第35話 手掛かりを求めて

 中心地へ行けば、ある程度大きな職業ごとの組合がある。


 いくつかの小さな組合があり、それらを各職業ごとに中央協会として組織がとりまとめている。

 私たちのような一般人は、基本的に組合にしか用がない。

 私や園生くんが生業としている「なんでも屋」の組合はただの受付と簡単な商談スペースくらいの簡素なものだった。これが、八百屋さんだったりすると目玉商品やプレミアがついているものが展示されていたり、季節の野菜・果物の知識について学べる時間があったり充実しているらしい。


 職業によって、そんなに組合の差があるんだ……。

 何の気なしになんでも屋をやるって言っちゃったけど、本当にやりたいことがあれば転職も視野に入れた方がいいのかもしれない。


 そんなことを考えていたので、園生くんの話をよく聞いていなかった。


「そういえば、まずはどこの組合に行くんだっけ?……あれ?」


 園生くんがいない。思わず来た道を振り返り園生くんの姿を探す。

 すずさんの宿からここまではまっすぐにきた。どこかの建物に入ったのか、脇道に入られてしまったのか。

 前にもぼんやり歩いていて大変な目にあったのに、またぼけっとしてしまった。

 焦りながら、きょろきょろと周りを見回す。すると、小さいけれど「自由業組合」という看板が掛かっている建物がある。

 私たち、なんでも屋はこの自由業という扱いになる。


 ……。

 あれ?もしかして、トレジャーハンターも自由業なんじゃ……?


 そこに園生くんがいるかはわからないけど、トレジャーハンターについて何か情報をもらえるかもしれない。

 そう思ったら、自然と足が自由業組合に向かって歩き出していた。


 自由業組合の建物はこじんまりとした2階建ての建物で、青い屋根は少し色あせて薄い水色になりつつある。

 外壁も日に焼けてくすんだクリーム色になっている。


 元々はもう少し白かったのかな?


 隣の建物と近い、陰になっている外壁がずいぶんと白く見える。


 こんなどうでもいいことを頭でこねくり回しているのは、緊張しているからだろうか。園生くんのなんでも屋を一緒にやるために、一度来ているはずの自由業組合。今回は一人で向かうから、少し緊張しているのかもしれない。


「こんにちは~……」


 古いドアは建て付けが悪いのか、力を込めて押さないと開かない。

 ギギィ、と小さい悲鳴をあげて扉が開くと「どーもー」とやる気のない声が出迎えてくれた。

 この組合の受付係をしているフロンデさんだ。服の襟元はよれよれで、だるそうにデスクに頬杖をつきながら目だけをこちらに向けている。


「こんにちは、フロンデさん……」

「んあぁ~……なぁに? 今日は一人なの?」

「えっと、こちらに園生くん来てませんか?」


 フロンデさんは「えぇ~……」と小声でぼやきつつ、デスクに両手を投げ出して顔を突っ伏す。

 私はちょこちょことデスクに近づきながら、室内を見回す。フロンデさん以外には誰もいないみたい。


「ごめん~、ぶっちゃけ今まで寝てたから自信ないんだけど……多分来てないかなぁ?」


 無精ひげを生やし、よれよれの服を着て覇気のない顔でフロンデさんが答える。


 受付係って一応、その組合の顔みたいなものじゃないのかな。そんなやる気がなさそうでいいのだろうか……。それとも、もっと人がたくさんいるときはきちんとしているのだろうか。


「でも、近部ちゃんが君を一人にするなんて何かあったの?」


 フロンデさんは今度は両手をぐうっと上に伸ばし、そのまま背中も伸ばす。

「くぁ~効くー……」と一人で言いながら首を回したり、簡単なストレッチをしている。背中からゴリッゴリッと、人体からなかなか聞こえてこないはずの音がする。


「何かあったというか……一緒に近くまで来てたんですけど、はぐれちゃって……」

「うっそぉ。いい年して何してんの~?」

「ぐっ……」


 だるそうにしていたフロンデさんが一瞬驚いて、私をまっすぐ見る。


「え……だって、ここら辺の町並みではぐれる要素、ある? 森の中とかならわかるけど……」

「……おっしゃるとおりです……」


 フロンデさんの言葉にただただ小さくなりながらうつむく。フロンデさんからふっと力が抜けるような笑い声が漏れた。


「やだ、そんなに縮こまんないで。面白いから」


 そ、そこはフォローを入れてくれるタイミングはないのかな?

 小さくなっていた私は更にがっくりと肩を落とす。気が抜けてしまった。


「それで? なんでも屋さんは今日は何の用事?」

「あ、そうだ! ここってトレジャーハンターの申請とかも受けてたりします?」


 危うく本来の用事を置き去りにしてしまうところだった。勢いよく顔をあげてフロンデさんに訪ねる。フロンデさんは首をかしげていたが、片方の口角をきゅっと上げた。


「うーんとねぇ~……」


 独り言のようにつぶやきながら、フロンデさんはくるりと私に背をむける。そのまましゃがみ込んで小さな棚をガサゴソ探っている。


 そんなところに棚なんてあったんだ。


 しばらく棚を漁り、いくつかの紙の束を周りに放って、他の束よりも少し薄い紙の束を持ってフロンデさんが顔を出した。

 他の紙の束と違って、年季が入った紙から比較的新しい紙まで綴られている。その束をバサッと乱暴に受け付けのデスクに置いて、パラパラと一枚一枚めくっていく。


「やっぱりコレだわ。これが、我が自由業組合が始まってから申請された『トレジャーハンター』たち」

「へぇ~……少ないですねぇ」

「そりゃ、トレジャーハンターなんて半分道楽みたいなもんだもの。普通に暮らしたいなら、まずやろうとしないでしょうね」


 そうなんだ。

「なるほどですね~」と相づちをうちながらトレジャーハンターの申請書類たちを見ようとする。


「ちょっとちょっと! 勝手に見ちゃダ~メ。何が知りたいの」


 フロンデさんはパッと書類を自分のほうへ引っ込める。


「えと……実は人を探してまして……」


 今回ここへ来た目的を説明する。私の覚束ない説明に、フロンデさんは腕を組みながら黙って聞いてくれている。


「それじゃ、その人探しの為にここに向かう途中で近部ちゃんともはぐれたってワケ? 頼まれた人探しの前に近部ちゃん探したら?」

「え、えと、そうですね……。でも園生くんならあとでも会えるので……」


 園生くんとなら、最悪現実世界でも会えるし、何なら改めてマイダの国に来たときにすずさんの宿で会える。

 だから今は少しでも情報を得たい。

 フロンデさんにお願いして、可能な限りおばあさんの息子さんであるバングルさんの情報を教えてもらった。

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