉めた。
「……お邪魔しちゃって悪かったね」
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