第2話 異世界転移しちゃう?
そもそもここはどこなのだろうか。そして私の手を引いている彼は誰なのだろうか。彼に手を引かれながら、頭の中で状況と記憶を整理してみる。
私、
毎朝、満員電車に揺られながら出社し、定時上がりを目標に仕事に取り組むも定時間際になって仕事を頼んでくる上司、詰まってにっちもさっちもいかない状態になった案件を持ってくる後輩の泣きそうな顔に負けて手を貸しては終電ダッシュをする毎日。
おかげでパンプスはヒール部分の消耗が激しく、化粧は崩れたままで肩まである髪も無造作に後ろで束ねているだけ。平日めいっぱい働いていると休日は疲れてしまって寝て1日が終わる……なんてこともザラ。
こんな彼女を見た彼氏には幻滅され、2週間前にフラれた。
昨日の夜も、華金だと浮き足立つサラリーマンをよそに来週明けに必要になる資料を作成し、電車に飛び乗った。
帰りにいつも寄るコンビニで、1週間頑張ったご褒美に濃いめのレモン缶チューハイと新作の黒蜜ときなこクリームのシフォンケーキを買った。
眠そうな目をした店員にレジを打ってもらい店を出る。親近感の湧く店員に「お仕事お疲れ様です」と心のなかで労りながら、家までの道をのんびり歩く。
街灯に照らされた葉桜ばかりの帰り道に彼女以外の人の姿はなく、ボロボロのパンプスがカツカツと音をたてて淡いピンクの花びらが残っている通りを過ぎていった。
「ただいま〜」
誰もいない真っ暗な部屋に向かって声をかける。小さくため息をつきながら部屋の電気をつければ、ごちゃごちゃした室内が飛び込んでくる。
冷蔵庫の扉につけたホワイトボードには〈燃えるゴミを出す‼〉と大きく書いてあるが、今週も出せずじまいだった。まとめてあるゴミ袋が虚しくベランダに転がっている。
そのベランダには2,3日前から干しっぱなしになっている洗濯物と、乾いたものから取り込んでそのまま着ているため歯抜けになったピンチハンガー。
シンクは綺麗な状態で、自炊を頑張ろうと買った鍋にはうっすら埃が積もっている。
「少しは片付けないとゴミ屋敷になっちゃうなぁ…」
小さくぼやきながら朝、身支度を整えるためにテーブルに広げてあったメイク道具を適当に端に寄せ、買ってきたチューハイとスイーツを広げる。
スマホで簡単にニュースとSNSのチェックをしつつ、かなり遅い晩酌を始めた。
SNSで友達の結婚報告におめでとう!とリアクションをつけながら乱暴にチューハイを煽る。
親からは結婚を勧められるが、今すぐ結婚したいわけじゃないし今の時代は結婚だけが全てではない。けれど、30代を目前に彼氏がいない現実はちょっとした焦りを感じさせる。
このままバリバリのキャリアウーマンになりたいわけでも、なれるわけでもなく残り少ない20代の日々を社畜として流されてしまっていいのだろうか。
こんな時はいらないことまでうだうだとネガティブ思考になってしまう。明日は1日予定もないのだ、溜まった家事をこなしてちょっとオシャレなカフェで優雅にランチでもしようか…
「…確か話題のカフェが出来たとか…」
1週間の疲労が溜まった体にアルコールが効いたのか、ぼそっとつぶやいた時には夢の中へ誘われていた。
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