2週間で夢を見つける方法

たい焼き。

第1話 少女マンガにありそうな出会いかた

「うぅ〜体が痛いぃ……」


 いつの間にか、カフェテラス席でテーブルに突っ伏して眠ってしまっていたようだ。

 木で作られたテーブルとイスは使い込まれていてクッションなどなくても体に馴染む。きっとここでたくさんの人に利用されているのだろう。テラス席には機能性と可愛さを兼ね備えたデザインのオーニングがついており、ゆっくりお茶をするのに良さそうだ。


 それにしても、外でぐっすり寝てしまうなんて油断しすぎだ。

 いくら海外と比べて比較的治安のいい日本でも、周りの目を気にせず熟睡してしまうなんて荷物を盗まれても文句のつけようもない。


 縮こまっていた体を大きく伸ばして、周りをキョロキョロと見回す。

 街を行き交う人々を見れば、誰もが活き活きとして通り過ぎていく。歩道が石畳となっていてこのテラスの木製家具との相性もよく、何とも写真映えしそうな場所である。

 格好も随分とラフだ。近所のコンビニならともかく、上下ともに無地のシンプルなシャツとスカートでこんな洒落たカフェには来ない。

 誰に会うかわからないような場所で、気の抜けた格好は出来ない。あとでどんな噂をたてられ、話のネタにされるか……想像しただけで体が小さく震える。


「おーい、嬢ちゃん。そこにいるのはいいんだが、うちの商品を買ってくれないと困っちまうんだよなぁ〜……ご注文は?」

「ふぇっ⁉」


 急に後ろから声をかけられて思わず変な声が出てしまった。振り向くと体より少し小さめのエプロンをしたマッチョ体型のおじさんが腕を組んでこちらを見下ろしている。

 びっくりして固まってしまった私に、おじさんはもう一度ゆっくりと子供に言い聞かせるようにして注文を聞いてきた。


 「あぁ……と、じゃぁ」


 テーブルの端に寄せてあるメニュー表を見ると『コーヒー 350モネ』『ミルクコーヒー 400モネ』が見えた。

 モネって何!?お金?いやいやモネなんて持ってないし、どこの国の通貨よ?

 ていうか、ここは日本じゃないの?ココはどこ?

 日本じゃないのにどうして言葉が通じるの!?

 訳わかんないし、下手に注文なんてできないよ!


 完全にパニックになり目の前のおじさんにしどろもどろで答えると、おじさんが眉を寄せて訝しむような表情でこちらを見ている。それを見てさらに慌てた私が言い繕おうとしていたら、今度は歩道の方から大きな声が近づいてきた。


「ごめん、ごめん!お待たせー!そこでおばあちゃんの荷物運びを手伝ってたら、茶でも飲んでけって捕まっちゃってさー!マスターもごめんなー!今急いでて!今度はちゃんと買いにくるから!」


 声の主は早口で捲し立てると呆気に取られていた私の手をとりその場から離れ始める。さっきまで私のことを訝しんでいたおじさんも声の主を見ると、表情を崩し肩をすくめる。


「おい、近部こんべ。次はちゃんとうちでお茶してけよー!」

「わかってるって!じゃぁな!」


 そう答える声はもう遠くへ消えていこうとしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る