第19話 不運を私に
「……ついてないな……」
僕は誰に言うでもなく小さくボヤいた。
律歌ちゃんやすずさんを心配させないために今日の用件は話さずにここまで来たのに、まさかまた向こうまで戻る羽目になるとは……。
建物についている窓にはカーテンがひかれ、僕たちがいる室内はテーブルごとにランプが置いてある。
ランプはオレンジ色で室内を灯すが、その明るさは同じテーブルについた人間の顔や服装が判別する程度の明るさだった。
千庵に聞いたところ、人を遠ざけたいときにはカーテンをしめて存在感を消すのだそうだ。
……これ、足元が見えなくて席につくまでにつまずく人が出てるよな。
「……って」「あだっ……」
なんて声が早速建物の入口からテーブルに着こうと歩いている人たちから時々漏れている。
今回の件で協力してくれるという組合の人たちが、ぞろぞろと組合にやってきたのだ。
みんなどっかにつまずいてるなら照明を少し変えればいいのに……。
僕がぼんやりとしている間にも、自警団組合の長である千庵は今回の作戦を説明してくれる。
「今回の作戦はこうだ」
組合に登録している中から手の空いている者を集めて出没予想地区を徹底的に回り、見つけ次第捕縛する……単純明快な作戦だ。
……穴があるくらい単純な作戦みたいだけど大丈夫なのか?
僕の不安が顔に出ていたのか、副長である
「んもぅ〜、千庵は説明がラフすぎるよ〜。それじゃ、逃げられちゃうよ〜」
「ぁあ!?」
安慈のあの一言多いのはわざとなのだろうか?
安慈は千庵と比べるとあまり筋力はなく自警団に向いていないような外見だが、自警団組合の副長をやるだけあり頭のほうは相当キレるという話だ。
今まで千庵とばかり接していて安慈の実力は目にしていないが、千庵が本気で怒っていないところを見ると信頼しているのだろう。
千庵の説明だけでは不安しかなかったが、安慈の説明によると集まった人間を5つのグループに分けて地区を5つに区分けした中を同じ方角へ一斉にパトロールする。
相手が二人組なので、こちらもグループは4,5人にする。
その中から更に細かく分けるかはグループ長に判断させるが、最低二人一組は守ってもらう。
それでも脇道に入られる危険もあるが、そこは他のグループとも連携を取りながら臨機応変に対応する形のようだ。
マイダの国にはスマホや携帯電話などの便利なものは普及していない。
そのため、各グループの連絡手段として緊急用ホイッスルやハヤブサ、ハヤブサより小型のハリオアマツバメ、その他急ぎでないものは伝書鳩を使うこともあるらしい。
何とも通信手段がレトロだな、と思うけど自警団とこれだけの連絡手段で今まで済んできたのだから僕が本来いる現実世界と比べるとかなり平和なのだろう。
平和なのだろうとは思うけど、自分の身近な人に被害が出たとなると話は別だ。
些細なことだろうとなんだろうと放ってはおけない。
ましてや、この世界に初めて入ったときに話した小生意気なガキンチョから律歌ちゃんのことを頼まれているので尚更だ。
「……ということで、千庵と園生くんは同じグループでいいかな〜?ボクは別グループで指揮を取らせてもらうね〜」
少し考え事をしている間にグループ編成の話までしていたようだ。
もうグループ編成は出来ていたようで、あとは僕をどこに入れるかの調整だけだったようだ。
各々所持品や装備品の確認をしたら、他の自警団の人たちとも合流していよいよ作戦開始だ。
自警団でみんなに可愛がられているという真っ白い文鳥が、室内を飛び回りながら僕たちを鼓舞するかのように「ピピピッ!」と鳴いた。
◆ ◆ ◆
「いやー、人が一人いてくれるだけでこんなに楽になるなんてねぇ!」
「大したこと出来なくて足手まといになってないでしょうか……」
私はすずさんと一緒にご飯を提供しているスペースの片付けをしていた。
園生くんに置いていかれてしまった私は今日一日、すずさんの宿屋の手伝いをすることにしたのだ。
宿屋内の清掃をはじめ、すずさんの宿屋には利用客以外にもご飯だけ食べていく人や道を聞くために立ち寄る人など、様々な人が訪れることがわかった。
こんなに色々な人が立ち寄るとは思っていなかったのと、まだ道案内出来るほど地理を把握していなかったので、本当に手伝えた仕事なんて雑用くらいだった。
これが園生くんだったら、もっと色々出来たんだろうな……とつい比べてしまい一人落ち込んでいると、一人でご飯を食べに来ていた
「そういや、知ってっかい?今日はここらへんを自警団の奴らが重点パトロールするってぇ話らしいな」
「へぇ〜そうなのかい?ここらへんはそんな治安が悪いわけじゃないだろうに……どうしたんだろうね?」
「さぁなぁ〜。でも結構大掛かりらしいな、相当招集あったってぇ話だぞ?」
すずさんとおじさんの話を聞いていて、背中にぞくぞくと寒気が走った。
体が男たちに襲われたことを思い出し、少し震える。
男たちに襲われたことはすずさんには話していない。実際に被害はなかったし、護衛も護身術も身につけていない私の落ち度を気にするプライドが邪魔をして素直に報告出来ずにいる。
すずさんも特に泣いていた理由を聞いたりしてこないので、その心遣いに甘えてしまっている。
「その自警団の方たちはいつも場所を決めて重点パトロールしてるんですか?」
「んぃや。いつもは当番の人間がぐるーっと全体を見回っとるだけだで……なんでそんな大掛かりなことすんのか不思議よ」
「まぁ、自警団の新しい試みかもしれないし、それで安全が保たれるならいくらでもどうぞ!って感じだわね」
他にお客さんもいなかったので、おじさんの話をきっかけに私たちは雑談に花を咲かせていた。
10分ほど話し込んでいただろうか、入り口がギィという音を出して開いた。
「あ、お客さんかな?いらっしゃ……」
「おぅ。俺たち腹減ってんだよ。メシ食わせてくれや」
「あ、あぁハイハイ。こちらの席でいいかい?」
すずさんが荒くれ者のような外見の男二人組を店内に案内した。
その二人組は店内を見回しながら席につき、二人で顔を見合わせてニヤニヤと気味悪く笑っている。
その男たちは危険だ!と、すずさんに真っ先に伝えないといけなかったのに、私の体は恐怖に震えて言うことを聞いてくれなかった。
あの時、襲ってきた男たちが客としてすずさんの店に来てしまったのだ。
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