第13話 旧賢聖、来襲す

「……間違いねぇんだな、ジルフ?本当に……中の死体は、あの大臣派の連中だったんだな?」

 洞窟の中の惨状を聞き、流石にモルドも若干動揺した様子でこちらに聞いてくる。


「あぁ。見覚えのある法衣だったからな。……それに、国で見かけた顔もあったから、間違いないだろう」

 亡骸の中に、国で見知った顔の面子を何人か確認した。

 ……その誰もが全員、苦悶の表情を浮かべて絶命していたことは、三人には話す必要もないので伏せておく。


「それで……その中には、アイツ……大臣はいたの?」

 中で死んでいるのが大臣と共に国を出た連中と聞いて、気になっていたのだろう。フォルが聞いてくる。


「……いや、中で倒れている連中を全て確認したが、その中にはいなかった。仲間割れなのか、あるいは……おいラキア、大丈夫か?顔色、相当悪いぞ。無理しないで休んでろって」

 そう言うものの、力無く笑いながらラキアが答える。


「……いえ。お気遣いありがとうございますジルフさま。大丈夫ですので、お話を続けてください」

 気丈に答えるラキアに、これ以上無理はさせられないと思いつつも、ひとまず会話を続ける。


「分かった。聞いていて途中でキツかったらすぐ横になって休んでろよ。……中の連中は全員、心臓を抉り取られて死んでいた。俺はそっち方面の呪術関連は詳しくないから確証はないが、先程のトロルやオーガの死骸のことといい、何かしらの儀式のための触媒に人間の心臓が必要で、そのために殺されたのは間違いないだろう」


 洞窟の中心の魔法陣といい、間違いなく良からぬ儀式が行われたことは確定している。問題は、それによって何が生み出されたかということである。

 触媒によって、いわゆる精霊や悪魔を呼び出す『召喚の儀』を行ったか。

 あるいは、自身の身に付けている魔術具のような、魔力を込めたアイテムを何かしら錬成したのか。


 錬金や召喚、降霊術の類は苦手なこともあり最低限の知識しか無いため、それらを触媒にして何が生み出されたのかは自分には想像も付かない。

 少なくとも、人間の心臓を要する時点で『外法』と呼ばれる類のものであることは間違いない。床に描かれた魔法陣は、自分が今までに見たこともない紋様だった。


「……とにかく、ここで何らかの良からぬ儀式が行われて、その連中がここにいないってことは、お目当てのものを作れた、あるいは生み出したのは確定だろうな」

 それが誰かは分からないが、あの中に大臣がいなかったということは少なくとも大臣、あるいは大臣の息のかかった連中というのは間違いないだろう。


「……ここからは街に向かうまで、警戒レベルを最大にして向かう必要があるな。用心して進もう。……っと、その前にやっておかなきゃいけない事があるな」

 三人に少し離れてもらい、洞窟の入り口に立つ。手を合わせ一瞬だけ黙祷し、岩肌に手を当てて詠唱を唱える。


「……『地振撃』!」

 自分の手から衝撃が放たれたと同時に洞窟の入り口部分が崩れ、完全に塞がれたのを確認する。


 ウェリズに戻ったら使いを出し、改めて埋葬の手配を依頼することにする。

入り口を塞いでおけば、中の亡骸を生き残りの魔物や野生動物に食い荒らされることもないし、腐敗の進行をある程度食い止められるだろう。

「これで良し、と。ラキア、気が進まんだろうが……」


 そう言う自分を制し、ラキアが洞窟の前に立つ。

「いえ。大丈夫ですジルフさま。生前の彼等の行いに思う事は多々ありますが、このようになってしまった彼等に対しては、私も責務を全うさせていただきます」

 そう言ってラキアは胸元のロザリオを手にし、目を閉じて死者への祈りを捧げる。


「……召されし者たちよ。汝らの魂が、せめて正しき道へ導かれんことを」

 ラキアの祈りに合わせて改めて黙祷する。フォルとモルドも目を閉じ黙祷する。


「……よし。連中はウェリズに戻り次第報告して、改めて埋葬してもらう事にしよう。じゃ、改めて街を目指すとするか」

 自分の言葉に三人も頷き、再びストラト・シティを目指して歩みを再開する。

 歩きながらも先程目の当たりにした光景を思い返す。


 ……何故、あのような事が起きたのか。

 国を追われ、ウェリズから都落ちしたにせよ、誰があのような凶行に至ったのか。

 大臣があの中にいないと言うことは、やはりあれを行ったのは大臣なのか……。


 歩みを止めずに思考を張り巡らせていた、その時。

「避けろっ!!」

 そう叫んだモルドの声が聞こえると同時に、瞬時に横に跳ぶ。


 次の瞬間、先程まで自分たちが居た場所のあたりに火球が炸裂し、爆発音と同時に土埃が舞う。

 追撃に備えながらも、三人の様子を確認する。煙が舞い上がっているため視界が定まらないが、どうやら三人とも無事に回避しているようだ。


「ふん。流石にこの程度では牽制にもなりませんか」

 煙と土埃が収まり、開けた視界の先には見覚えのある一人の男が立っていた。


「……お前は!」

 黒い長髪を後ろに束ね、一つに結んだ髪型に、狐を連想させるようなつり目をした長いローブ姿の男。


「お久しぶりですね、御三方。そして、ジルフ殿」


 ……その男の名前は、シカターハ。

 かつて自分に代わり、『賢聖』となったはずの男であった。

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