第34話 手掛かりはどこに
「それじゃ、クラトさんの情報を元に今後の方針を決めようか」
クラトさんがまとめていたおばあさんの息子さんについての情報を宿へ持ち帰り、園生くんと作戦会議をしている。
クラトさんの情報によると、おばあさんの息子さんはある日突然、かばん一つだけ持って出ていってしまったらしい。
その時には「戻ってくるから」と言っていたらしいけど、それから3年ほど経とうとしている。
クラトさんは、行方はもちろんだけど、もし難しいなら生死だけでもわかれば……と言っていた。
私たちは改めてクラトさんがまとめた情報を見返す。
おばあさんの息子さんの外見や声などの特徴をはじめ、失踪当時の状況、目撃情報のまとめなど細かくまとまっている。
「クラトさん、結構軽い調子で言ってたけど……これ……情報集めるの大変だったんじゃないかな……」
「ほんと……見かけによらないというか……すごくきっちりとまとめてあるねー」
園生くんは預かった紙束をゆっくり吟味するようにめくりながら、情報を細かく見ている。
「まずは、失踪時の状況から考えてみようか」
おばあさんの息子さんことバングルさんは、おばあさんと一緒に雑貨屋を営んでいた。
おばあさんが利益重視ではなかったので、バングルさんはお店以外にもトレジャーハンターのようなことをしていたらしい。
トレジャーハンターといっても、この街の周りでとれる薬草などがメインだったみたい。
「へぇ~……トレジャーハンターなんて職業もあるんだ」
「ここは仕事さえ就いていればいい所だからね、本人の申告で何にでもなれるんだよ」
何にでもなれる。
現実では、そんな簡単にトレジャーハンターだろうとなんでも屋だろうと選択肢には入らない。
そういった職業に就くには、しがらみが多すぎる。
そういう点では、申告次第でどんな職業にも就けるのは色んな意味で冒険が出来て楽しいだろうな。
実際、私もなんでも屋という現実ではまずやらないであろう仕事に就いている。
「そういえば、園生くんは本来は何の仕事してる人なの?」
「ん、僕?……何してそう?」
真剣な目でクラトさんの情報を見ていた園生くんの目は、一度満月のように丸くなってから三日月のような線を描いていたずらっ子の顔に変わってしまった。
頬杖をつきながら、上目遣いで私の様子をうかがっている。
「えぇ~……質問に質問で返さないでよ~……」
「律歌ちゃんが僕に興味を持ってくれた質問って少ないからさぁ。ついつい」
ついつい、という口は歌でも口ずさむように楽しげに笑う。
「……肉体労働ではなさそうだよね」
「律歌ちゃん……偏見がすごくない?」
「ごめん、何かイメージが……」
園生くんは少し苦笑いをしてから、またクラトさんの情報へ目を落とす。
「まぁ、僕のことは良いとして。バングルさんは自分の意志で飛び出したみたいだね~」
ほらここ、と園生くんが指を指した箇所には、バングルさんが失踪時に「すげぇ宝を見つけて帰ってくるから」とおばあさんに言い残して出て行ったとの記載があった。
「え、じゃぁバングルさんは自分の意志でおばあさんを置いて出て行ったってこと?」
「そうなるね。『宝を見つけて』って言うくらいだから、トレジャーハンターとして何かめぼしいものがあったのかもね」
宝を見つけて……まさか当てずっぽうに出発ということもないだろう。
「ねぇ、園生くん。トレジャーハンターも組合みたいなのがあるの?」
「……職業として数が少ないから、どうだろうね。あとで、組合に行って聞いてみよう」
「バングルさん、宝を見つけに行くのにどこからお宝情報を得たのかなぁ~って思って……」
「なるほどね、確かに。クラトさんもそこはノーチェックみたいだし、早速聞き込みに行ってみよう」
そうと決まれば早速行こう!と、園生くんが席を立つ。
まずはトレジャーハンター達の情報を取り扱っているところを探すため、宿からマイダの国の中心地へと向かう。
すずさんの宿を出るときに、タイムが付いていきたいというように私たちを見上げて小さく「わんっ」と鳴いた。
「すぐ戻ってくるから待っててね」
「くぅ~ん……」
今回はちょっと情報を集めるだけなので、タイムにはお留守番していてもらおう。ピンと立った尻尾が寂しそうに垂れ下がる。
心の中に小さな罪悪感を持ちながら、先を急ぐことにする。
私よりも、マイダの国にいる期間が長いであろう園生くんもこの国にある職業すべてを把握している訳ではないという。
「えーだって何にでもなれるんだもん。思いついた数だけ職業あるんだよ? 把握なんてムリムリ」
「そうなんだ、でもどこか取りまとめてる所があるよね」
園生くんは腕を組みながら、視線をあちこちにやる。
「確かに。職業が決まったら申告するしね。どっかでまとめてるよねー」
こんな調子でクラトさんからの依頼は無事に達成出来るのかな……。
少しだけ弱気になりながら、園生くんとマイダの国の中心地へ向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます